第22話 **「晴れやかな忘れ物」**
朝から雲ひとつない青空。
喫茶リセットの窓辺には、やわらかな陽射しが差し込み、カウンターのガラス器がきらりと光っていた。
カラン――。
扉のベルが鳴り、小柄な女性が息を切らしながら入ってきた。
「す、すみません! 昨日こちらに忘れ物を……」
差し出されたのは、名刺入れ。マスターがカウンター下からそっと取り出すと、女性の顔がぱっと明るくなった。
「よかった……。大事な名刺入れで。中に父からもらった手紙も入ってて……」
女性は胸にぎゅっと抱きしめた。
「見つかってよかったですね」
マスターはコーヒーをすすめる。
「お礼に一杯いただきます。……あ、今日は本当に晴れてますね」
彼女はカップを手にしながら、窓の外を見た。
「実は今日、新しい職場に初出勤なんです。昨日は緊張しすぎて、名刺入れをここに忘れて帰っちゃって……」
マスターは微笑む。
「緊張は、新しい扉を開く合図みたいなものですよ。晴れの日に忘れ物を取りに戻る――それもまた、いいスタートかもしれません」
女性は少し考え、ふっと笑った。
「そうですね。……父の手紙も、きっと“背中を押すために”ここに残ってくれたのかもしれません」
彼女はコーヒーを飲み干し、軽やかな足取りで店を出ていった。
カラン、と扉が閉じる。
マスターはカウンターを拭きながら、空を見上げて小さくつぶやいた。
「忘れ物も、時には未来への道しるべになる」
外には、夏のようなまぶしい青空が広がっていた。
―――




