表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
喫茶リセット 〜今日も、誰かの心をそっと整理します〜  作者: 蔭翁


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/31

第17話:変わらない味




 木曜の午後、ゆるやかに時間が流れる“喫茶リセット”。

 ドアが開き、小さな背中の女性が入ってきた。ショートカットにスーツ姿、肩に新しい通勤バッグ。


 マスターが微笑んで迎える。


 「お久しぶりですね」


 「……覚えていてくださったんですか」


 彼女は驚いたように笑い、いつもの窓際の席に腰を下ろす。


 「前に来たのは、就活中でした。あのときは、毎日面接に落ちて、ここで泣きそうになって……」


 彼女はそう言いながら、手帳をテーブルに置く。そこには新しい会社名と、ぎっしり詰まった予定。


 「明日から初出社なんです。でも、すごく怖いです。“社会人”って、自分じゃない誰かにならなきゃいけない気がして」


 マスターはふっと笑みを浮かべながら、カウンターの奥でコーヒーを淹れ始めた。


 「変わるのが怖いときこそ、変わらないものが一つあると、安心できますよ」


 そう言って、静かに差し出したのは、前に彼女が飲んだときと同じ、ほんのり甘いカフェオレ。


 「お味、変わっていませんか?」


 彼女は一口すすると、目を細めてうなずいた。


 「はい。変わってません。なんだか……うれしいです」


 窓の外では、春から初夏へと季節が滲みはじめていた。

 彼女はカフェオレを飲み干し、立ち上がる。


 「また、来てもいいですか? ちゃんと“変われているか”わからなくなったら、ここに寄り道して」


 「もちろん。ここは、変われない人も、変わろうとしている人も、どちらも歓迎ですから」


 新しい靴が、ゆっくりと歩き出した。

 “変わらない味”が、そっと背中を押していた。



---



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ