第13話:まだ途中の地図
閉店前の静けさが漂う“喫茶リセット”に、一人の青年がふらりと入ってきた。
背中にはくたびれたリュック、手には折りたたまれた一枚の紙。
「……地図ですか?」とマスターが尋ねると、青年は苦笑しながら答えた。
「ええ。自分で描いた旅の地図です。いろんな夢を追いかけた、足跡というか……でも、ほとんどが途中で消えてます」
広げられた地図には、線があちこちでぷつりと途切れていた。
「中途半端な人間なんです。何もやりきれないまま、今日ここに来ました」
マスターは静かにコーヒーを淹れたあと、棚から一冊の本を取り出した。
『未完の記録たち』と書かれた、誰かのノートだった。
「これ、昔のお客さんが残したものです。“未完成であることが、自分の可能性の証だ”って」
青年は本のページを一枚めくり、そこに走り書きされた言葉に目をとめた。
>「夢を途中で終える人より、“途中に立ち止まっている人”の方が、ずっと強い」
青年の指が、わずかに震えた。
リュックの奥からペンを取り出し、地図の空白に、線を一本――静かに描き足す。
「……もう少しだけ、旅を続けてみます。まだ終点じゃない気がしてきました」
「はい、どうぞ。途中のままで、またお越しください」
コーヒーの湯気は、ほんのりと甘く香っていた。
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