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喫茶リセット 〜今日も、誰かの心をそっと整理します〜  作者: 蔭翁


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12/29

第12話:もう一杯ぶんの時間



 日曜の午後。

 窓の外では、風が春の名残をかき混ぜるように吹いていた。


 その日、“喫茶リセット”の店内には、珍しく二人組の客が座っていた。

 向かい合っているのに、どこか気まずい空気。互いに言葉を選びながら、ぎこちなく笑っていた。


 マスターがテーブルに紅茶とカフェオレを運んでくる。


「お久しぶりなんです。大学以来、十年ぶりで」


 そう説明したのは、先に来ていたほうの女性。


「でも、最後の会話が……ちょっと、ね。喧嘩別れみたいで」


 もう一人の女性がうつむいた。


「謝ろうとしたけど、連絡先もなくしてて。それで、今日たまたま…この店でばったり」


 マスターは頷き、静かに言った。


「コーヒーや紅茶には、不思議なことがよく起きます。“淹れる”という言葉には、“縁”が入ってますから」


 二人は思わず笑った。

 そこからは、ぽつりぽつりと話がほどけていった。あの頃のこと。ぶつかった気持ち。言えなかった本音。


 やがて、カップが空になる。


 「そろそろ…帰る?」


 「……ううん、もう一杯だけ飲んでいかない?」


 マスターは静かに微笑んで、ポットを取りに奥へ消えた。


 そして、誰にともなく小さく呟く。


「もう一杯ぶんの時間が、人を結びなおすことがあるんです」


 窓の外、風は少し穏やかになっていた。




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