公爵令嬢の失踪とその影響
レスタニア王国で『ある騒動』が起こった。
エレンバシア公爵家の長女でありレナード・レスタニア王太子の婚約者であるエミリア・エレンバシアが突如行方をくらましたのだ。
将来の王太子妃として城で教育を受けた後、そのまま実家に帰って来なかった。
しかも、国が失踪に気づいたのはエミリアがいなくなってから1週間後、いつもの時間にエミリアが登城していない、と報告を受けた宰相が公爵に連絡したところ、屋敷の人間が誰もエミリアを見ていない事に気づいたのだ。
すぐに捜索が始まったが国内を探し回ったがその姿は見つからなかった。
捜索を担当した兵士入っていたまず誘拐の可能性を疑ったが公爵家には脅迫の手紙は来ていなかった。
ならば自主的に失踪したのではないか、と思いここ最近のエミリアの行動を調べたが特に怪しい部分は無かった。
ではエミリア周辺はどうだったのか、エミリア付きのメイドに話を聞いた。
最初、彼女は言い淀んていたが『……いずれこうなる事はわかっていました』と言いメイドはエミリアについて話し始めた。
それは公爵令嬢とは思えない壮絶な過去だった。
エレンバシア公爵夫妻は所謂『仮面夫婦』だった。
お互い愛人を持ち隠し子もいてドロドロの状態だった。
そんな状態の中、生まれ育ったエミリアは奇跡的に真っ直ぐで心優しき少女に育った。
それはエミリアに全く興味の無い両親に変わり乳母やメイド達が愛情を持ってエミリアを見守り育てていったからである。
そして、エミリアが10歳の時にレナードとの婚約が交わされたのだが……。
「正直な話、エミリア様はレナード様との関係は上手くいっていない、と見えました。 エミリア様はレナード様とのお茶会の後はいつも落ち込んでおりました」
「落ち込んでいた? お茶会で何があったのですか?」
「私は付き添ってはいませんのでわかりませんが『また怒らせてしまった……』、『私の何が悪かったのかしら……』と呟いておりました」
兵士は城のメイドにも話を聞いた。
「……大きな声では言えませんがレナード様はエミリア様との婚約を良くは思って無かった様です。 親が勝手に決めた婚約ですから明らかに不服そうにしていて……、正直いつ関係が破綻してもおかしくは無かったです。 それに王太子妃教育も幼い少女には厳しすぎますよ。 外交から内政まで全てを叩き込んでいましたからね」
「……マナーならともかく政治的な話は確かに早すぎる、宰相様に進言しておこう」
「それと最近の話ですがレナード様には他に好きな方が出来たみたいでして……、なんでもエミリア様の義妹だそうで……、よりによってエミリア様の身内に夢中になってしまうなんてエミリア様が可哀想ですよ」
「……というのが調査の結果です」
兵士はとりあえず宰相に報告を出した。
報告書を見た宰相は眉間にシワを寄せていた。
「これは……、エミリア嬢の周囲には味方がいない状態だったのか」
「私も調べるにつれてよく辛くなってきましたよ」
「エレンバシア公爵に関しては公爵としての品位を疑うな、国王様にお伺いを立ててみよう、レナード様にも原因があるとなると王太子の座を考え直す必要があるな」
宰相はすぐに国王に報告をした。
国王は自らエレンバシア公爵夫妻を呼び出し問い詰めた。
そもそも自分の娘がいなくなったのに気が付かなかったのは問題だし、余りにも人間関係がグチャグチャしていて公爵としての品位を損なっている、と断罪した。
結果、公爵夫妻はその身分を取り上げられる事になり隠居に追い込まれた。
公爵夫妻と関係があった者達もそれなりの処分を受けた。
特にレナードに手を出そうとした義妹は人間性に問題があり、と判断され規律が厳しい修道院に送られる事になった。
そしてレナード王太子は国王夫妻に厳しく叱責され王太子の身分を取り上げ国境沿いの部隊に派遣される事になった。
国王曰く『妻となる人物を幸せに出来ない者は国民を愛するとは思えない、将来愚王になる可能性が高い』との事だ。
レナードは泣き喚いたが決定は覆ら無かった。
こうしてエミリアを苦しめていた人物達は処分をされたがエミリアの行方はわからずじまいだった。
そんな彼女がひょっこりと姿を現したのは失踪してから1年後の事だった。