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虹の果てまで  作者: 灯台
第一章 胎動
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第6話 悪勘



「結構人多いんだな…エルティエ」



フェート村を発って二日、この辺りの地域でもっとも交通の便がいい港町のエルティエに到着した。元からまずはここを目指す予定でいたので、野宿も合わせて二日程度で来れたのはいいペースだった。


途中で数回凶暴化した野生生物と会敵したが傷なく退ることができたのは自信になった。フォルト山でも野生生物の討伐はやっていたが、誰の助けもない状況下で臨むとなると一度目は流石に緊張する。


一人ということ、俺がフェートであることを存分に生かした結果、街道を歩くと五日かかる行程を半分以下に縮めることができたのだ。



「さて、情報収集の前に身だしなみだな。今日の宿をもう取っておこう」



トールおじさんの教え【傭兵は誠実であれ】を思い出す。傭兵とはつまるところ"使い捨ての駒"だ。好きな時に使え、要らなくなったら指先一つで捨てられる。それを良しとして仕事をするのが傭兵だ。


だが用途によってはどの駒でも良い訳では無い。


身だしなみの整っている傭兵、マナーや礼儀作法を心得ている傭兵、舞踏会で踊れる傭兵…そういった依頼は野蛮な武闘派傭兵には触れる機会もない。そしてその要素を持ち合わせた上で戦闘行為を行える傭兵を求む依頼が存在する。傲慢ではあるが依頼者は大体が上流階級なので報酬にはかなり期待できる。専門にして気がつけば自分も上流階級になっているという傭兵もいるそうだ。


つまり仕事が欲しいなら身だしなみ程度は整えろということだ。傭兵だろうが一般職だろうが、現代においてイメージというものは少なからず見られている。



「うーん…小銭はあるから普通の宿なら大体泊まれるけど、この先のことも考えたら安くて風呂もあるところがいいな」



数件宿を見て回り、港に隣接している宿にした。

先に1泊分の支払いを済ませて少ない荷物を部屋に置きに行くと、二階の一番奥の部屋から軽い揉め合いの声が聞こえてきた。



「だから部屋の中にまで入ってくんなよ!プライベートだろ!?」


「ですので外でお話を聞かせて頂けませんか?第一発見者の方に聞かないわけにはいかないんです」


「なら明日にしろよ!こっちは見たくねぇ事件なんて見て疲れてんだよ!」




何か起きたらしい。それに片方は捜査官だろうか?聞き取りを行いたいがタイミングが悪い様子だ。



「あの…何かあったんですか?」


「あ、ほら見ろ!他の部屋の人が!すいませんうるさくしちゃって」


「いえ、今チェックインしたところです。それで事件とかって聞こえましたけど」


「昨日の夕方に起きた傷害事件について捜査しています、【アルカ・シエル法理機構ゾーラ】のベネッタと申します」



部屋の主は40代に見える男性、捜査官は30代くらいの女性だ。

傷害事件…切りつけや喧嘩騒ぎか?昨日の夕方ってことはまだ発生して間もない。情報は新鮮なうちにってことだろう。



ここでヴェルの頭には関わらないという択と恩を売っておくという二つの択が浮かんだ。まだ自分は傭兵としてエレインに登録すらしていない。どうせ明日登録のため支部に向かうのなら協力するとしても明日からでいいのではないかと。




「もし自分でよければ何か手伝わせてください。多少の荒事なら手伝えます」




だが彼が長年の村暮らしと修行の日々で溜め込んでいた好奇心や、母親に似たお節介を抑えることは叶わなかった。



────────────────



「…つまりこの街の裏路地で闇取引が行われてて、それを目撃したであろう被害者が流血して倒れているのを見つけたのがそちらの方ってことで合ってますか?」


「はい、合ってます。なので第一発見者のあなたに事情聴取を行おうと思ったのですが…」


「もう見たもんは全部話したよ。血なんて見るの苦手なのに、この話を何度もしろって言われたら普通いやになるだろ!」


「ご、ごめんなさい…私、被害者のためにちゃんと真実で裁かなきゃって焦っちゃってて…」



言い合いの顛末はこんな感じだった。

虹の司法を司るゾーラの捜査官が少し暴走してしまったので発見者が迷惑に感じたと。



「それなら一度事件現場に戻ってみませんか?まだ調査は続いているんですよね?」


「え、ええ」



ベネッタさんについて行く形で発生場所に向かう。

道すがら虹のことを聞いてみよう、何かレナの動きについて聞けるかもしれない。





「ベネッタさんはゾーラの捜査官を務めて長いんですか?」


「あ、いえ、私はまだ捜査官試験に合格したばかりでして…」


「でも捜査官試験って難しいんじゃないですか?すごいですね」


「まぁ…ですが最近は志願者も減っているので倍率も低いんです」


「なるほど。他の機構もそうなんですか?」


「わからないですね、私あんまり他の機構の話を聞く機会がなくて…【通商機構シールズ】が武器の闇輸出の増加に対処しているとかは報道されてますけど」



まぁそう簡単に情報は手に入らないか。

時間はかかるがやはり世の中の上の人間に接触する方がいいな。高価で希少な情報は凡人階級まで下りてこない、トールおじさんの教えは本当に役に立つ。


そう口先と頭の中で別のことを考えていると、ベネッタさんが曲がり角を曲がった。どうやらここらしい。



「この先の路地です。もしかしたら捜査に進展があるかも…」




「があぁぁぁ!?」




突如男の叫び声が路地に響いた。

何か嫌な予感はしていたが…当たってほしくはなかったな!



「すぐに大通りに引き返せ!俺が戻るまでここには来るな!」


「へ…?なに…あ、ちょっと!?」



俺はギアを戦闘体制に切り替え、声のアタリをつけながらトップスピードで路地を駆けていく。


やはり犯人は戻ってきていたのだ。

こんな人の多い街で、目撃者がいて、捜査官が動いている…何かの陽動行為だろう、本来の目的はこの事件じゃない。もしかしたら傭兵が動いているのかもしれない。



血を流して倒れている捜査官の男が2人いる。

倒れてはいるが、意識はあるようだ。



「止血だけ行います!犯人はこの奥ですか!?」


「うぅ…すまない、奥に行った……」

「助かる…ナイフだ、暗器持ちかもしれん…」



「通りまで声は聞こえてますから、人は来ます!」




救助が来るであろうことだけ最後に伝え、すぐに追跡を再開する。

行き止まりに出会ったが、勘に任せて左右の住宅の壁を蹴って屋上に上がる。



縁を飛び越えた瞬間、眼前に針が二本飛んできているのが見えた。


咄嗟に腰の剣の鞘で受ける。

弾かれた針が屋上の地面に落ち、小さな金属音を立てる。




視界の先には少し重みを見せるコートを羽織り、シルクハットを被った男が立っていた。



【虹の司法】

アルカ・シエル法理機構ゾーラ


アルカ・シエルの司法を管理する機構

世界連合統一機関である虹は、治安維持を軍事機構だけでなく司法の観点からも統制している

世界の実権を握っていると思われがちだがしがらみは多く、その実は動き出しに手続きが多すぎる事が問題視され始めている

七色規律(セブンスコード)の遵守が組織命題

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