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虹の果てまで  作者: 灯台
第2章 鼓動
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第36話 足並み



いつにも増して物々しい空気が漂う円卓。

この空気の淀みに物怖じするような面子では無いが、どうにもやりにくさを感じる者は多い。



「では本日の局長会議は以上とする。みな、いつもありがとう」


「ちょっと待て、ウェイド」



議長のガイルの締めで会議が終わり、立ち上がったウェイドを引き止める声が部屋に響く。



「テーグさん、何か?」


「アイリスのその後の行方はまだわからんのか?」


「ええ、残念ながら。制服の自己修復術式発動キーが落ちていたので生存はしているでしょう」


「オニール隊からの報告は?」


「足取りを追わせてはいますが、なにぶん情報が少なすぎるとのことで難航しています」


「…そうか、わかった」



少し覇気を滲ませながら【断崖】が問い続けるが、【豪炎】の名に似つかわしくない冷淡な言葉が返ってばかり。



「心配されてるんですよねテーグさん?王都戦の前にイヴに指南してらっしゃいましたし」


「私はアルカ・シエルの求心力の柱である【天光】の不在が及ぼす影響を危惧しているのだ」


「それならテーグさんの知名度だって負けてないじゃないですか!」


「ジレ、そういう話では無いのだ。まったく…少しは年齢に見合う落ち着きを見せんか」


「あら、ごめんあそばせ。それはそれとして私もイヴの件は何か力になりたいわ」




「随分余裕があるみたいだな、一課局長さん?」




紳士と淑女?の戯れで少し空気が緩んだが、そこに突き刺すようなゼンの一言が飛ぶ。



「余裕など以前よりも無いと思うが」


「いや、天下の一課局長様にしては悠長に構えてるように見えるぜ?」


「ええ、私の目にもそう写っています」


「ちょっと…姉さん!」


「何に拘っているのか存じ上げませんが、随分と小さな炎ですね?【豪炎】の名が廃りはしませんか?」


「…何が言いたい?」



ゼンの一言に五課の局長ステラも口を挟んできた。

いつものいがみ合いが始まってしまう、今の一課にそんな言葉をぶつけるのはあまりにも失礼だとステオーラが止めに入るが、ステラの口からは続いた感情は想像とは違った。




「貴方はそんなにも冷たい男だったかと尋ねているのです」


「こんな萎える男が第一課戦術局長かよ、これじゃレナも舐められても仕方ねぇよな」




(二人はもしかして…)



ステオーラには感じ取れた、二人もイヴの行方を心配していること、そして誰よりも捜索に向かえる立場のウェイドの消極的な姿勢に苛立っていることが。



イヴはここにいるメンバーの中でも年少だった。そして今の局長達は皆が優しく彼女の成長を見守る大人たち。わざとでもそうでなくとも、比較的歳の近いゼンとステラは兄や姉のような存在であり、彼らの煽りを受けて奮起するイヴはまるで兄弟姉妹のちょっかいをウザがる妹のようだった。


そんな皆の優しさを受けて歩んできたイヴが行方不明となれば、あの二人の今の様相でもかなり我慢しているのは想像にかたくない。ゼンもステラも特に情を重要視するタイプだから今すぐにでも出撃して捜索に当たりたいのだろう。自身が実の妹であるからこそステオーラは理解できる。



「気持ちはわからないでもないですけど〜まだ焦りすぎる必要は無いと思いますよ〜」


「ファティマさん?」


「消えてしまったものは独特の風を吹かせるんです〜それはそれは感謝や後悔に満ちた風を。でもまだイヴの風はそよいでいます…だから大丈夫ですよ〜」


「不確定な情報だな、君以外が言うのならば」



【爽嵐】の一言にテーグは納得を見せる。四課局長のファティマは風瞳力との親和性が極めて高く、風一つから様々な情報を読み取れる。風の動きで敵の動き方まで分かるそうで、彼女には背後からの攻撃すら通用しない。



「今の私たちに出来るのは治安維持だけですから〜お二人も一緒に頑張りましょう〜?」


「…わかりました、失礼します」


「何考えてんのか知らねぇが、腑抜けてんじゃねぇぞウェイド」



ファティマの言葉に続いて一旦の納得を示す二人。だがその纏う空気は最後までウェイドに針を向けていた。




─────────────────────



「会議は終わったので今から向かいます。取り調べはどうするか言われていますか?」


『お疲れ様です局長。予定通りゾーラが行うとのことで、部屋の外からの立ち会いの許可は出ています』


「ありがとうございます。ではまた後で」


『はっ!エストワール、失礼します』



ステオーラは一息つき、ゾーラの管轄する取調室に向かう。

会議の重圧から逃れられた解放感と、この後の取り調べで何かイヴにつながる手立てが見つかるかもしれないという期待で表情が少し軽くなる。



(ヒナちゃんは心配とイライラで随分荒れてたな…まぁフロントレスキューにとって一番悔しい形になっちゃったし、それが幼馴染なら尚更ね…)



イヴの行方不明でまず飛び出して行ったヒナが同僚たちに止められていたのを思い出す。だが肩書きの近い戦術局長である自分には、何となく彼女が生き延びていると信じられた。それはジレも同じだったようで、そこまで動揺を見せた様子は見られなかった。何故と言われたら「勘」としか答えられないが、この心の落ち着きとウェイドの姿勢から彼女は極秘の任務についているのではないかと個人的に読んでいる。



だとしてもウェイドがここまで隠す必要がわからない。


何かしらの任についているのなら行方不明という形式を取るものだろうか?

レナでもトップの諜報成功率を誇るオニール隊を、勃発していたテロ対策から外してまで偽装工作に使うだろうか?

裏の世界中で賞金首となる前に緘口令を敷かなかったのはなぜか?


【明水】ステオーラ・クラレーツォは一つの仮説に辿り着いた。




「一課のみんなもイヴの消息については本当に知らされてない…?その状態で世界から狙われた消息不明のイヴを一課が探さないはずがない…信ぴょう性が増す…レナの内々で処理…第四勢力…虹の権威?」




それが出来るのは?




「じゃあこれは……ウェイドさんたった一人の…?」




まだわからない、勝手な推測だけで動くべきでは無い。今の考えの全てが妄想なのだ。


しかし本当なら?

それは大きなうねりの始まりであり、そのどちらにも干渉できる立場にある。進めることも、止めることも。



「違う、きっと違うはず。今は自分の務めを果たさないと」



"今の世界を見失うな"

メルキオールの名家であるクラレーツォ家の家訓を胸中に唱え、取調室に足を向けた。




─────────────────────




もう半日でネベントの街に辿り着く辺り。

静かだった森に響き渡る大きな振動。

近所迷惑には大きすぎるその音の元には、



「返すッ!」


「爆ぜろ…」


「前に出ます!」



巨大な鎧騎士の亡霊と戦う者たちがいた。



「遷流!!」


「ゴォッ!?」


「いいぞ、アグロメイト!!」



爆裂岩弾がイヴの瞳術で脆くなったグリーヴを襲い、破壊する。姿勢を崩された鎧騎士にはイヴが飛び込んでいる。



「フィグメント・ガイア…トレイン・ロック!」


「クラーゼさん!」


「カバーする、行け!」


「砕けてぇ!!」



イヴの持つ両手剣に岩塊が集まり押し固められ、巨大な槌の形を成す。それを腰の乗った動きで振りかぶり、クラーゼが砕いた部位に叩きつけられる!けたたましい破壊音と無数の岩が辺りに吹き飛び、完全に鎧騎士が後方に倒れ込んだ。



「縛れ、ロックピック」


「ヴェル!これを!」


「これは…ああ!任せろ!」



空中から飛び込んでくるヴェルを視界に捉えている鎧騎士が右手に掴んでいる大剣で防御しようとするが、クラーゼの放つ瞳術で大剣は地に拘束されて動かない。イヴは振り抜いた勢いでまだ岩塊を纏っている両手剣を頭上のヴェルに投げ渡す。

何かに気がついたヴェルはそのまま急降下し、鎧騎士の心臓部分に岩剣を突き立てて飛び退く!



「やっぱりえぐいことするじゃないか」


「人には使いませんよ…解!」


「ギィガアァ!?!?」



一言挟まれたイヴが答えながら右手を真横に振ると、突き刺さった岩剣に押し固められていた地瞳力が圧力解放を起こして大爆発を起こす!

遺された鎧に取り憑いていた瞳力残滓まで吹き飛び、鎧騎士はその姿を崩れさせて消えていった。



「スッキリするような吹き飛び具合だな、よくやった」


「イヴの剣まで消し飛んでたけど…いいのか?」


「イノセントブレイドはそもそも王都戦でほぼ死にかけていたのを応急処置しただけでしたから。ここからは瞳術主体で戦いますし、この機会に新しい剣を探すのもいいですね」


「おいおい探すとしよう。もうネベントはすぐそばだ、森を抜けるぞ」




目的地に向けて、足並みは揃い始めていた。



【電竜】

ライノ・オーランジ


エレインナンバー

・230

依頼達成率

・79%(16%違約保証)

性格

・陽気

・礼儀

容姿

・良

専門

・戦闘を含む依頼

・協働可

・その他相談可

プロフィール欄

・戦うことなら任せてくださいね!

・女性からの指名依頼大歓迎!

・割とどんな依頼でも引き受けます!

・農作業NG

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