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虹の果てまで  作者: 灯台
第2章 鼓動
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第31話 不穏と余韻



アピレジャムをパンに塗り、口に頬張る。いつもの朝とは違う洒落た朝食でもてなされ心もリフレッシュされる…なんてことは無かった。



「おはよ〜」


「おう、おは…眠そうだな?」


「まさかあの数相手にさせられるとは思わないじゃん…ふぁ……ん、私はライノみたいに多人数戦闘得意って訳じゃないし」


「まぁオレたちフェートだし」


「落ち込んでるね、そりゃそっか」


「何もかもわかんないまま終わっちまったな、この依頼。試合に勝って勝負に負けた気分だ」


「…豪炎さんとは話せたの?」


「ああ、問い詰めたよ」


「なんて?」


「吐かねぇと今度はオレが殺しに行くってな」


「いや、あんたじゃなくて豪炎さんの方よ」




スイが目の前に座り、すぐに王家お抱えのコックによる朝食が運ばれてくる。今日の来賓はオレたちとウェイドさんしかいないので随分と楽に済んだことだろう。


そう、イヴはこの場にはいない。

正確には帰還しなかった、戦場から離脱してしまったのだ。


そしてその姿を最後に見たのが、よりによって直属の上司でもあるレナの第一課戦術局長サマという訳だ。




「一点張りだ、『問題ない、そんなにヤワじゃない』ってよ。それがイヴのことを言ってるのか、あいつのことを言ってるかわかんねぇけど…もし後者ならオレが許さないっつったんだ」


「最近有名だった新人ね、【閃刃】だったかしら?」


「ヴェル・スカーレット、オレの弟分だ。村にいた頃は可愛がっててさ、半年前にエルティエでばったり会ったんだよ」


「スカーレット、ね…そりゃおかしな話…この卵料理美味しい!何使ってるんだろ?」


「聞けよ」


「聞いてるわよ。いつもチャラ〜ってしてる戦友が柄にもなくしょぼくれてんのは見てらんないし」


「…なんだよ急に優しくなって」


「私はいつでも優しいよね?」


「弱ってるとこにそういうのは効くからな」


「知ってますけど」




あーはいはいと適当に返しつつ、朝食を食べ進める。



ウェイドさんは今日にもソリスに戻るらしい、

当たり前だ、一課の局長補佐の行方が掴めないなんて大事が起きてはいるが、そもそも一課のトップで本来は部隊指揮をとる立場なのだから。

それにあれだけ問い詰めても口を割らないのならもう仕方ない。イヴが無事なこと、そしてウェイドさんが善に従っていることを願うしかない。




だがヴェルを取り巻くフェートの思惑だけは別だ。




あの日、村に寄ってロダン様に聞いた。

ヴェルにフェートの技を教える時、何故リミッターを外した状態で教えたのか。


エルティエで戦闘に介入する直前まで、オレは戦況を見ていた。エレイン傭兵である自分があれこれ首を突っ込んでいては、要らぬ恨みまで買ってしまうかもしれないからだ。

しかし動いていたのがヴェルだったこと、そしてその威力が『対人使用を想定した威力』を遥かに上回っていたことでオレは介入せざるを得なくなった。あの威力を手練以外に放ってしまえば、そのまま身体を爆散させてしまってもおかしくない。


だからフェートの技はリミッター、威力制限をかけて伝承される。そのことに気がつけるようになった頃には人道や倫理観も成長しており、自ら判断できるようになっているからだ。



あいつは昔から真っ直ぐなやつだった。

進んで人を傷つけようとするやつじゃない。

間違っているだけだと思った。


そしてその主犯はヴェルではなく、フェートの現頭領だという真実が待っていた。

そしてその理由も結局伏せられたままだ。




「なぁパメラン」


「ん?」


「ここ最近世の中マジできな臭くなってねぇか?」


「ん〜そうね、あのクソ国でもテロ起きたばっかでこれだし、リベラが一番マシだから報道されやすいけど第四勢力の小競り合いは一気に依頼にも出てきたわ」


「だよなぁ…戦争したがってるように思えんだよ、オレには」


「フェートなら仕事も増えるし戦えるしでメリットもあるじゃない」


「オレたちの一族をそのまま捉えればそうなんだが、ほんとにそれでいいのか揺らいでんだ…」




フェートとは始祖エイル・フェートの戦闘因子に連なる戦闘一族、かつては戦場を蹂躙する集団だったが現代では雇用主に勝利をもたらす護衛者、オレはその在り方を信じている。実際に傭兵として生き始めてからそれも証明されてきたから。


でもオレたちには本当に戦いしかないのだろうか?


もちろん戦闘においてこの一族は先天的に高適性を有して生まれる。そして進む道もそれぞれが選べる。現にオーランジ一家は両親が商人であり、妹のリノはアイドルをしている。最近依頼が立て込んで会いに行けていないのが心配だ。


別の道を選んだとしても、戦いとは無縁ではない。

両親は護衛や傭兵を必要とせず自分たちで容易に敵性生物を消し飛ばせるし、リノもライブでは空間を自由に舞いスタントマン要らずの戦闘演技もこなす。

このユニゾナの生には戦いが付き纏う。



戦うしかないが、戦いだけではないはずだ。

オレはそう信じたい。

運がいいことに、そう教えてくれた友がいたから。




「戦局を左右するからね私たちは。人の生き死、人生にも影響できちゃうくせに使い捨ての傭兵だから悩まされる」


「最初の頃は思いのままに戦えるのが傭兵だって勘違いしてたよ。人気が出るにつれて責任も重くなる。どこの依頼も受けてたら、どこの依頼も断りづらくなってた。お前みたいに限定しとけば良かったなぁ…」


「女は苦労するのよ?こっちは見た目も使って売り込まないと仕事なんてもらえなかったんだから。あんたには今の八方美人の方が似合うわよ」


「それ褒められてんのか?」


「そういえば結局交戦してた敵のエースはどんなやつだったの?撤退させたんでしょ?」


「手強かったぜ、あの拳闘士。オレが速度メインで隙を埋めていったのと逆の成長を進めた感じだ。破壊力メインでそれ以外を隙なく立ち回ってきたし、カウンターもパワーでねじ込んできた。目も良い。削りがいがあったぜ」


「へぇ〜そんないい相手だったんだ、私もタイマンしたかったなぁ」


「オレよりもパメランとやる方がストレス溜まりそうだな、あの男…」





カスパール国内テロ鎮圧作戦において発生した想定外は三つ。


一つは、

エレインナンバー4803 カティ・テルマン

ナンバー467【鉄巨漢】ツァーグ

ナンバー420【奏騎士】シエラ・メディオ

上記三名の協働により首都防衛隊騎士団長【破軍】ベルモンド・シュルツの足止めに成功したこと。


二つ、それによりナンバー685【閃刃】と虹の【天光】が交戦したこと。


そして三つ目は、東区の増援に向かったトップランカー、ナンバー230【電竜】ライノ・オーランジの会敵した相手が盗賊団【聖なる猫】の構成員、アギオスと名乗る男だったことだ。




特にアルカ・シエルにとっては聖なる猫の存在が厄介だった。数ヶ月前のエルティエ無差別傷害事件の際に【天光】が交戦記録のあるアギオスという男が、何故カスパールのテロ側として戦場にいたのか。

そして、今回のテロとエルティエの件のどちらも聖なる猫が関わっているとすれば、六課の【明水】が鎮圧したバルタザールでのテロも無関係とは言えなくなる。まだ報告書は上がってきていないが、法理機構ゾーラの上層部は聖なる猫の幹部級がバルタザールでのテロにもいたのではと見ている。


ほぼ間違いなくこの一連の動乱に盗賊団、義賊の類が一枚以上噛んでいる。それが異例とも言える一課局長と局長補佐の同時出撃の理由だ。




(手強かったがオレなら撤退には追い込めた。あいつらが相手取ることにならなくて良かったと思うべきなのか、それともそのせいであいつらが戦うことになったと言うべきなのか…)




ヴェルとイヴ。

オレにとって可愛がっている年下たちであり、その身に素晴らしい才能と真っ直ぐさを持つ眩しい奴ら。あいつらがぶつかり合ったとしたら、どちらかが倒れるまで剣を持ち続けるのだろう。

実際に起きた巨大な爆発はイヴの技だろう。彼女が市街地もある王都であれだけの技を一傭兵に放つというのは平時では考えられない。ヴェルを相手になりふり構っていられなくなったのだろう。



(あのウェイドさんに師事してたのもあって随分固い性格に育ってたな…ヴェルとか同年代の友達がもっと増えたら年相応にもなれそうなもんだが)



血縁などないのにやはり面倒を見ようとしてしまう。年下の女の子は頭の片隅でどうしても妹のリノを重ねて見てしまうのはオレの面倒くさいところだ。




「何よりイヴが心配だなぁ私、仲良くなれたから依頼終わったらお茶しようって話してたのに」


「なんだそこまで仲良くなってたのか」


「宿で同じ部屋だったからその時にね。身の上話もしちゃった♡」


「おいおいなんだそれ、オレも聞いたことねぇぞ」


「男子禁制だからダメ。あと…3年くらいしたら教えてあげる」


「生きてるかわかんないぞ」


「大丈夫、ライノは生きてるよ。私が生きてる予定なんだから」


「ん…?なんだそりゃ」





あの男、次は仕留める。

フェートが二度逃すことはない。




─────────────────────



アジトの一つに戻ると構成員達が食事や環境整備、任務でバタバタしていた。



今の聖なる猫は繁忙期だ。団長曰く『デカい仕事』がうちを中心に動いているらしい。かくいう俺も最近は出ずっぱりだ。今後は戦闘員をもっと増やしていく必要もある。参謀に言ってみるとしよう。



「あ、お疲れ様です!」

「「「お疲れ様です!!」」」


「おう!あんま根詰めすぎんなよ〜!」


「アギオスさん、おかえりなさい」


「戻ったぜ。クレディは今日はこっちか?」


「作戦立案室に篭ってます。それで、どうでしたか?」


「あいつまたベルに叱られんぞ…まぁイイ感じだったぜ。おおよそ合格ラインまで成長してた」


「ならそろそろ次の工程…それにしても、今回の任務はどうも盗賊団らしくないですね」


「まぁうちは盗賊団とは名乗ってはいるが実態は何でも屋って感じだからな。不必要な殺生は禁じてるし、奪うのも基本奪われたものだけだ」


「それは知ってますが…結構盗賊として覚悟を決めて入った連中もいるので、拍子抜けしてるやつもいますよ」


「盗みたきゃうちは似合わねぇってこった。よく団長が言ってるぜ、『偽善者大歓迎』ってな。俺たちは大きな目的のために世界に働きかけてんだ、だがそこに意思がなきゃホントにただのテロリストになっちまう。そういう奴が集まって『聖なる猫』は始まったのさ」


「おぉ…やっぱり団長はすごいですね、素晴らしい!」


「こいつは俺の副官には向いてないと思うんだがなぁ…人事ミスじゃねぇのか?」




あいつのカリスマは相棒の俺が一番わかってるが、近頃は妙なやつまで引っかけて帰ってくることが多い。割を食わされるこっちの身にもなってほしいもんだが、悪気がないので言うに言えないのが歯痒い。




「とりあえずクレディに報告と…ああ、アルマも1回顔出せっつってたか、時間が足りねぇ…」


「やはり虹のように仮想通信技術を導入すべきでは?」


「バカいえ、世間からはお尋ね者側の俺たちがンなもん使ってみろ。そこら中からゾーラの雇った瞳力ハッカーが寄ってくるぞ」


「それはもちろんわかってますが、やはり前時代的な手法というのは新たな活路を見えにくくするものですよ」





「前時代的手法はカウンターになりうるのです、先進的手法に対しては特にね。私も団長も承知の上ですからご心配なく」





アジトの雰囲気には似合わない小綺麗な長身の男が近寄ってきた。トレードマークのハットを被った聖なる猫の参謀だ。




「戻ったぜ、丁度顔を出そうと思ってたんだ」


「おかえりなさいアギオス。私も久しぶりに外の空気を吸いたくなって出てきてしまいました」


「どうせ数日ぶりだろ、ベルに叱られても知らねぇぞ」


「今のベルに怒られるのは相当堪えそうですね、気をつけます」




副官が礼をしながら下がっていき、もう長年の付き合いになるクレディと報告も兼ねて歩く。




「【白瞳力】はどうでしたか?」


「いい調子だ、想定外ではあるがいいライバルも出来たようだしな」


「高めあえる相手ですか、いいですね。出力の安定性に不安がありましたが、どうやら虹はきちんと育成を行っていたようですね」


「ここまでは任せればいい話だったが、こっからは俺たちもそれなりに動き始めないとな」


「アギオスも何かいいことがありました?何だかいつも以上に機嫌がいいですよね?」


「魔術師はお見通しか、まぁな。かなり出来るやつと戦って撤退させられちまったんだ」


「え、あなたがですか!?防衛戦でもなかったのに…?」


「エレインのエース【電竜】と当たった、評判以上だぜありゃ。あいつも全力は出してなかったが、今の俺よりも確実に強さの深みに踏み込んでやがる…久しぶりに格上と戦った気分だ」


「アギオスを押し切るとは…要警戒対象ですね、ライノ・オーランジ」




思い出すのは金髪の槍使い。

あの疾さに見合わないパワー、瞳術の扱いと反応速度、どれも一級品だった。


またサシで戦りたい。

そう思えたのはクラウス以来だ。





面白ぇ、次は土手っ腹をブチ抜いてやる。

聖なる猫の副団長としてのメンツに賭けて。



【サイドトーク】

ヴェルの評判①


カティ「ヴェルか?危なっかしい友人だな」

ツァーグ「…まぁやる奴だってのは認めてるぜ」

ニル「真面目で礼儀正しくて好かれそうだな〜って」

シエラ「んな!?なんだその顔は!私?赤くないぞ!」

モモ「私と刀匠を結んで下さるキューピットですわ!」

ジャッキー「若いよな〜ああ、若いよな……」

ドルチェ「ちょっと心配にさせてくるのが沼よね」

ミッツ「対ドルチェ用決戦兵器だね」

D「現時点での最高の研究対象だ」

ゼノ「このゼノが気に入った男だよ」


クラーゼ「お前変なのにも好かれてんだな」

ヴェル「後半にあの辺を持ってきたからでしょ!?」

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