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虹の果てまで  作者: 灯台
第一章 胎動
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第30話② 有為転変



大柄な身体に似合うスキンヘッド。

その風貌と先入観には似つかわないほどに依頼内容に誠実な傭兵。


【鉄巨漢】ツァーグがベルモンドの弾いた鉄塊を空中でキャッチし、落下速度を加えた降下攻撃を叩きつける!!




「ヴェル、君はやはりもっと強くなれる。私の見込みよりもずっとな」




背後から声をかけられる。

振り向くとそこには灰色のセミロングを靡かせながら片手剣を背負い、小型のシールドを携えた傭兵の先輩が歩いてきていた。



「シ、シエラさん!?どうしてここに…」


「なんだ、私がいてはいけないのか?」


「いえ…もしかしてカティに…?」


「そうだ。奴の人脈は傭兵随一だからな。どの傭兵とも適度に連携することができ、支援役として冷静に状況を見て依頼をこなす。かつての傭兵像が"単騎での依頼遂行者"なら、"協働前提で確実に依頼達成を為す"のは現代の傭兵像の象徴だろう。かくいう私も今回協働を頼まれたのだ」




確かに違和感を感じていた。

オーロラ傭兵事務所は高序列の傭兵も抱える有力事務所だ。そこに所属して仕事が回ってきているだけでも強さが担保されているようなものだが、カティから強者としての闘気や雰囲気を感じたことがなかった。


そう、カティの評価されている点は戦闘力ではない。その人脈と判断力、そしてそれによる依頼達成能力なのだ。




「ヴェル!お前はさらに奥まで侵攻しろ!【破軍】は俺たち三人で抑える!」


「そんな…そんな大役は俺には…」




背負えない。

自分はただの傭兵で、ここには自分よりも経験豊富な戦士ばかりなのだ。新人がでしゃばって一体何が為せる?


俺はみんなのような傭兵としての意思なんてない。

俺のフェートとして見つめられるべき意思と言えるのはただ、ただ、ウェイドを殺すことしか……





「もう回り始めたんだ!お前を中心に!この渦の中心にいるのはお前なんだ、ヴェル!お前が引き寄せたのなら、つべこべ言わずに引っ掻き回せ!!」





恐ろしい威力のハルバードをガードしながら、聞いた事のない怒号がカティから飛んでくる。ツァーグの横殴りを退避しつつ彼に石突で鳩尾にダメージを入れたベルモンドに、シエラさんが切りかかる。



「傭兵で盾持ちか、オーソドックスだな!故に貴女を落とすのは時間がかかろう!」


「身持ちは硬いつもりだ。知らぬ男に許す心は持ち合わせていないよ」


「ぬぐぅ…閃刃!さっさといけ!予定通りの仕事しねぇと報酬下がんぞ!!」



あの高序列のツァーグとシエラさん、そしてサポート特化のカティの三人でかかっても、かの【破軍】の侵攻は誠実で熾烈。止まるどころか数が増えたこともあって、その熱はさらに速度が上がっていく。





みんなの意思がつながっている。


依頼達成という意思で俺につながっている!


俺たち傭兵のつながりは、それだけあればいい!




「頼んだ!」




背負えない、それは変わらない。

俺の存在意義はウェイドだけだ。



ただ一つ


この戦場でつながる熱に置いていかれるなんて、フェートの名が廃る!





己の道の先を違わないよう、青年は翔ける。



───────────────────



消えた幻影の後ろから曲剣が閃き、傭兵の腕の筋を斬る。腕から力が抜けたことにすら気がつかずに好戦的な表情を浮かべている愚か者を放置して、背後からダガーを突きつけてくる気配に対して魔女のような服の裾を叩きつける。



「ぶっ!?み、みえな」


「人は視界が9割あとはオマケ。目だけでこの私を見つめようなんて甘いのよ」




序列252位のトップランカー、スイ・パメランの舞台は演者も観客も巻き込んでの幻の上映会となっていた。



ここまで西区の傭兵共を寄せつけながら一人も通すことなく制圧を続けていたスイだが、数が減る様子がないことには疑問を感じていた。



(結構減らして下がらせてるはずなんだけど…)


(こんなに送り込めるほどの余裕がリベラにあるのかしら?)



非瞳力者のための組織。

非営利団体でその規模は大きいとは言っても、パフォーマンスも含めたテロ行為にここまでの傭兵を動員するのだろうか?


間違いない。

このテロの背後にはリベラ以外の組織や思惑が潜んでいる。カスパールが崩されかけることで利益を得られる存在がいる。たとえばバルタザールとか、バルタザールとか、バルタザールとか!!




「ま、私には関係ないけどね。私はただの傭兵だし、アンタらを適当にボコボコにするだけでお金もらえて終わりだから!」




気になることはまだある。


先ほどから東区で炸裂する衝撃波が反対側の西区まで届いている。普通の人にはただの風に感じるだろうが、これは戦闘の余波によるものだ。


東区にはライノが増援に向かっている。それはつまり、あいつとやり合える相手が来ているということ。戦闘に関する遺伝子の極地と言われる純粋なフェート人と打ち合えるやり手なんて、エレインにもそうはいない。




あいつが負けるだなんて思っていない。

だが無事に勝てるかどうかは不安がある。




「……さっさと片付けて援護に行ってあげようかな〜追加報酬も請求しちゃお!」




なんだかんだで長い付き合いの戦友なのだから。



───────────────────



「ボルトプレッサー!!」


「グラン…ブロウ!!」



東区を弾けた瞳力素と闘気が駆け回る!


未だ大きな損害のない首都防衛隊の東部隊だが、強者のぶつかり合いに手出しをするとろくな事にならないことを理解しており、残り少ない周辺の傭兵を相手していた。




あろう事かライノの槍による電瞳力の奔流の槌を殴打で相殺したアギオス。まだ空中に滞空しているライノへ間髪入れずに踏み込むが、足元の変化を感じて全身に力を入れる。


すると彼の足元から人体の意識を刈り取るような高電圧の瞳力素が立ち上った!



「捕らえたぜ」


「罠なんて効くかよ!ぬん!!」



一瞬アギオスの体を押さえつけた高電圧。通常であればこの一瞬で意識から飛ばす技なのだが、規格外のこの男は捕まってからその拘束を弾き飛ばした!


だがここまでの戦闘でこの程度はしてくるだろうと予想していたライノは、一瞬の隙で十分だった。



「おせぇっつったんだよ!」


「ぐ…おらよ!!」


「残念こっちだ!雷槍展開、スピアエレクト!」



アギオスの足を奪おうとしたが腕のガードを間に合わされたライノは、反撃の剛拳が飛んでくる前に既に危険地帯から離れており、少しの瞳術詠唱を挟んだ後に第三級瞳術を放つ。


第四級よりも威力も攻撃範囲も上がったスピア術式の雷槍がライノから射出され、アギオスを瞬く間に刺し抜く!




「あんま舐めんじゃねぇぞ…!」



しかしライノの予想をこの男は容易に超える。

大腿部に突き刺さった雷槍をなんとそのままに、こちらに飛んで距離を詰めてくる!



「んなバカな…傷が開くぞ?」


「どいつもこいつも槍で刺せば立ち止まるとでも思ってんのか?こちとら何回死にかけたか覚えてねぇんだよ!」


「…今回はイメージ商売もあるからさっさと戦闘不能にしたいんだけどな」


「余裕あんなら食らっとけ!クエイクキャノン!」



またしても高速で距離をとるライノに、突き出した拳から大気の砲弾と化した衝撃波が飛ぶ。

一発、二発、四発と飛び回る電竜の周辺の建築物ごと吹き飛ばしていく。



「おいおい…空気殴って出る威力じゃねぇよ、脳筋が過ぎる!」


「勢い余って粉々にしちまうかもなぁ!」


「当たればな!」



鋭角に方向転換して再び接近する。

寄ってきた獲物に対して迎え撃つ姿勢を取る恐拳。




戦場のボルテージは最高潮へ至る。



───────────────────



戦況は想定よりも崩れているが、許容範囲だ。


防衛隊は仕事をこなしている。

荒らすこと、魅せることは傭兵や虹で十分。我々はグリード城の防衛をするだけでイメージも国力も示すことができる。そして何よりこの戦闘では自軍の損害を抑えることが重要だ。




茶番に巻き込まれただけの我が国が防衛力に傷を残すなど、愚かにもほどがある。



「軍略長!南区でシュルツ団長を突破した傭兵がこちらに向かっています!!」






待て、なんと言った?




「もう一度聞かせなさい」


「は…はい!南区でシュルツ団長を突破した傭兵がこちらへ!」


「……単騎でここまで殴り込める傭兵…だがベルモンドがこの時間で突破されるなどありえない…想定より乱れた戦場…東区の衝突……」





「テロ側の増援。それも高序列傭兵が複数ですね」


「そのようですな。流石は第一課戦術局長補佐」



イヴとセントの見解は一致した。

この戦場に新たに参戦した複数の存在により、第一次防衛ラインである前線の【破軍】を突破する敵が出てきたのだ。


だがこれはカスパール側としては問題ない。

もともとベルモンドはそのまま敵陣を崩していくポジションであり、城前広場から出撃したのは侵攻によって敵の士気を削ぐためだった。セントとしては初めから敵陣で暴れてもらう方が本来の【破軍】の運用方法なのだ。



それにしては不穏な空気も感じる。


【電竜】が戦闘中の拳闘士。

【ドッペルゲンガー】を足止めている多数の傭兵。

増援が一つもこないが想定外に備えて動かせない北区の【豪炎】など、ここまで読めない戦場もなかなかない。




「セント軍師、私が出ます。白兵戦も瞳力士も対応できて、そのまま東区の援護に向かえるのは私です」



イヴが名乗りを上げる。

確かに彼女ならどんな戦況でも任せられる。

それに指揮官としての経験も積んでいると見える、こちらから細かく指揮をしなくとも戦術を理解して動いてくれよう。共に戦う仲間として大いに歓迎されるタイプだ。


セントは自身の抱えているものを整理する。




(私は今試されている。新たな世界に踏み出す勇気があるのかどうかを)




数秒の思案を挟み、表情の変わらないセントがイヴの方を向く。



「イヴさん、出撃をお願いします。第一目標はベルモンドのラインを突破した傭兵の対処。次に東区の援護ですが、貴女ならば自身で判断して動いていただいて構いません。存在感を示して旗女神となってください」


「承知しました、戦況に合わせて動きます。イヴ・アイリス、行きます」




柔らかな白の髪と虹の制服をたなびかせながら、迎撃に向かった【天光】を見つめる。

彼女の無意識に発しているカリスマ性に納得しつつ、それが平和な世にて発揮されなかったことが悔やまれる。




(第一級特別指定技能"白瞳力"、膨大な瞳力量、望んだとはいえ軍事機構レナの第一課戦術局長補佐…あの小さな背中に負うにはどれも重すぎる)



これは私たちの罪であり、人類が争い始めた時からずっと残し続けてしまった罪だ。人は争い続ける、争いをやめることはできない、人が人であるために争いは必要だ。




「私たちは血の流れない争いを作らなくてはならなかった…だがそれに気がついた時にはもうベルと敵同士になっていたんだ」





君たちはかつての俺たちのようになってはいけない。


そのために抗おう。




世界の流れ、祖龍の意思にすらも。



自ら選び、自ら進むことができる。

それは人間の成長の過程において祝福されるべきもの。

それが為せる者は人々から賞賛され、尊敬され、崇拝され、そして羨まれるようになる。


自己を貫く、エゴを持つことで人々は惚れる。

だがそれで世界は変わるだろうか?

何故崇拝される?何故惚れられる?何故羨まれる?

それは持たざる者たちだからだ。


世界を変えたいか?

ならば持たざる者を持つ者にするといい。

背中だけでは何も与えられないのだから。

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