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虹の果てまで  作者: 灯台
第一章 胎動
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第30話① 合縁奇縁



踊る、踊る。

この戦闘の主役の座を確固たるものにしている青年が踊り続ける。


槍が差し込まれれば振り返りながら躱し、その先にいる騎士の槍を弾き上げて蹴り飛ばす。盾で囲まれ詰められれば、回転しながら放つ抜刀術で盾に大きな横一文字を刻み下がらせる。タイマンを仕掛けてきた相手には石畳を滑るような歩法で騎士の間を抜けていき、同士討ちを恐れて止まった敵の武装を叩き切る。



「食らえ傭兵!!」


「はっ…そら!」


「ぶっ!?」


「躱した…!?」



背後から高速の一閃が飛んでくるのを気配で感じ、宙返りで躱しながら顔面につま先を叩き込む。鎧を着けていなかった相手だったので鼻血を出して吹き飛んだが、追撃を入れるまでもなく周りの騎士がカバーしてくる。


その方向にはもう一人、傭兵が潜んでいる。




「背中ががら空きだ!」


「…っ、危ねぇ!?」



惜しくもカティの槍は精鋭の防御により止められる。だが彼の表情に悔しさなどはなく、むしろ上手く引っかかってくれたとばかりに笑う。



「さすが防衛隊だな、ありがとう!」


「な…目をとじっ!!」



その手に握られた光瞳力素の詰まったアンプルを石畳に叩きつけた瞬間、周囲に激しい光が撒き散らされた。


光瞳力素を利用した簡潔だが効果的な炸裂弾だ。アンプル内でノイズ結合膜に閉ざされた術式が外的衝撃によって交わり、強引に瞳術【スタンフラッシュ】が発動される。



こういった誰でも発動できることが売りの術式内蔵型アンプル【インターナルサーモス】は、つい最近流通が始まった戦闘補助武装。警護専門傭兵事務所【スウェア・サービス】が開発を主導したアイテムだが、まだまだ戦場に立つ者たちからしても見慣れないものだ。



それを一瞥しただけで炸裂光だと察した防衛隊の勘は防衛最強の名に恥じないものだが、瞼を閉じるよりも早く光は目に突き刺さる!




「ぐわっ!?一度下がる!!」


「やば…くっ、こっちも食らった…」


「俺はあいつほど繊細に戦えないんでね、悪いが怪我してもらうぜ」


「がっ…!この程度で!」




カティの槍が目眩しを食らった騎士の足を負傷させていく。だがその程度の負傷で彼ら防衛隊が立ち止まるはずがない。



「ヴェル!」


「ああ!二式、双巌!」


「舐めるな!」



一撃目の豪閃を目がやられつつも盾で防いだ先頭の騎士。自身の抜刀を負傷しつつも防いだ恐ろしいほどの防御技術にヴェルは心の中で感嘆しつつ、回転して二撃目の棟打ちを顎へ放つ。



「跳ねろ!」


「ごはっ!?」



跳ね上がる騎士の体。

意識を飛ばしたヴェルはその勢いのまま再び騎士の集団に飛び込み、再び大立ち回りを演じる。




──────────────────




「なんなのアイツ?動き早過ぎて誤射りそうで援護飛ばせないんだけど」


「おーおーやべぇのが隠れてたな。あの抜刀術、そうかアイツが【閃刃】だったのか…そうか…」


「ちょっとおじさん!あんま動き回らないでよ!」


「ふむ…あれが……どうやら本物のようだ」


「ブツブツ言ってないで下がってってば!!」




それぞれの傭兵がヴェルに対する風の噂が本当か疑っていたが、その戦いぶりを目の当たりにして傭兵としての価値を改めて認めた。本人たちは何も聞かなかったが、まだ新人傭兵の括りで序列685位というのは噂にもなるだろう。そしてそれが真実なのかどうかも。



ジャッキーが再び前に出る。

ドルチェの炎瞳術で空いたスペースに飛び込みながらヴェルに近づく。




「ヴェル!作戦変更だ!」


「なに!?」


「こいつら、想定以上に硬い!お前は城の方に飛び出せ!ここは俺たちで適当に削って下がる!」


「な、それはジャッキー達がやるはず…」


「どうやら防衛隊も殺す気はなさそうだ。それにお前が【閃刃】ならそれが最適だ、カティ!お前はどうする!?」


「俺も行こう!ジャッキーとドルチェがいればここは十分だ。防衛隊の頭の武装だけでも持っていければ大金星だぞ」


「だそうだ。この先は城前広場、【破軍】と【戦辞典】がいるとすればそこだ、はぁ!!」



そう叫ぶとジャッキーの全身から水瞳力素のオーラが吹き出す。その奔流は止まることなく彼を包み込み、そのまま騎士の集団に飛び込むと激しく駆け巡る瞳力素を炸裂させる!



「アクア・インフレーター!!」


「爆散技だ!顔を守れ!」


「ぐわぁ!?」


「いっ…てぇな!!」


「ごはっ!?へ、効いたみてぇだな…」



のたうち回る水瞳力素の奔流を押さえつけたノイズ結合膜を周囲に解き放って攻撃も防御も可能な技、インフレーター。ジャッキーの発動した水瞳力素による奔流は高速で回転しており、それがナイフが駆け回るように周囲の騎士たちを切り刻む。

その一撃でダメージを耐えた騎士から強烈なシールドバッシュを食らい、一度下がるジャッキー。


さらに彼が開けた穴に瞳術が飛び込んでくる。



「ガキどもに餞別くれてやるわ、マーブルサージ!」



炎瞳力と水瞳力が見事に分かれつつもひとつの竜巻として形を成して、前方の防衛隊の隊列に直撃する。



「ドルチェ!?あれ死ぬんじゃないの!?」


「平気よ、ガキは黙ってなさい。威力は下げてあるし、カスパールの首都防衛隊はあの程度じゃ殺せない。青春ガキコンビ!行きなさいよ!」


「ありがとう、ジャッキー!ドルチェ!」


「ボーナス報酬は全員で山分けにする!行こうヴェル!」


「マズイ!抜かれるぞ!」


「刀持ちと槍持ちだ!止めろ!!」




ヴェルとカティは二人が開けた集団の波を全速力で駆けていく。




「よっ!あ、あれ?おじさんは!?」



「では私もいこう、そのために来たのだから」



そしてミッツが視線を外していた隙に、Dも付いて行ってしまった。





─────────────────




東西南北から同時に中央へ向けて進軍、切り崩せた方角から増援が来るだろうか…いやこれは来ない、そう風が言っている。


いつからだろう。

この戦場の音、匂い、空気に慣れてしまったのは。



『常在戦場。我ら常に戦場にあり』


そう自分に教えてくれた恩師は自宅で暗殺された。



『民を護り、己も守る。それこそ護衛隊の極意』


そう自分に道を示してくれた先輩は王国財務官の警護に失敗して自害した。



『戦うとは攻め守ること。親衛隊こそ体現』

『お前の答えも出るといいな』


そう私に言い残した先代は今のグリード王家統治下の世を作り、アンダーギャングとの戦いで首を落とされた。





私にとって首都防衛隊とは、平和を保つ為の礎だ。


私たち騎士に平和は作れない。

それは王の役目。


我らは平和を維持することが命題。




「民を護り、己を守れ。いかなる時も攻め守れ。防衛隊こそ礎の体現なり」




息を吸う。

戦場の風に長髪が靡く。


よし、いこうか。





「よく来た!この【破軍】ベルモンド・シュルツが相手になろう!若き傭兵よ!」



これは護りでもあり、攻めでもある。



私が賭けた攻めなんだ。





──────────────────



グリード城が近くに見えてくる。


今もジャッキーたちが戦っている場所より奥にはあまり騎士を配置していないようだ。今回のテロは事前に情報が漏れていたし、戦力としてもカスパールが確実に有利だ。この配置にも疑問は無い。



「この先が城前広場だ、準備はいいか?」


「ああ。俺が前で打ち合うから、援護は任せるよカティ」


「俺でも感じるくらいには空気が張り詰めてるな、人は一人も見当たらないのに…これが闘気ってやつか」




広場の中央に佇む人影が見えてくる。




「よく来た!この【破軍】ベルモンド・シュルツが相手になろう!若き傭兵よ!」




そう雄叫びが聞こえた瞬間ヴェルは意識をフルで戦闘に回し、高速で抜いた刀で突貫してきた槍を受け流す!



「ぐぅ!?」


「最近の若者はよくやるな!これをまたしても防がれるとは!」


「は、はやい!?」



カティは反応しきれず、ベルモンドの突撃で起きた衝撃波で少し身体が弾かれる。

そのままハルバードの斧が上からヴェルを襲う。



「返す…!」


「受けるか、この一撃を!断裂斧!」


「遷流!」



全身を激しい暴力が襲ってくる。

打ち込んできた角度と威力を見据え、暴力を弾けさせないよう丁寧に身体の中を回して相手に返す。



「あぁああッ!!」


「ぬぅ!?」



ウェイドの抜刀術を返すために訓練し続けたフェート人でもあまり使用しないカウンター技、遷流。

これなら破軍相手にも隙を作れる!



「今だ!一式!」


「…手加減は不要か、こい!」



弾かれながらもこちらに焦点を合わせ続けているベルモンドに底知れぬ実力を感じつつ、ここで打ち込まないという選択肢がなかったヴェルは抜刀を繰り出す。



「絶刀!!」


「このベルモンドに白兵戦で後れを取ることは許されない!」


「っ!?そんなもので!!」


「何故なら…」



驚くことに歴戦の騎士は己の得物であるハルバードから手を離し、地に落とす。

だが驚いたとてヴェルの神速の一撃は止まらない。



「私の背には王を含めた全国民がいるからだ!」


「か…躱された…?」


「そして皆が守ってくれているからこそ!」



ヴェルの一閃を見切った破軍は小さく、だが決定的な後退りで自身の敗北を回避し、腰の入った掌底を叩き込む!



「私達は攻めることも出来るのだ!」


「がっ!?」



強烈な体術の一撃で広場の壁に叩きつけられたヴェルに、ハルバードを拾ったベルモンドが迫る。



そこへ空間全体に響くような爆薬の炸裂音がして、ベルモンドは咄嗟に音の方向へ防御の姿勢をとる。




「む…爆竹…もう一人の傭兵もやるな」


「ヴェル!まだ動けるか?」


「ごほっ…ああ、やれる。また骨を折られたな…」


「切断負傷よりも体内ダメージの方が継戦力を削がれる、無理な動きはするなよ」


「助かったよ、どうする?」


「俺はお前ほど前で戦えない、でもこういう展開になることを想定してなかったわけじゃない。布石は打ってある!」


「布石…?どういう…」




ヴェルが勝利への可能性を探っていると、ベルモンドの後方から質量の塊が飛んでくる!




「これは…後ろだな!」


「鉄の塊?ってことは…」


「最近またツテが増えたんでな」





「オーロラのカティ!美味い仕事くれてありがとよ!しっかり悪役は務めさせてもらうぜぇ!!」



折れることのない武器。

それは果たして武器として優秀なのだろうか?

振るい続けられる武器。確かに戦士からしたらこれ以上なく信用のおける物だ、なにせ命が懸かっている。


だがそれは生き残るための力。

勝利を得たいのならそれだけでは足りない。

生き残れるだけで儲けもの?

もちろんだ。

だが君は勝利を望むのだろう?


ならただの折れない剣より、折れてでも必ず勝てる剣になるといい。

折れることが敗北ではないのだから。

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