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虹の果てまで  作者: 灯台
第一章 胎動
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第29話 カスパール 国内テロ鎮圧作戦4



グリードに来て3日目の朝、ついに軍略部の騎士が会議場に飛び込んできた。




「敵襲です!数は概ね35!複数のポイントで交戦開始!」


「来たか!セントの読み通りだな。全隊、絶対に通すなよ!このベルモンドも出る!」


「はっ!ご武運を!」


「攻城戦のオーソドックスな攻め方だ、こりゃリベラは指揮取ってないな」


「ということは戦闘員は傭兵のみで、リベラからは出ていないのでしょうか?」


「だろうな。彼らは今回、民衆に訴えるだけのつもりのようだ」




先生が号外の新聞とカスパールに届いた封書を見比べて言う。新聞には「リベラの首魁ロイ!賢王へ叩きつけた要求とは!?」とテロ行為をさらに焚き付ける内容が書かれており、封書にはテロ行為を行う事前の通達、具体的な非瞳力者への待遇改善を謳う文が収められていた。



そう、この一連の事件は【天からの解放者】リベラという組織が引き起こした。動機は彼らが掲げる『非瞳力者をこの世界に加える』に準ずる意識、待遇改善…つまり引き出せる実益を狙いつつ、民衆に向けたパフォーマンスだ。


リベラは非瞳力者であるリーダーのロイ・スーダンが率いている。表向きには大きな非営利団体だが、そこらの国の軍部とも多少やり合える程度の戦力と資産も持ち合わせている、虹からしたら胡散臭い集団だ。もちろんゾーラからは監視対象にされている。


この規模の集団がある程度自由に動けるのはリーダーであるロイが人格者であること、政治でもやり手であること、それ故にワンマンの組織であり弱ったらいつでも潰せることが理由だ。諸外国も虹もそれ故に監視のみで事足りている。




「じゃあ、私たちも仕事しましょうか。タダ飯タダ宿じゃ帰れないしね」


「皆さんの展開地点はお伝えの通りに。有利に立ち回れる最適な環境になっているはずです、多少泳がせた上で鎮圧してください」


「了解。骨のあるやつがいるといいんだけどな、【粛狼】とかよ」


「あいつなら今は別の依頼受けてたから多分こっちにはいないわよ」


「へぇ、よく覚えてんのな」


「またニルちゃんを口説いてたから」


「あぁ…もう諦めたらいいのにな、ニルさんはハードル高すぎるだろ」


「ニルちゃん気になる人いるって言ってたわよ」


「な、ま、マジか!?」


「話聞いてる限りだと年下っぽいわね、まぁ傭兵かどうかも分からないけど」


「こりゃエレイン紳士協会に激震が走るぞ…!」


「なにそのバカの集まり」





「随分悠長ですね…でもこのくらいの方がいいかもしれませんね。一課も作戦直前はこんな感じですし」


「あいつらは作戦行動中でもこんな様子だから手に負えん」


「はっはっは!肝の据わった若人たちだな!だが顔面蒼白で死地に向かうよりも良いではないか!」


「一理ありますね」


(うちの防衛隊が規律に満たされているのはセントのプレッシャーのせいだと言うことは黙っておこうか)


「何か言いたげな表情ですね、ベルモンド卿?」


「何を言うか。では私は出る!」



トップランカー二人は軽口を叩きながら、先生はいつもの歩みで、防衛隊騎士団長はそそくさと会議場を飛び出していった。



───────────────────



イヴは最終確認のためにセントを呼び止める。



「セント軍師、再確認させてください。東区を【電竜】、西区を【ドッペルゲンガー】、北区及びグリード城裏手を先生、ベルモンド卿が大通りのある南区、軍師と私が城正面から適宜援護ですね?」


「ええ、イヴさんにはこの戦闘における旗女神になっていただきたいのです」


「え、旗女神…とは?」



思いがけない頼みがセントから飛び出し、自身も出撃しようとしていたイヴは振り返る。




「貴女はアルカ・シエルから来た仲裁の女神という役割を負い、双方に睨みを効かせて戦闘を終息させてください。カスパールからの依頼だという情報は防衛隊、虹ともに守秘義務になっているはずです」




「『スカーレット局長とアイリス局長補佐は視察のためにカスパールを訪れた。そこでリベラによるテロが勃発したため、剣を抜いた双方を宥めた』というシナリオでこの世界は納得するのです」





確かに守秘義務となっていた。

一課の局長と補佐が二人揃って三大国に来ているのだ、当たり前に何かが起きたと見られるだろう。自分の立場の持つ影響力は自覚している。


だがこれは…これではカスパールにはメリットが無く、リベラは第三者からテロを潰され、虹が評価を得て終わってしまう。虹だけが良い思いをして幕を閉じる。




なぜ?


部外者のはずの虹が、一課が、私がここにいるのは何故?



この戦いで喜ぶのはだれ?





「一つアドバイスです」




セントの声に釣られ顔を上げると、そこには世界を見通すかのような銀色の目が私を見抜いていた。




「今の貴女にはピースが足りない。自ら答えに辿り着きたいなら情報の欠片を集めることです。私と貴女はよく似ている。ピースの一つはこの国で見つかることでしょう。ご武運を」




そう言い残し、セントも会議場を出ていった。




───────────────────


戦闘は熱を帯びてきた。


この東区は元々『風楽の大森林』から来る敵性生物を迎撃するために防衛隊の中でも守りに関する精鋭が集められている。



「おらぁ!どけよ!!」


「軽いなぁ傭兵!」


「がっ!?」


「東部隊の硬さなめんなよ!!」


「ちっ…スピアライトニング!」


「団長の槍より遅いぜ!バッシュで吹っ飛べ!」


「ぐぇ!?ぐっ…こいつら重装兵のくせに…!」



東部隊が防衛に関して他の方面隊より遅れをとることはない。常日頃行われるベルモンドによる模擬戦闘で最後まで残っているのは常に東部隊なのだ。盾を持ちながらも最低限の機動力を兼ね備えた彼らは、重装備でありながら回避という選択肢すら手に入れた。故に守るだけではなく、カウンターや連携による奇襲も可能とした攻防一体の兵なのだ。




「ここは凌げるな。傭兵も中序列が多そうだ」


「普段好きに飲み食いしてる傭兵に俺たちが負けてやる訳にはいかねぇよ、こっちは四六時中訓練してんだぞ」


「そりゃそうだな。問題は…」


「後ろのあいつだな」




防衛線は余裕を持って維持出来ている。

その奥の奥、傭兵どもの後方にいる暗い赤髪の男が呑気にもこの戦闘を眺めている。

明らかに他の傭兵と比べて纏うオーラが違う。高序列傭兵、さらにトップランカーかもしれない。




「うーん、こりゃちょっと厳しそうか?クラウスが読み外すのは珍しいな、直前でエレイン向けに違う情報でも流されたか?」



左手で頭をかきながら右肩を回す男。



「軽く散らして戻るとするか。泥棒猫は恩と依頼を忘れねぇが、返す分返したら忘れてもいいよな?」




赤髪の男が戦線に向かって軽く走ってくる!



「全員警戒!奴はヤバそうだ!!」


「後方隊!援護をあっちに!ここはいい!!」


「集まれ…抑えるぞ!」



防衛のプロたちが警鐘を鳴らして男の進軍に備えている。それを見て周囲の傭兵たちは調子づく。



「国の犬どもが!横がガラ空き…ぎゃ!?」


「ん?援護か、助かる」


「どーいたしまして。そんで戦況は?」


「ちょうどヤバそうなやつが…って【電竜】!?」


「お邪魔するぜ」




傭兵どもを一閃で隅に吹き飛ばしたのは東区の援護に来たライノだった。エレインの中でもトップクラスの瞳力伝達速度を誇る彼の移動速度は雷の竜の名に相応しく、広大な首都の中央の城を出てから僅か1分で辿り着いた。




「あ、ああ。戦線維持は余裕がある。うちの騎士がやられる手合いではない。だがあの赤髪の男が今さっき動き始めて、うちの前衛を押し込んでる」


「確かに素直な脳筋過ぎて面倒くさいタイプだな、【鬼丸】ふっかけるか【トライアングル】にやらせた方がさっさと片付けてくれそうだぜ…」


「ヘイト稼ぎならうちにやらせろ、それは単独傭兵には出来まい」


「オレはアンタら表社会の専門職をちゃんと信用してるぜ?その分動きにくいところにオレたちが来る、わざわざ棲み分けしてんだ。前は頼むぜ!」


「全隊、敵の隙を作れ!増援が片付けてくれるそうだ!」


「お、おい!全部やるとは…」



「助かる!お掃除頼むぜぇ!」

「さすが傭兵だ、使い勝手いいなぁ」

「おら若いのやってくれや!」



「調子乗りやがって…いいぜ、全部オレがお片付けしてやるよ!!」




妹のいるライノは人一倍面倒見がよいが故に頼られると断れない、たとえそれがむさ苦しい騎士団だったとしても。

彼の電瞳力量はさらに上がっていく。




「あ?強そうな気配がすんな…こいつぁ増援に出来るやつがいるな?じゃあウォーミングアップしとくか!」




そしてライノの存在を感じ取った赤髪の男、アギオスもまた全身の各部に火をつけていく。



この世界の猛者同士の衝突は近い。




──────────────────



「盛り上がってきたじゃないか、このユニゾナという舞台が」


「こんな辺鄙なとこから高みの見物か、ゼノ」


「久しいなクラーゼ。吸うか?」


「この後仕事なんでな、遠慮する」


「カッツェーベ産の葉巻なのに勿体ない…俺が全部味わってしまおう」


「早死するぞじいさん」


「おお、そうだ。早死といえばお前のお気に入りの登場人物がいるだろ?なんていったか…」


「ボケたか、ヴェルのことだろう?アンタが先にエルティエで気に入ったって」


「ああ!そうだ!名前を聞いてなくてなぁ。そいつだがどうやら大当たりかもしれんぞ?」


「…あいつが?」


「三大国も、裏社会も、世界の意思かのようにあやつに収束している。一体誰が流れを作っているのか、その思惑は何なのか…おおよそ想像はつくが面白くなってきた…」




「アイリスのヴェルとイヴ、イーリスのノヴァとシヴァ…三大国にリベラ、そしてアルカ・シエル。これが祖龍の舞台という訳だな」


【サイドトーク】

イヴの秘密①


スイ「イヴはよくそんな重たい剣片手で振れるね」

イヴ「え?あぁ、慣れていますから」

スイ「なのに腕は白くて線は細くて綺麗で…チッ…」

ライノ「パメラン〜本音出てるぞ〜」

スイ「イヴってば実は着痩せする筋肉質とか??」

イヴ「そ、そんなことありません!私とて女性です!」

スイ「両手剣振り回してることについては?」

イヴ「私は身体機能補助の術式を常にかけているので」

ウェイド(かけずとも振り回しているが…黙っておこう)

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