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虹の果てまで  作者: 灯台
第一章 胎動
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第28話 王都戦開幕



─────────────────


今回の依頼は大規模戦闘です。

カスパール王国において国内テロが計画されており、これに参加して国力を一定量削ぐことで依頼達成となります。ただし殺害に関しては最低限に留めるようにと依頼主からの提示がありますので、武装破壊や戦意喪失による制圧をお願いします。


この依頼はオーロラ傭兵事務所所属傭兵、エレインナンバー4803 カティ・テルマンから協働依頼が出ています。依頼を受諾する場合は協働が条件となりますのでご注意を。


受諾しますか?


─────────────────



カスパールの地下に無数に存在するかつての地下水路、そこの一角から密かに掘られていた新しめの通路を辿る。ここまで来るのに人目を避けなければならないため、わざわざ情報屋から非合法の入口の場所を買うはめになった。

カティなら道を知っていたかもしれないが、こちらから連絡をする手段がないので仕方がない。報酬をしっかり受け取って補填することにする。


情報屋曰くこの通路はまだ最近通ったばかりで、カスパール側にも知られていないのだとか。といっても待ち伏せや崩落の可能性がない訳では無いので警戒しながら進む。



すると敵性生物が数匹死んでいるのが見える。切り裂かれていたり、四肢がもげていたり、そもそも吹き飛んで原型が無かったりと様々な死因が見て取れる。

間違いない、ここには俺より前に数人の傭兵が通っている。ならこの先の集合場所にいるのだろう。


まだ時間には余裕がある。奥に見える扉まで警戒を解かずに近づき、中の気配を探る。


敵意無し。ゆっくりと扉を開ける。




「おう、これで五人目か」


「またガキ…傭兵ったってこんなのばっかね」


「なんだまたって!僕のことも言ってんなら潰すぞ!?」


「まぁまぁ騒ぐなって。強そうだしいいじゃねぇか、なぁ?」


「私はこの話に興味がないのでね」


「……えっと、チームEで合ってるか?」


「合ってるぜ、ここが集合場所だ。兄ちゃんで五人目だからあと一人…」




「ここか?お、受けてくれたんだなヴェル」




俺が部屋に入った後にカティも入ってきた。

どうやらちょうどいいタイミングだったようだ。




「それじゃ一応最初にここに着いたんで俺が仕切らせてもらう。全員今回の依頼について一言ずつ発して本人確認とさせてくれ。俺からは『グリードで勃発』だ」


「じゃあ来た順番で私ね、『国内テロ』」


「『見せしめ』でもいいかなぁ?」


「精度の低い確認だな、『リベラ』」




それぞれがこの場に到着した順番で依頼に関する言葉を放っていく。最後の科学者のような出で立ちの傭兵らしくない男の言葉だけは聞いたことがないが、味方と認めてもらうためにヴェルも何かしらのキーワードを口にする。




「じゃあ『殺害は最低限』」


「なるほどな、『天光』はアリか?」


「あぁアリだ。全員がエレインからの依頼を受けていると確認したことにする、今から俺たちは味方だ。依頼が終わるまでフレンドリーファイアや裏切りは許されない。もし起きたら記録機で映像を撮りつつ全員で排除する、いいな?」




全員がうなづいたところで進行していた中年の男が名乗る。



「簡単に自己紹介といこう、ジャッキーだ。序列は2241位、前は出れるぜ」


「ドルチェよ。序列は内緒、瞳力士だから援護主体でよろしく。前なんて出たくないわ」


「あ、僕?ミッツだよ。12歳だけど傭兵は素人じゃないからバカにしてると痛い目みるぞ」


「私は研究に行き詰まったのでアイデアを探しに来たまでだ。まぁ手当など支援くらいはしてやろう」


「おっさん名前くらいは教えてくれ、呼べないだろ?」


「ならDと呼べ。それで通じる」


「OK、そっちのお二人は知り合いかい?」




粒ぞろいの顔ぶれだ。この中でも仕切っているジャッキー、年齢が低そうなミッツは出で立ちから戦闘慣れしている様子。他の二人はそもそも戦闘専門の傭兵ではなさそうだ。




「ヴェルだ、よろしく。俺もフロントアタッカーだ」


「オーロラ事務所のカティ、序列4803位だ。今回のチームはフリーが多いみたいだから、ウィングアタッカーとして合わせて動こうと思う」


「若々しい風が多くていいぜ、この業界はおっさんばっかだからなぁ」


(隣の槍持ちは賢そうだから置いといて、あのヴェルって子、いい顔してるわね…食べたい)


「…あの、何か?」


「なんでもないわよ、傭兵って自意識過剰なのも多いわよね〜」


「アンタも傭兵だろおばさん!いいから作戦会議しとこうぜ!」




ドルチェが額に青筋を浮かべたところでジャッキーが二人を諌め、今回の依頼を改めて確認する。


それにしても科学者らしき男Dはほぼ話を聞いているようには見えない。彼も戦闘専門ではないと言っていたが、一応チーム単位で動く以上進行ルートなどは共有しておきたい。




「D、ルートについては大丈夫か?」


「必要ない。私は君たちの後をついて行くだけだからな。自衛程度は出来るので放っておいてくれて構わないぞ」


「そ、そっか」


「私は君に興味が湧いたので来たまでだ」


「え…?」




ヴェルが目的だと語る男を前に一瞬頭が混乱したところで、依頼内容の確認が始まったので意識をそちらに向ける。




─────────────────


という訳で今回はこのグリードで暴れるのが依頼内容だ。ただしテロ行為とはいえ目的はカスパール王国をリベラとの交渉の席に着かせること、それ故に非殺傷が基本となる。主に首都防衛隊の奴らを、それ以外ならあっちが雇った傭兵がいれば叩いていい。国民に手を出すと平和的解決の枠を外れかねないから報酬大減額だ、肉食いてぇならやめときな。


面倒なのはやっぱりあのツートップだよね。前からちょこちょこテロ騒ぎは起こしてたけど、ついに出てきた【破軍】と【戦辞典】…本気で潰しに来てるって感じだよ。【破軍】も脅威だけど、どちらかと言えば【戦辞典】の方が厄介じゃない?


瞳力士の立場から言うなら、防衛隊にとって最も戦いやすいホームでの防衛は瞳術が一番厄介になる、めんどくさいったらありゃしないわ。だからといって【破軍】を放置すると大損害、めんどくさいわね…


わかった、ならもしもツートップやカスパール側の傭兵と会敵した時は前衛を俺とヴェルに任せて、後衛を叩きに行ってくれ。こっちは協働経験があるから多少連携が取れる。どうだ?


あぁいいぜ。その時はきっちり足止めしてくれよ?もちろん防衛隊自体が精鋭だ、向こうは非殺傷なんて生ぬるいことしてこないだろうし、命優先で行こうぜ。


─────────────────




今日が最も起こる可能性が高いと軍略部からの連絡があった日だ。実戦の心構えと装備の点検、王都の民の避難は既に済んでいる。シュルツ団長やニコラウス軍師が戦線に並ばれているという前代未聞の規模となるテロ、我々一般隊であろうと心が引き締まる思いだ。



四番通り、ここは警戒ポイントの中で特に重要な場所だ。なぜならここからグリード城まで一直線で向かえる、この街唯一のポイントだからだ。無論最も厳重な警備と防衛隊員を配置しているが、首都防衛隊に慢心は許されない。


常に最悪の瞬間にいる、それが真の常在戦場。


ニコラウス軍略部長の先を見通した戦略は、シュルツ団長がフルパフォーマンスを発揮出来る世界を作り出す。その手伝いを我々が出来るのなら光栄だ。



故に、






「ちょっと眠ってもらうね、おじさん」



油断は許されなかったのだ。




─────────────────


「上がっていいよ、巡回警備は一枚落とした」


「でかした坊主」


「いいじゃんガキんちょ」


「やるな坊ちゃん」


「お前ら蹴り落とすぞ!?」


「お、俺は言ってないぞ」


「おいヴェル君、さっさと上がってくれないか?前が動かなくてはこの私がついていけないだろう」


「カルガモキッズおじさんは黙ってついてきなよ」


「ドルチェこっわ」


「次の現場のファーストキルはミッツね」



地下水路から上がる梯子を一人ずつ登っていく。

身軽なミッツが先に上がり、周囲の安全を確認してから全員が陽のもとに出る。



他にも傭兵チームはいくつもあり、それぞれが複数箇所から同時にテロを起こす手筈になっている。その中でうちのチームは、グリード城までダイレクトにつながるこの四番通りを選んだ。決行時間まで俺たち以外の傭兵は現れなかったのは恐らくここが最も警備の厳しい場所だからだろう。


だからうちの作戦は周りのチームが戦闘を始め、意識がそちらへ向いてから遅れて中央突破を図るということになった。




梯子を登りきると既に街の各地から戦闘の音が聞こえてくる。ちょうど始まったようだ。




「作戦通りワンテンポ遅れてるな、じゃあ行こうか!」


「前はよろしく〜あ、射線上には出ないでよ?」


「傷の手当てが欲しければ下がってくるといい」


「おじさんは僕の守備範囲から出ないようにしてね!」


「善処しよう」


「ヴェル、今度はスタートから共闘だな」


「ああ!カバーは頼む!」



簡易的な隊列を組んで奥に見える城を目指し走る。


チームとして動く以上は全力で走ると隊列が乱れてしまうので、後衛に合わせて動くことになる。今まで一人で好きに戦ってきたので、最速で駆けることが出来ないのがもどかしいが文句は言えない。クラーゼさんのように前衛の隙を埋めたりカバーしてくれるのが後衛だ、信用がなくては共に戦えない。




「首都防衛隊だ!止まらなければ武力行使をするぞ!」


「そらかかってこい!傭兵六名で入店するぜ!」


「仕方がないか…総員迎撃!」




少し広めの空間に出た瞬間に上方から叫ばれたが止まるわけがない。正面から十数名の騎士と建物の屋根に数名の瞳力士が見える。プラスで見積もっても25人程度、多いな!




「まずは崩してくか、ヴェル!」


「ああ!右からいく!」


「ぐわ!?こいつ…重い!?」


「殺しはしねぇから道を空けな!!」



その巨躯に似合わないほど一瞬で敵の前に出て、両手剣を振り下ろし騎士を盾ごと弾き飛ばすジャッキー。彼の戦い方は斬るというより叩き潰すタイプのようだ。あの動きなら確かに前衛を任せられる。



「投降しろ、傭兵!」


「あいにく契約上…」


「そうはいかなくてな!」


「槍持ちもいるか、なんということはない!」



俺はカティとともに右半分を受け持つ。


ジャッキーとは違う形で注目されるため、先頭の騎士の目の前まで急加速してから高く飛び上がる。



「な!?後ろ飛び込んだぞ!!」


「ヴェル!?」


「カティ!ある程度減らしたらジャッキーの方に行け!ドルチェが上を落としてるけど向こうの方が数が多い!」


「…わかった、お前を信用する」


「傭兵としては嬉しい言葉だな」




さぁ一対多の戦闘、フェートの本領発揮だ。



【エレイン傭兵規約】

受諾制限


依頼には必ずエレインの判断した難度が設定され、その基準をクリアしている傭兵にしか受諾できない

この基準はエレインナンバーが大きく関わるが、達成した依頼の内容によっては上乗せ評価となることもある

ただし指名依頼や協働申請に限っては例外となるが、マッチポンプや実力とのミスマッチを防ぐため、エレインによる審査は必ず入る

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