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虹の果てまで  作者: 灯台
第一章 胎動
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第25話 カスパール 国内テロ鎮圧作戦2



カスパール王都 グリード


ここはソリスのような近代瞳力を用いた街ではなく、前時代的な城としての外観を残した街だ。元々数百年の耐用を想定して伝説の建築家ラルが設計したと言われていることもあり、戦争や紛争での破損や劣化はあるもののカスパールという国を永く存続させている。だが要所には近代瞳力による機構を取り入れて改修がなされており、賢王が重要視している防衛力が垣間見える。




「ここに来ると自然と姿勢を正してしまいますね」


「三大国の中でも一番歴史の深い国だからな」


「そうですね、クソ大司教のいる首都よりよっぽど素敵!」


「お前まだ根に持ってんのか…あの頃はまだ序列が低くて舐められてただけだって」


「当たり前じゃない、平然と依頼を受けられるライノがおかしい」


「ま、まぁプライドを持って働くのは悪いことではないですよ…ね?」


「程度を弁えていればな」




「おい…あれ虹の天光じゃねぇか?」


「うわ本物だ…綺麗な子だよな…いい匂いもしそう」


「キモ。じゃあ隣のやつが豪炎のウェイドか」


「だな、何気に俺初めて見るわ」



瞳力鉄道から下りてグリード城を目指し歩く一行。ビッグネームがまとまって歩く姿に何事かと通行人たちが驚いているが、イヴが軽く会釈をすると皆が目を奪われ、黙って彼女を見つめながら通り過ぎていく。



全員知名度の高い面子ではあるが、ライノやスイはあくまで戦闘傭兵。家庭で一般の暮らしをする人々にはそこまで認知されている訳では無い。


逆にイヴやウェイドの顔は幅広く知られている。アルカ・シエルは多くの人々の生活に寄り添う活動が多く、一部過激に反発する層はあれど世の中は虹を受け入れている。その広告塔として重用されている二人が目の前にいるとなれば、大抵の人間は話しかけることも出来ずに見つめることしか出来ないだろう。総議会役員であるブリュッセラの「清廉英雄論」は確かな功績を出している。



「…なんで先生がオマケみたいなんですか。オマケにするなら私でしょう…!」


「天光って思いのほか局長センセLoveなのね」


「…いつも通りだ、気にしないでくれると助かる」



──────────────────



そんなこんなでグリード城へ辿り着いた一行は、正面口で警備のチェックを受ける。




「問題ありません。会議場までお越しください」


「おい、武器はいいのか?全員持ってるぞ」


「この度は帯刀を許可するようにと王から命が下っておりますので、そのままでお進み下さい」


「…あの賢王が帯刀許可ね、随分信用してくれてるじゃねぇか」


「中で腕試しでもされるんじゃない?」


「敵の手中で受けるには少々派手な歓待だな」



言われた通り武器をそのままに、城内はある程度覚えているというライノを先頭に会議場に足を進める。


城内は照明などはもちろん、扉や床、部屋の形状などほとんどが近代的な物に据え替えられている。色調をかつてのものに合わせてあるので違和感もなく、機能美と実用性を兼ね備えた隙のない様相がこの国の手堅さを物語っているようだ。




──────────────────




いくつか角を曲がって行くと、突き当たりに両扉のついた部屋がある。ライノが迷いなく扉に向かうので、ここが会議場なのだろう。




「ん?ここだったはずなんだが…こんな広かったか?机とか椅子とか…」


「……イヴ」


「なんですか?先生」


「テーグとの訓練の成果、見せてみろ」


「…え?」




先生からの不思議な一言に脳が理解を始めようとした瞬間、ライノが開けた扉から凄まじい闘気が通路に流れ込む!



「危ない!!」



前に立っていたスイとライノを左右に弾き飛ばしながら右手を前に伸ばす!



「コマンド・シールド!」




簡易術式化しておいたプロバイド・シールドが以前よりも小さく、イヴの身体だけを守るよう前方に展開される。

そこへ部屋の奥から凄まじいスピードで飛んでくるハルバード持ちの騎士が人身を粉々にせんと襲いかかるが、穂先がけたたましい音を立てて白色の盾に突き刺さる。



「お返しするわ」


「食らっとけ!」



そして突き飛ばされた傭兵たちがそのまま様子を伺う訳が無い。右からライノの槍、左からスイの曲剣によるクロスファイアが飛んでくる。


ハルバードの持ち主は止められた穂先を慌てることなく自身の左方向に滑らせ、ライノの腹に凶刃を走らせた!


しかし、



「残念♪そっちは大ハズレ!」


「ぬぉ!?」


「右足もらうよ!」



腹部を裂かれたライノの姿が歪み、ハルバードに絡みつくように消える。幻影に騙された騎士は体制を崩しており、スイは騎士甲冑の右脚鎧、膝裏の腱を削ぎにいく。



「マルヘラ・サーペント」


「うっ…邪魔!」


「助かったぞセント!こちらの二人は任せてもらおう!」


「フィグメント・ヴォルト、援護します!」



スイの足元に忍び寄っていた深い紫の蛇が足に絡みつき、動きを止める。瞳力士が部屋の奥にいて、あそこから援護の古式瞳術を放ったのだろう。初撃の時点で役割を分けていた通り、既にライノが斬りかかっている。


スイが蛇を切り離すまでの間に騎士をスイから離すため、鎧に電撃が通ることを期待して雷瞳力を剣に纏わせたイヴはハルバードを持ち直していた騎士と剣戟を交わす。



「軽やかだが重たい太刀筋だな!鍛錬を積み重ねた良い剣だ!」


「捌かれてる…なら!コマンド・フローズン!」


「む、氷か!?」



突如として指が凍りついた騎士は一瞬反応が遅れるが、目を見開きイヴの袈裟斬りを鎧を着ているとは思えない軽やかなステップで躱し、脚鎧でイヴを蹴り飛ばす。


一人引き剥がしたのも束の間、スイが入れ替わりで鋭い連撃を叩き込んでくるが、騎士は既にハルバードを持ち直して反撃の芽を探す。



「平気!?」


「ええ、最近は蹴り飛ばされてばかりなので!ステーク・ディバイン!」


「美しい連携、見事だ!さて…セントの方は電竜が向かっていたがどうかな?」




騎士が余裕を持って後方に目をやると、花火大会のように色とりどりの殺人瞳術が飛び交っていた。





──────────────────




最初のハルバード持ちの突撃で机や椅子のない会議場の右側面に展開したライノは、スイにアイコンタクトを送ってから部屋の奥に一瞬見えた陽炎を目指して飛び出す。あれは恐らく初撃のインパクトを隠れ蓑にした瞳力士だろう。高速フロントアタッカーの役割は最速で後方支援を掻き乱すことだ。


しかし向こうもそれを見抜いていたのか、このユニゾナに満ちる瞳力素全種を用いた瞳術が絶え間なく自分目掛けて飛んでくる。



「君に近づかれると厄介なのでね。このデスロードでゆっくりしていてくれ」



(タイダルシャボン設置からのレールフレアで逃げ道は無くなった、奴までこの地獄みてぇな道を突っ込むしかない!)



高い炎の壁に左右の視界を奪われたライノの先に高圧水流の含まれた水球がいくつも浮かんでいる。あれに下手に衝撃を加えると、水がとんでもない勢いで吹き出してくるという第二級瞳力術式だ。しかしこの炎の壁のせいで退路が無い。



「こういう瞳術は破壊すると向こうの罠だったりするからな。さっさと切り抜けるが吉、ブリッツ・アディション!」



全身の神経伝達速度を加速させるために電瞳力を纏い、タイダルシャボンに触れないよう高速で奥の瞳力士へ進撃する。通った後には軌跡が残り、赤と青の地獄地帯を抜けた先には瞳力士らしくクロークにモノクルを着用した白髪の男がいた。



「ふむ、報告通り相当速いな。あれを正面から抜けてくるか」


「試すにはちょいと甘いぜ!食らえ!」


「だが届かせはせんよ」





「…って突っ込むと上から食らうって訳だろ?十往!」


「……イノシシと聞いていたが、何処で得てきた情報だ?正確性を問いたくなるな」



その速度のままに瞳力士に突っ込むライノの頭上には巨大な氷柱が落ちてきていたが、そのトラップにもフェートの察知力、反応力で迎撃に間に合わせる!

フェートの戦闘術、十往(じゅうおう)。半月状の瞳力を放つ牽制技を回転しながら頭上に二発打ち出した。目に追えない速度で半月の雷が天井に十字の傷を刻み、氷塊が四分割される。




「だが、それだけで終わっては懐刀は名乗れない。術式を再構成、アイシクルレイン」


「マジか…やるな、戦辞典…!」




割れた氷塊が一瞬で天井を覆い尽くす氷の雨と化す。これだけの規模の術式を一度解き、別の術式で一つ一つを再構成するなんて芸当は、虹の戦術局長でも容易ではない。


ライノは完全に捌ききったと思い、瞳力士へと突撃してしまっている。頭上の氷雨には気がついたが、回避行動に移るしかない。





「ライノ!!突っ込め!!!」





後方から聞こえた同僚の叫びが、ライノから回避という選択肢を奪う。上を見上げていた眼球は即座に前方を向き、更に加速する。




「使いな!天光!!」


「借ります!」


「…なるほど、良い選択だ」


「はっはっは!そうか、君はそうだったな!」



スイが片手で放ったのは第四級の炎瞳術フレイム。威力も規模も小さい初級瞳術を撃ったその先にはイヴが走りこんでいる。


彼女の脳裏には二課の戦術局長、テーグが受けさせてくれた訓練が浮かんでいた。




──────────────────




(アイリス、お前は広範囲の瞳術は得意だが、範囲を限定した瞳力の扱いは不得手だろう。その盾もお前の瞳力量で賄っているだけで、普通の人間が同じ術式を放っても強度は低い。必要なのは配分だ)



(その豊富な瞳力量をして、瞳力素の結合密度を更に上げる。その分シールドの展開範囲は狭まるが、それはお前が敵の攻撃を見切れば済む話だ。この土槍全てを局所防御で捌いて目も養え)





(そして何より、この訓練をこなして瞳力結合を高められるようになれば、瞳術に指向性を持たせることも可能になるだろう…やってみろ)





──────────────────



スイのフレイムに自身の白瞳力を同調させる!

全身に赤とオレンジの混ざった瞳力が満ちていく。


ダメだ、まだ足りない!


すかさず懐から赤色のアンプルを取り出し、目の前で握りつぶすと、更に纏う炎瞳力が増して豪炎となる。



(高密度と指向性!これが私の新しい力!)



炎瞳力素を凝縮、視線の先に筒を想像。

空いた右手で撃ち出す!!




「コンデンス・ブレイザー!」




発射された高熱光線で空を薙ぎ払い、落ちてきていた氷柱の尽くを一瞬で焼き尽くす。



「情報にない技だ、若者の成長とは著しいな」


「そういう訳だ。これでアンタはチェックだぜ」




消されていった氷を眺めている瞳力士の首にはライノの槍の穂先が添えられている。

電竜にここまで詰められて逃げられる者はもういない。逃げるよりも彼に首を落とされる方が早いからだ。




「素晴らしい!君たちの実力はこの【破軍】ベルモンド・シュルツが認めよう!若き傭兵たち!」




そして多くの騎士に慕われるカスパールの騎士団長ベルモンドの一声で、戦場と化していた広い会議場は一旦の落ち着きを取り戻した。



【破軍】

ベルモンド・シュルツ 40歳


カスパール王国の首都防衛隊、騎士団長を務める騎士

三大国間の戦争中、たった一騎でメルキオールの軍を蹴散らしたという逸話から破軍の異名で呼ばれている

しかし実際は一個大隊の規模だったのだが、それでも単騎での戦果としては異常だということ、本人がこの異名を気に入っていることから現在も訂正はされていない

【戦辞典】セントとは昔の宿敵であり、かつて調子に乗っていたベルモンドに初めて土をつけた相手でもあり、現在は細かいことを気にしない彼が最も信を置く相棒でもある

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