表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虹の果てまで  作者: 灯台
第一章 胎動
26/43

第24話 出会いの糸



「悪ぃがこっちも依頼で来てるんでね、命惜しさでそう易々と面子潰されるわけにゃいかねんだよ」


「お前の実績は違約保証されている。これはエレインが仲裁した事項だ」


「ちっ…最近はこんなプロレスばっかだな、血みどろ戦争よか幾分マシだがよぉ」




ツァーグが降参とばかりに折れた槍を放り投げ、殺気を鎮める。それを確認した青年も納刀し、戦場の張りつめた空気が薄れていく。




「そんじゃ俺はこのザマでここに長居しない方が都合がいいんだろ?目撃者がいると面倒になる」


「察しがいいな…それがツァーグ流の生き残りの秘訣か?」


「こういうのはバカに出来ねぇぜ槍男、名前は?」


「オーロラ傭兵事務所のカティだ、序列4803位」


「オーロラのカティか、覚えた。ぜひとも次は現場で協働相手として会おうぜ。それから...お前と話すのは初めてだな、超新星」


「えっと…どこかで会ってたか?」


「先月の【籠城破り】で別動隊から見させてもらった、噂以上の活躍だったな。序列685位【閃刃】のヴェルだろ?次はどごでどの立場で会えるか…楽しみだ」




そう言い放ちながらツァーグは穂先を断ち切られた槍を放り出し、倉庫裏手に消えていく。



─────────────────



「助かったよ、槍使い」


「カティでいい。それよりお前があの閃刃だったのか、顔合わせの時に言ってくれたら良かったのに」


「そんなの名乗った覚えはないんだ、最近勝手に言われ始めてさ。俺に異名なんてもらうほどの実績はまだないのに…」


「エレインナンバー685…なるほど、聞いた通りの超新星ってわけか」


「どういうことだ?」


「『実力ある新進気鋭、だが雇われ傭兵としてはピヨピヨ』 って言われてる。傭兵は今や商品。その価値は雇い主と金持ちと報道屋、何より親分のエレインに決められる。俺みたいな木っ端からしたら、もう高序列にいて実力も知名度もあるのに持ち腐らせてるのはもったいないと思ってしまうな」




鉄巨漢ツァーグが言っていたように、今の時代の傭兵はイメージ商売とは切っても切れない関係になっている。


アルカ・シエルが世界各地の治安をある程度保っていることにより、安易に騒動を起こしてしまうと治安介入の対象にされてしまう。 それを躱しつつも相手には睨みを利かせたい企業にとって便利だったのが『傭兵たちによるプロレス』だったのだ。そしてそれには企業への贔屓がある傭兵が起用される。




「えっと、褒められてないよな?」


「はぁ··· 異名なんていうどデカい看板をタダでもらってるんだから、次の仕事につながるようにもっとそれを掲げればいいのになってことだ。嫉妬だよ」


「あんまり身の丈を言いふらすのは得意じゃないんだよ」


「傭兵事務所には入らないのか?異名は最近よく聞くが、協働相手としての情報はあまり入ってこなくてな。エレインに登録しながら所属するやつなんて沢山いるぞ」


「実は決めかねてて…ユーリ傭兵事務所の人に助けられて誘われてるんだけど」


「ゆ、ユーリから!?なんで入らないんだ!?理想の傭兵事務所じゃないか!」


「あー…師匠にしばらくはボロ雑巾として使い倒されろって言われたんだ」



目を剥いて問いかけてくるカティに答えながらロダンからボロ雑巾のように蹴りを食らっていた頃を思い出す。


あの言葉も今なら意味がわかる。傭兵として使われるということはつまり、ボロ雑巾のように扱われても文句は言えないということだ。それを受け入れてでも報酬のために依頼を達成する、それが傭兵という存在だと学べという愛のムチだったのだ。ムチにしては意識を持っていくほど強かったが。




「だからもう少し自分でも仕事を探して受けるよ、もし伝手があったら俺にも協働させてくれると嬉しい」


「お前…わかったよ、その時はまた協働しよう。報告に戻るぞ」


「ありがとう、カティ!」




ずっと村で育ち、同世代の親戚たちは全員社会に出ていたヴェルにとって、同じ世代の友人と対等に話すというのはとても新鮮だった。

序列という評価はあれど戦場に立った瞬間に生きているか死んでいるか、そこに差は無い。ならこういう普通の会話を出来る友人は大切にしたいと思いながら、ヴェルは【神の手】製の剣を納刀する。





「ちょっと待てよ!!」





声が響く。

ヴェルが振り返ると、そこに生きている刀剣持ちとさっきまで生きていた瞳力士がいた。男傭兵は戦死した女傭兵に寄り添いながらこちらを睨みつけていた。



─────────────────



「ああ、無事だったか。悪いな…リーネを救えなかった。奴の投擲までは想定出来なかった」


「お前もだよ槍使い!俺たちを裏切ってたのかよ!?」


「裏切りじゃない、元々俺は二重契約だったんだよ。お前とリーネと一緒に対処、無事に最終日まで終えればそのまま依頼達成だった」





「結局、依頼に想定外の事象があった場合に備えておいたプランBの契約の方が達成になっただけだ」




傭兵は依頼を一つしか受けられない、という決まりはない。無論依頼主が掛け持ちを拒否するのであればその限りではないが、元の依頼の未達成ペナルティを軽く若しくは無くし、二次依頼として増援と共に引き続き対応するというやり方は戦闘を含む依頼には採られることの多い二重契約だ。


たがこのやり方にはリスクも含まれている。

それは二重契約をした傭兵が先に戦死または意識不明になった場合、二次依頼へ移行出来ないことだ。生存しているか、重症でも増援へ連絡して戦場の情報を伝えることが出来れば事態は動くため、それが絶対条件となる。



そして依頼主にとっても挑戦となる。

エレインでは雇用側、被雇用側どちらも悪質な契約詐欺を防ぐために対策を講じている。二重契約に関して雇用側には『一次依頼よりも二次依頼のペナルティを重く、その裁量をエレインに譲渡する』と科している。

ペナルティについて一次依頼で設定しなかった場合に二次依頼が失敗すると、エレインから多額の損失金や制裁が雇用側に降りかかる。二重契約をするということ自体に依頼主の覚悟が見て取れる。




そんな重要な依頼を傭兵事務所から任されたカティは序列以上の力を持っている、と見抜いたツァーグは今後の協働相手として関係を持ちたいと評価したのだ。




「プランBは俺以外の誰かが戦闘不可能の状態に陥ることが条件だ。そしてリーネは鉄巨漢の一撃に倒れた、それがトリガーで閃刃が来た訳だ」


「手を出せないのは歯がゆかったよ。でも俺は傭兵だから…依頼に従わないと…」


「……いいよな、そうやって依頼のせいに出来るんだから」


「お前…!いっぱしの傭兵ならわかるだろ!閃刃に責任はない、言うなら俺に言え!」




戦場の熱が冷めたはずの貨物工場に、再び別の熱がこもり始めた。




「わかってるよ、お前も言えねぇよな?『お前らどっちかが死にそうになったら増援が来る』なんてよ」


「……」


「それが傭兵、知ってるよ。けど今日もっと知ったよ、俺には無理だって…」


「お前…」


「一人にしてくれ…助けてくれてありがとよ、こいつは俺がここでフランメに引き渡すから…」




確かに邪なことを口走っていたが、それでも失ってもいい存在ではなかったのだろう。項垂れた刀剣持ちに一声かけようとしたヴェルをカティが引き止める。




「エレイン支部に戻ろう、モモノヒ組に報告してこの依頼は終わりだ」


「…ああ、そうするよ」




燃えかけた火は静かにその焔を縮める。

だが消えることはなかった。







─────────────────




「ひとつ聞いてもいいか?」


「ん?いいけどなんだ?」



刀剣持ちを残して隣街のエレイン支部に向かう瞳力鉄道の駅に向かっていると、横にいるカティから聞かれる。



「企業秘密なら答えなくていいが、どうやってツァーグの眼帯を破ったんだ?あれはいくらお前の一撃が強いと言っても、大出力の古式瞳術すら軽減する代物だぞ」


「俺は瞳力を周りに出すか固めるくらいしか出来なくてさ。でもこの剣は摩擦熱で融熱を持ったまま振るえるから、炎瞳力を鞘の中に満たして高熱の状態にしてから切ったんだ」


「刀身に瞳力でノイズ結合、融熱でプリベントを切ったってことか。理屈はわかるが…というかお前瞳術からっきしなのか?それくらい子どもでも出来るぞ?」


「好きでこんな下手くそになった訳じゃない…でも生まれつきこうだったし特訓もしたんだ。それでも変わらなかったから諦めたよ」




忌まわしき父も大切な母も瞳力の扱いには長けていた。特に母はかつて戦場全てに響き渡るほどの療歌で多くの命を救い、伝説になっているほどだ。その子どもが瞳力下手、それ故に憎む父と同じ抜刀術とは皮肉なものだとヴェル自身、嫌悪している。




「ふーん…そんだけ強くても悩むんだな。そうだ、カスパールの話聞いたか?」


「カスパール?何かあったっけ?」


「近々第四勢力のテロが計画されてるらしいぞ。それも見世物らしいけど」


「見世物…ってどういうことだ?」


「もう国は潰す算段がついてるってことだ。ついでに世間に向けて防衛力を見せつけ、第四勢力には見せしめにするんだよ。大体俺たちの元までこんな情報が下りてきてる時点でお察しだな」




テロ、そんなものが身の近くで起きるということがヴェルにとって新鮮だった。不謹慎なのはわかるが、情報媒体でしか見た事聞いた事のない争いを感じられるのはいい経験になりそうだとフェートの血は体験を欲している。




「傭兵の雇用も始まってるらしくてな、トップランカーも参戦するんじゃないかって噂だ。それでうちにも話が来ると俺は踏んでるんだが、もし来たらヴェル、また俺と協働してくれないか?」


「えっ…俺でいいのか?確かにさっき協働させて欲しいとは言ったけど、事務所に来る大きな依頼ならフリーの俺よりも同じ事務所の傭兵の方が依頼報酬の分け前とか…」


「うちはその辺緩いからな、ある程度好きにできるんだ。その代わりランク上げが厳しいけど…まぁそれはいい。どうだ?」




思わぬ所からツテは出来る。

近所の偉大なるおじさんから教わったことがまた一つ実現した。あの人は本当に凄いとヴェルの中でまたしても株が上がる。








「ここだけの話、今回のテロ鎮圧には虹も出張ってくるってのがうちの予報士の見解だ。しかも軍事機構一課の【天光】らしいぞ」








心臓の鼓動が聞こえる。

軍事機構レナの第一課戦術局、その局長補佐である天光が戦場に来る。


イヴ・アイリスと言ったか。



ウェイドに今もっとも近い存在。





近づかなくては。






「ありがとう。その話、ぜひ乗らせてもらうよ」



【依頼の流れ】

エレイン依頼主窓口


傭兵は窓口嬢から依頼を受諾するが、依頼主がまずコンタクトを取るのは各地のエレイン支部にも配置されている依頼主窓口になり、ここで情報が得られたものをエレイン本部へと送り、本部で再度職員による精査が行われる

この精査とは危険性のランク付けのことであり、裏切り無報酬その他諸々は完全に受諾する傭兵次第となる

これはトップオーナーのサースティきっての指示であり、『自然的混沌』を望む彼にとってエレインの存在意義だと言って導入された

ちなみに依頼前は手薄いエレインだが、依頼達成後の傭兵への扱いが杜撰だと依頼主にはかなりの制裁が下ることで有名

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ