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虹の果てまで  作者: 灯台
第一章 胎動
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第23話 傭兵業界



その日の依頼は単調だった。


「ケリー商会からの貨物護衛依頼」という一見すると信用の求められる依頼かと思いきや公募されたものであり、それはつまり傭兵の使い捨てを前提とした任務であることを示していた。

『誰でも歓迎する。 依頼内容と装備修繕費、命について構わないなら』という開き直った依頼だが、達成さえすれば経歴に書き加えられるので人は集まってくる。


その中でも護衛依頼自体の難易度は低いと見られている。何事も起こらなければ装備の修繕費や治療費も無く終わり、エレインの手数料を差し引いた額面が懐に入るのだから。


そしてケリー商会といえば表市場でも有名な大手商会。バックには大国メルキオールが付いており、表沙汰に事件を起こそうとする者などそうはいない。


だからこそ油断した。



─────────────────



突如商会の裏手にある物流倉庫の方から爆発音が響き、ついで人々の悲鳴と荒れ狂う怒号が飛んでくる。




「逃げろ!襲撃者だ!!」


「邪魔だ弱者歯車ども!ひき肉にされたくなかったら迷わず逃げてろよォ!!」


「え、ちょ…まだコンポーネントからの荷物が!」


「ひき肉願望でもなければさっさと捨ててこっちこいバカ!」


「ちくしょおおお!!!」




いの一番に叫び周囲に伝える者、襲撃された時のマニュアルを思い出した上で足の竦む者、貨物運搬に使命を感じていた者…それぞれが襲撃を認識しつつ己の取るべき行動を取る中、巨大な鉄の棒を豪快に背負う襲撃者の前に刀剣や槍、瞳術詠唱の補助杖などを持った3人の傭兵が躍り出た。




「おいおい最悪だぜ…何で最後の日なんだよ……」


「あーアタシ今日で終わりかもしんないわ」


「おい!負け腰で挑んでどうすんだ!」




3人の傭兵はそれぞれが武器を構えながら言葉を交わす。軽口を叩きつつも、目の前の暴力から視線は離さない。


襲撃者が口を開く。




「俺ぁこんなナリだが繊細でよ、ビビってるやつを追い詰めるのは好きじゃねんだよ」


「じゃあさっきの脅しはなんだ?」


「ああでも言わねぇと歯車に命かけてるやつは逃げねぇだろ?それに一応エレインには【荒事可】で公示出してんだ。イメージ戦略ってやつよ」


「こいつ…ちゃんと雇われ傭兵してんじゃねぇか、最悪だぜ…」


「…そこは絶望するところじゃないだろ」


「あーでもさぁ、今日で依頼終わりでもお代分は働かないとダメだよねぇ…玩具堕ちで人生エンドはアタシでもやだし」


「そういうこった。依頼不履行になりたくなきゃさっさと殺られてくれや。前払いなんて餌に釣られたお前らが悪ぃんだぜ!」


「ぐわぁ!!」

「がっ!?」




そう啖呵を切りながら大男が武骨な鉄の巨棒を振り回し、杖を持つ女傭兵の前に構えていた二人の男をまとめて奥の壁まで吹き飛ばした。

そのまま壁に強く背中を叩きつけられた男たちは目を見開きながら口から血を吐き出し、力が抜ける。


だが巨棒を振りぬいた姿勢の大男に生まれた隙を女傭兵は見逃さなかった。



「フレアジェット!」


「がぁ!?」



高速で詠唱を終えた彼女の持つ杖から超高熱の火炎が噴き出し、大男を包み込む。


たとえ前払いに釣られたとしても、彼らは命を落とす可能性にサインをした傭兵たち。 一瞬の躊躇いが足を斬られ、腕を落とし、首を飛ばされる世界であるならば仲間の被弾に声を上げている暇はない。


だが…




「ぐ…声が聞こえてこないぞ」


「うぅ…最悪一瞬で死んだんじゃねぇか?」



(フレアジェットは確実に決まった、でも肉の焦げた匂いが最初しか…)



敵はこの反撃に耐えている。

そう判断した女傭兵は事態を把握するために下がりながら火炎放射を止める。




すると次の瞬間、




「これでほんとに終わりだぜ」


「……あ」




炎が消えた部分から腰の回転がしっかり乗った巨棒が顔めがけて飛び出し、彼女は走馬灯を見た。



────────────────



「...やられたか、ありゃ【眼帯】で防がれたな。 どうする?」


「あああ……最悪だ」


「今さらなんだ怖気づいたのかぁ??男女平等主義者の俺は面のいい女だろうが肉付きいい女だろうが、生け捕りの指示が出てねぇなら敵として殺すぜ。殺し方も選ばねぇ」


「アイツの身体をもう抱けねぇなんて…最悪だぁ!!」


「こんな奴とチーム組んだ俺の方が最悪だ、 別の女探せ。そんで俺に手を貸せ、奴の気を引く!」


「最悪だぜチクショウ!てめぇを斬るまで女は抱かんんん!!」


「じゃああの世でそこのカワイ子ちゃんとにゃんにゃんさせてやるよォ!!」




弾けるように槍持ちの傭兵が大男の左側に展開し、リーチ外から素早い連突きを繰り出す。

大男の得物は亡骸に突き刺さっており、回収しようにも刀剣持ちがそちらから距離を詰めてきている。



「腹と背中を縫い付ける!」

「食らっとけデカ野郎!!」


「やるじゃねぇか!だがよぉ!!」



前門から槍、後門から剣が迫る大男はしかし冷静に上半身を90度横向きにし、突き出された槍を掴んだ。

そして目の前には斬撃を躱されて隙を見せる刀剣持ち。



「おらよっと」


「ぐぅぅああ!?」



肩口に突き刺さる先端が鮮血を生み出す。

苦痛に顔を歪めた刀剣持ちは丸太のような脚に蹴り飛ばされ、躱され槍を奪われた傭兵は自身の得物を悠々と振り回す大男に追い詰められる。




「お前が一番イイ立ち回りしてるな、殺すのが勿体ねぇ」


「撤退か…だが……」


「どうだ、今後俺の協働相手にならねぇか?俺はエレイン序列467位のツァーグ、それなりに名前も売れてるし、 イメージ戦略のわりに依頼達成率も80%キープ勢だ。お前、この業界でやってける見込みがあるぜ」


「……ああ、 アンタのことは知ってるよツァーグ。 俺みたいな序列4803位の雑魚が、アンタみたいな高序列傭兵と知り合えるだけで人生逆転コースってこともな」




「......お前、もしかすると雇い主はケリー商会じゃねぇな?」





【巨鉄漢】ツァーグが呟いた刹那、背後の貨物が弾け飛んだ。




「!?てめぇ…!」


「はぁ!」



飛び出した影の構えは一撃で相手を切り伏せる難度の高い剣技、抜刀術。


だがツァーグとて異名持ちの高序列傭兵、とっさに奪った槍で防御の構えを取り、



「さっきやって見せただろうが!こっちにゃ眼帯があんだよ!!」



叫ぶと同時に半透明の薄い膜がツァーグの周囲に展開される。


瞳術として昇華された状態となる瞳力素の【正結合】、それにあえて干渉するようにズラした【ノイズ結合】による膜を咬ませることで使用者の身を守る高価な武装【ブラインドシールド】通称眼帯。これによりツァーグは先刻の瞳術フレアジェットから身を守ったのだ。なおかつこの眼帯は瞳術だけでなく実体物をも防御する。


ブラインドシールドは二層の膜によるシールドであり、 瞳術を防ぐノイズ結合膜の内側に展開されている正結合膜による防御瞳術【プリベント】が実体武器から使用者を守る。


つまり高価ではあるがこの武装一つで実体武器と瞳術、 現代の主武装から安全を確保することができる。


ゆえに、



「いただきだァ!」



ツァーグは迫る刃が目の前で止まる未来を見据え、誘っていた防御の構えを解いて向かってくる影に向かって凶刃を突き出した。



「いくぞ!一式、絶刀!」


「な、なに!?」



しかし止まるはずだった刃はガギン!という耳障りな音を発しながら眼帯の膜を二層とも破り、ツァーグの持つ槍の半ばから真っ二つに斬ってしまった。


「ぐ……ん?どわぁぁぁぁ!?」


折れた槍の先端が気絶から回復した刀剣持ち傭兵の目の前に突き刺さり、彼の最悪ランキングが更新された。


そしてこの戦闘の主導権を握った青年は、ツァーグの首に反りを持ち刀身が僅かに赤熱している剣を宛がう。




「鉄巨漢ツァーグ、 ケリー商会から手を引け」



【鉄巨漢】

ツァーグ


エレイン登録傭兵の巨漢

高序列の467位であり、戦闘スタイルは『デカいものを振り回す』というシンプルかつ豪快

だが装備費がかからないので防御面には資金が注ぎ込まれており、それにより攻守のバランスを取っている

所属している傭兵事務所は反社会的なイメージで売り出している傭兵が多く、その中でも依頼内容には忠実なタイプで知られている

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