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虹の果てまで  作者: 灯台
第一章 胎動
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第21話 護る力



「──以上が本件の経過報告です」




ユニゾナの平和を守るための組織、アルカ・シエル。その治安維持機構のトップと言える顔ぶれが数字の順に円卓に座しており、話し終えたイヴが席に着くと同時に軍事機構レナの議長であるガイル・グウェーダが口を開く。




「ありがとう。エルティエの件についてはゾーラとの協働調査を引き続き打診している。今後の対応なのだが、対処件数を鑑みて一課からは別の課に引き継ぎたいとのことだ。対応できる課はいるか?」


「二課は出来るぞ。暇してる部隊がいる」


「四課もまぁいけますよ〜」


「すみません、六課はバルタザールでの宗教テロ対応を優先します」


「ナナもごめんなさいね。オルティモとの一般術式開発の落とし込みがいいところなの」




それぞれの課が反応を示す。

承諾しているのは【断崖】テーグ・マルドール率いる二課と、【爽嵐】ファティマ・エイ率いる四課。六課のステオーラと七課のジレは優先したい案件がある様子。



何かと一課に突っかかってくる残り二つの課は、それぞれの反応を示す。




「三課はパスさせてもらうぜ、どう見てもきな臭ぇ。少なくとも協働であたる案件だろ」


「あら、ゼンにしては珍しく腰が引けてるじゃない?議長、五課は対応可能です」


「正義感だかなんだか知らねぇが、ステラみてぇに何でも飛びつく犬じゃねぇからな」


「三課ごと潰されたいのかしら??」


「じゃれ合いはその辺で頼むよ、お二人さん」




ヒートアップしかけた二人を議長のガイルが止める。初老に踏み込んでいる彼の笑みは柔らかいが、その好意を無下にした時の恐ろしさを知っている二人はスっと黙る。



(やれば出来るじゃないですか。議長がいないとあの二人はすぐに好き勝手言い始めますからね…)



イヴは内心でため息をつく。今日この場には別件で欠席している先生にも見せたいくらいだ。それでも実力、実績ともに世間から認められている者しかここには座れない。猛者とは一癖も二癖もあるものなのだろう。




「ふむ…フラーバ局長の危惧するところも確かだ。まさか聖なる猫の名前が絡んでくるとはね。前に表に出てきたのは…」


「リードルデン王国のクーデターの時です。あの時は私の課と七課で対処しました」


「ああ!ステラちゃんがやりすぎて城の中まで凍らせちゃったやつね!」


「ジ、ジレさん!それはもう勘弁してください…!」


「姉さん…仕事の時もそうなんだね…」


「あーあったなぁ!報告書見て笑っちまった…ぜぇ!?」


「ステラ〜私の前を通して氷を飛ばすのはやめて〜?」




毅然とした高貴な美少女、というイメージで認知されているステラが顔を赤くして椅子に座り込む。真後ろの壁に突き刺さった氷に怯えるゼンを尻目に、二課のテーグが口を開く。




「議長、聖なる猫は噂では頭が代替わりしたと言われている。構成員に変化はないようだが、以前のような穏健な賊ではなくなっている可能性もあるぞ」


「うむ、接触とはいかずとも活動方針や動向くらいは握っておきたいところだね。それならこの件は二課をメインに対処してくれ。エイ局長、手隙で構わない、四課には聖なる猫の実態を少し見ておいてもらいたい。構わないかな?」


「二課承知した。アイリス、後で報告書以外の話を聞かせてくれ」


「わかりました〜イヴ、私にも賊との交戦記録を教えてね〜」


「はい。お二人とも引き受けて下さりありがとうございます」





────────────────



その日の午後は特に業務もなく、自由に時間を使えた。もう報告書諸々は提出してあるし、今は一課の面々もそれぞれの仕事や整備などしている。



私はこの間の戦闘で見つかった課題の為、レナの訓練施設に来た。あのアギオスと名乗った男…防御の硬さが武器の私にとって対極の相手。易々とプロバイド・シールドの解という手札を切らされたことがまず減点だ。


あの場では犯人確保が最優先だった。しかしだからといってあの男を無視する訳にはいかなかった。

どうすれば両者とも確保出来たのだろう?

先生ならどうするだろう?



そう考えながらマッチスペースに来ると数グループの局員や個人でトレーニングをしている者の他に、よく知る先客がいた。




「早い!?」


「これでチェック、まだまだ甘いな」


「はぁ…投降する。流石に寄らせてもくれないな」


「近寄らせても負けるつもりは無いが、お前のような勢いのあるフロンターに接近を許すのは悪手だ」


「あれは…珍しい組み合わせね」




午前中にエルティエの件を引き受けてくれた第二課戦術局の局長であるテーグと手合わせしていたのは、うちの課の飛び込み隊長オーギュントだ。普段から交流があるとは知らなかった。

テーグさんは言わずもがな、オーギュントも局内外から人気のある局員だ、視線を集めている。




「お疲れ様です」


「イヴ、お疲れ」


「会議ぶりだな」


「あまり見ない組み合わせですね。訓練ですか?」


「ああ、俺からテーグさんに頼んだ。この前の鎮圧作戦あったろ?」


「コールドデンジャーの組織のですか?」


「そうそう、バイソンを捕らえた時な。あいつと交戦して少し手こずってさ。あいつ前情報のクロスレンジに加えて瞳力士とのコンビネーションもあったんだ。あの時はイヴに来てもらったが、うちの隊だけでも対処できるようにしたいんだ」




一応バイソンは指名手配、無許可での交戦禁止対象【コールドデンジャー】に指定されていたのだが、それを少し手こずったと言う辺りがやはり一課だ。




「テーグさんは近接戦も瞳術戦も一流ですからね」


「私の瞳術は接近戦用に術式を変えてある。この発動タイミングに対応できれば、大抵の混合スタイルを相手取れるだろう」



オーギュントは正統派のフロンター、瞳術を立ち回りに織り交ぜてくる瞳力士は苦手な手合いだ。その克服のためにマッチスペースを使っていたようだが…そうだ、私もそうしよう。




「あの、お二人とも疲れていなければ私からお願いしてもいいですか?」


「構わん」


「エルティエの一件で私も課題が見つかりました。お二人が一番ガードを削れる動きで、私のプロバイド・シールドを壊しに来てください」


「こりゃまた随分物騒なお願いだな。テーグさん、どうします?」




あの男に割られそうになったのには要因がいくつかある。その中で最もウェイトを占めているのは『一点突破に対する脆さ』だ。

今まで先生相手ですら一撃で割られたことはなく、私の生まれつき持っている豊富な瞳力含有量と生成量は鉄壁の護りを実現させていた。


だが破られかけたのだ。もしもあのまま拳を受けていたら、犯人の確保も出来なかったかもしれない。


それ以前に死んでいたかもしれない。



ならもっと強く、堅くならなくては。

私は誰かを護るために力が必要なんだから。



そのために今取れる最善の訓練はこれしかない!





「アイリスがいいのなら私は構わん。だが後で件の話ができる程度には加減させてもらうぞ」


「ありがとうございます…!少し試してみたいこともあるので、お二人とも同時に一点突破を狙った攻撃をお願いします」




少し距離を取り、右手を前に出す。

左の利き手で両手剣を振るうことが多いので、必然的に右手での防御が増える。普段と同じスタイルで訓練しなければ意味が無い。


オーギュントがブレードを構える。

切っ先をこちらに向けているところから、恐らく刺突技だろう。テーグさんはオーギュントに合わせるようだ。瞳術式を組み終えている。



「じゃあいくぞ…尖牙ッ!」


「ジェイルブレイカー」




ガギィィィンとかなり耳障りな音がマッチスペースに響きわたり、周囲から驚きの目線が飛んでくる。プロバイド・シールドに突き刺さる二つの槍は、擦れる音を出しながら瞳力の盾の内側へ侵入してくる。




「くっ…割られる…」


「はぁ!」




オーギュントが気迫を込めると、そのままはプロバイド・シールドはバリンと崩れてしまった。

余裕を持って後方に飛びずさる。




「やっぱり弱いですね、盾の強度を上げたいのですが…」


「敵の目の前でこの一瞬足を止められるだけで、こっちとしては命の危機だけどな。イヴは足止めじゃなくて盾としての活用を目指してるのか」


「元々は補助盾程度で組んだ術式でしたけど、今は誰かを護る盾になりましたね」


「……」




今は二点で攻撃され、少し耐えることは出来たがそのまま割られてしまった。なら範囲を狭めて強度を上げるか、それとも…




「アイリス、構えろ」


「え?はい…」




突然テーグさんが下がるよう声をかけてくる。




「訓練方法を一つ教えよう、強度を上げる一つの案だ」




そう言ってテーグさんは自身の周囲に岩の槍を多数出現させる。




「この岩の嵐を全て防ぎきって見せろ。必要なのは配分だ」



【断崖】

テーグ・マルドール 51歳


アルカ・シエルのベテラン局員であり、現在は軍事機構レナの第二課戦術局長を務める壮年の男性

レナ以外の機構での経験もあり、局内での顔の広さは断トツ

闘拳術と地瞳力素によるコンビネーションでどんな戦況にも対応できる柔軟性がある

現在の軍事機構において全世代からの知名度が最も高く、局長達からも尊敬されている

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