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虹の果てまで  作者: 灯台
第一章 胎動
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第20話 純陽鉄探査依頼5



「なんだって…?お前は誰だ?」



クラーゼの一言で場が凍りつく。

ヴェルは口を挟もうもしたが、ことを荒立てるつもりはないと言ったクラーゼの言葉を一旦信じることにして口を噤む。



「俺はユーリ傭兵団所属傭兵クラーゼ・バルドだ、今度は覚えておいてくれ」


「ユーリ…?お前さんセレスタのとこのか…?」


「団長を覚えてるってことはあんたもリゲル・ジョウで間違いないようだな。鍛冶師を続けてたのか」




───────────────




クラーゼにリゲルからの依頼を話した際、途端に顔を曇らせて言った。



「リゲル…ジョウの親父か!?こんな辺鄙なとこで何してるのかと思えば…まったく…」


「知り合いだったんですか?」


「向こうは覚えてないだろうが、こっちとしては世話になってた人だ。色々あったがな」




「その道じゃ知らない者はいない。ユーリ傭兵団の最盛期に専属鍛冶としてうちに来てくれてた神の手(ゴッドハンド)だ。団長が望んだ変態的な武器を実践レベルで作り上げることのできた唯一の男でな」






「その武器の破損で団長が傭兵を引退するまでは」






────────────────



「親父さん、あんたこの町の出身なのか?」


「…ああ。ここは純陽鉄が取れる数少ない鉱山の町だ。俺はここで親から鍛冶技術を受け継いだ」


「町を救うっていうのは、純陽鉄でこの町を再興しようってか?」


「そうだ。世話になった故郷のこの有様を見てられない」




「本当にそうか?俺の知るリゲル・ジョウはそんな綺麗事で金床に向かう人じゃなかったぜ」




お互いの表情が少しづつ険しくなっていく。

ヴェルは彼らの関係を知らないが、もしクラーゼの見通しが正しかった場合に備えて外に気配を飛ばしておく。




「あんたは自分の打った武器を振るえる奴を探すタイプの鍛冶師だろ?人に合わせず、自分のエゴを詰めに詰めた一本を使えるものなら使ってみろって言ってたもんな」


「…よく覚えてるな、そんな戯言を」


「俺は子どもながらそういう姿勢に憧れてたんだ、漢らしいってな。それがなんだ?今のあんたは…」


「なんとでも言え。俺はもうここを出る気は無い。最後に一度だけ純陽鉄を打ってみたかっただけだ、それで傭兵を探していた」


「まぁそれは本当だろう。だけど俺から見たらちょっと変なんだよ、この町の話は」






「この町が作ってる…調理器具だっけか?どこかで見たことのあるデザインだと思ってたんだが、今思い出した。そいつはあんたの鍛冶に間違いない。今は高級品として貴族に人気のブランド『マルチネスシリーズ』だ。だがこのブランドは製造地を公開してない…親父さん、あんたこの事知ってたか?」




「…ブランド?なんだそれは…?」


「ということは、やはり…」


「ああ、外に出るぞ。ジョウの親父さんは最後に出てきてくれ」



さっきまでのプレッシャーがたち消えたかのように狐につつまれたような顔をするリゲルを尻目に、ヴェルとクラーゼは玄関から外へ出る。





すると外では今までどこに隠れていたのか、数人の町の男たちがリゲルの家を取り囲んでいた。


その手に武器や凶器を持って。



────────────────




「お前ら…今なら何もしないから黙って出ていけ」


「その鍛冶屋はまだコーロに育てられた、返すべき恩がある。部外者は悪いが出ていってくれ」




「ヴェル、俺の探し物は実は二つあったんだが、今この場でもう一つも見つかった」


「クラーゼさん、依頼主の保護も傭兵の役目、ですよね?」


「もちろんだ。依頼を受けた瞬間から傭兵は依頼そのものの存在も司ることになる。依頼主がいなくては依頼は存在できないからな」






睨み合う住民側と傭兵側、家から出たらその光景が目の前に広がっていたリゲルは声を荒らげた。




「ちょっと待て!どういうことか説明しろ!俺は何も聞かされてないぞ!」


「親父さん、あんたはここの連中のいい金づるにされてたんだ」


「な…どういう…」


「そのまんまさ。こいつらは親父さんの作った調理器具を普通に販売するフリをして、都市部に勝手に持ってってブランドとして売ってたんだ。随分と儲けられたんじゃないか?」


「そ、そうなのか?お前たち…」


「……あんたが売ると下手くそだから代わりに売ってやっただけだ」


「だがあれだけ高級品として売れてるなら、この町はどうしてこんな寂れたままなんだろうな?売り上げはどこにいったんだろうなぁ?」




この町の立て直しや生活、傭兵への依頼金を用意するためだけに道具を打っていたリゲルには売買のことなど二の次になっていた。

だが彼にとっては売り上げよりも、この町に事実を隠されていたことの方が衝撃だった。




「親父さんが純陽鉄を見つけちまったらこいつらは困るんだよ、それでまた武器鍛冶を始めて外の町に行っちまったらもう廃れちまうってな。だから中層までヴェルを尾けていたんだろ?腐食蟹にちゃんと殺されてくれるかどうか…見届けに」


「な!?お前たち、まさか今まで俺が雇った傭兵も…!?」





「粘った人には後ろから瞳術をぶつけたんでしょう?」





ヴェルが口を開き、男たちの中の一人の表情が明確に変わった。



「俺は戦闘をしながら多くの死体を見つけました。その中にあった鎧に焦げが付いていた…背中側に。あの地下に瞳術を使ってくる敵性生物はいません。なら人が撃ったのでしょう?例えばそこで反応した貴方とか」


「ち、ちがう!俺は撃ってない!」


「では別の誰かですか?」


「俺たちの中にはいない!アイツが…」





「まぁこの際誰でもいい…フェートは意思を見つめる。アンタらの意思はそれでいいんだな?」




体の前で見せつけるように剣を抜いたヴェルから気迫が吹き出し、男たちの顔が引き攣る。




「クラーゼ、やはりあいつはフェートなのか…?」


「予想はしていたが、あいつは紛れもないフェート人だ。オーランジよりも若そうだが、しかしよく出来ている」









「く…くそが!!どっかいけよ!!!」


「うわ!?」



この張り詰めた空気に耐えられなかったのか、ツルハシを持っていた男が思いきり振りかぶって、その凶器をヴェルに向かって投げつけた。

ブォンという空気を裂く音を立てながら飛んでくるツルハシに目を向けたヴェルは何も急がず、左手に据えられた鞘を構える。



「外式、愚殴」



そして襲いかかるツルハシの威力を相殺するよう、鞘で同じだけの威力に調整して殴りつけた。


空中で回転と逆方向で全く同じ威力を食らったツルハシは、一瞬空中に止まる。



「一式、絶刀」



そして瞬時に引き戻した鞘へ高速で納めた刃で、ツルハシの鉄部分を両断した。




「うわぁぁ!?」


「ひぃ!?」



斬られた鉄の残骸が男たちの眼前に土埃を上げながら落ち、情けない声が上がる。





「依頼遂行に障害、排除する」






「ヴェル、そこら辺にしておけ」



肩にポンと手を置かれる。

ヴェルは構えを解くが、視線は前に向いたままだ。



「クラーゼさん、どうするんですか?」


「俺の目的は二つあると言っただろう?鉱山の調査ともう一つは『鉱山の再稼動に対する障害の調査』だ。調査対象達がいるんでな、こいつらは任せてもらおうか」


「…わかりました。俺はリゲルさんに報告の続きをします」



────────────────



クラーゼが事前に通信器で呼んでいた護送傭兵達が到着する。

男たちを荷台に乗せながら、他の協力者がいないかの尋問も始まっている。



「…以上が俺の見てきた深部の様子です。今後はクラーゼさんの受けた依頼の通り、ヘンディーグがあの鉱山の採掘を再開することになるでしょう」


「そうか…この町もこれで一つの終わりを迎える訳だな。傭兵、助かったよ」




「リゲルさん、これを」



しみじみと町の行方に思いをめぐらせるリゲルに、ヴェルは苦労して取ってきた"戦果"を差し出す。




「ん?お前、それは…純陽鉄か!?」






「リゲルさん、貴方はこの町の歪みを知っていた。違いますか?」




ヴェルはずっと考えていた、一つの想像を話す。





「貴方はあまりに傭兵が帰って来ないことから、何か自分の知らない力が働いているかもしれないと想像した。そしてそれがこの町に繁栄をもたらすものではないと」


「でも貴方はそれでも良かった。ここで粛々と武器でないものを打ち続けることが贖罪になると思っていた」


「依頼を出し続け、心を痛めながらも見て見ぬふりをして平和な道具を打ち続ける…」


「後悔していますか?団長さんの武器を打ったことを」






「随分とクラーゼから聞いたんだな。悪いがこれ以上はカウンセラーでもないお前が知るべきことじゃない」



リゲルもそう易々と過去を語ろうとはしない。しかし一度家に入り、すぐに出てくる。




「ここから先の話は俺の武器を満足に振るえるようになったら話してやろう。この剣を持っていけ」


「え…?」


「お前の抜刀術にそいつはもうついていけてない、手入れしているのはわかるが刀身は限界だ。これは変形機構を搭載していない純粋な一本だが、お前向きの面白いものを乗せてある。こいつが折れるその時までお前が生きていたなら、取ってきてくれた純陽鉄で打つリゲル・ジョウ最高の一振りを渡そう」




願ってもない提案だった。

既にヴェルがフェート村にいた頃からの剣にはガタが来ていた。むしろ消耗の激しい抜刀術にこれだけ長く耐えていたフェートの一般的な刀の耐久性がおかしいだけなのだ。





「傭兵、これが報酬だ。受け取ってくれ」


「…ありがとうございます。この剣、折れるまで振るいます」


「ふっ…やれるものならやってみろ、若造が」





傭兵としての初依頼は達成を迎えた。



【赤熱する抜刀】

融断刀 鬼断


【神の手】リゲル・ジョウがかつて打った刀剣

摩擦熱を溜め込みやすく、かつ融解しないよう配合された素材で打たれたこの剣は戦えば戦うほど刀身が赤熱していき、最終的には相手の武装を溶かしながら断ち切ることができる

この絶妙なバランスの素材配合も神の手の由来

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