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虹の果てまで  作者: 灯台
第一章 胎動
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第18話 純陽鉄探査依頼3



自分では無い声が空間に響いた瞬間、至近距離で爆発音が聞こえて身体へかかっていた死の重みが軽くなる。

その隙を見逃さずに巨大カニの凶刃から逃れたヴェルはフレイムメイルを再度展開して離れつつ、声の主を探す。


必死過ぎて気配を掴めていたかったが、今なら容易に掴める。右の方でもう一頭の倒れ込んだ野犬の脳天に銃剣を突き刺したまま、こちらを見ている男がいた。



「はぁ、はぁ…助かりました、ありがとうございます」


「『殺すまで死にたくない』か、大層な"意思"だな。それで今、目の前は見えているのか?」


「野犬はもう一頭を恐らくあなたが殺してくれたので後はこいつだけ。カニも頭はそこそこ回る様子だけど、俺が掴まれている間にもう一方の右手のハサミで切断しに来なかった。傷のついたあの右のハサミはもうあまり動かせないのかもしれません」


「悪くない、ではここは協働といこう。俺もこんなやつとはさっさとおさらばしたい。フォローするから前で好きに戦え、背中は撃たないと誓おう」



平常時なら怪しむところではあるが、先ほど命を救われていることやこの状況で敵を増やす余裕などないことを認識して前に立つことを選ぶ。



「前に出ます。あ、名前は…」


「俺はクラーゼ・バルドだ、クラーゼでいい。お前は?」


「お、俺は」



一瞬迷った、スカーレットの姓を名乗ることを。

ウェイド・スカーレットの名は世界中で知られている。そんな男と同じ姓で同じ瞳力性質、同じ戦闘スタイルでは血縁もしくは熱狂的ファンにしか見えない。



「…ヴェルです」


「わかった、いくぞ」



結局名前だけ名乗ったが、クラーゼはそもそも呼び名さえわかればいいらしい。すぐに横に展開していき、巨大カニも自身を傷つけてきたクラーゼに注目している。



マークが外れたので攻め入り方を考える。

さっき上部からの刺突は通らなかった。あれで甲羅も腐っていたなら内側にダメージを与えられたのだが効果的ではない。


なら右のハサミの部位欠損を狙う?あるだろう。あれだけ巨大化しているハサミなら自重バランスにも影響しているはずだ、そこを崩したい。



ならまず突くべきは…




───────────────



軽い調査のつもりがどデカい野郎とぶち当たったようだ。こいつは恐らく記載のあった【腐食蟹ラドクラブ】だろう。前に存在が確認された6年前から腐食していたので今は絶命しているとされており、この調査の備考欄に置かれていただけだったが逞しく生き残っていたのだ。


だが流石に弱ってはいる様子。いくらモンスターとはいえ死骸や鉱石だけで生命活動を維持できる種は少数だ。それをカバーするために野犬と共生関係を築いていたのかもしれない。最高の食事である人間、それも瞳力を滲ませているやつが目の前に現れるまで。



なかなか面白いやつを見つけた。

『殺すまで死にたくない』とは。




「さぁどう出る?お前の戦い方を見てやる」



さっきの会話からヴェルはハサミの破壊を狙っているのだろう。そこに至るまでの過程をこっちで手伝う。



「クラッジバレット、撃ち込むぞ」


「ギビィィ!!??」


「瞳力銃か…珍しいな」




新調したばかりの瞳力銃剣、改造されたマスケットをカニの眼部に向け目から光が漏れる。狙いを定めて術式を完成させ、高速の岩石弾クラッジバレットが巨大カニの目に直撃する。


目はほぼ全ての生物にとっての急所。暗闇に適応しているとはいえ視覚を退化させるほどの環境ではないと踏んだが当たりだったようだ。



仰け反ったカニにヴェルが一瞬で接近する。

面白い歩法だ、体幹をほぼ崩さずに高速で移動している。何かの予備動作も含めての動きだ。


そのまま近付いていきヴェルは、



「上がダメなら!二式、双巌!」


「な!?バカか!?」


「グブッ!!」





なんと一度仰け反ったカニの巨体の()()()()()()、超低姿勢から抜刀術を放った。一撃目の抜刀の残心をそのまま回転させ、二撃目の回転斬りに繋げる。

腹から二発のヒットを食らった巨大カニはそのままひっくり返りそうになるが、ハサミが天井に突き刺さって両手を挙げて拘束されているかのようになる。



(さっき身体を裂かれそうになった奴とは思えない飛び込み、それにあの抜刀術…二撃目は刀を返して刃のない棟の方で打ち上げていた。確実に対人戦闘用のスタイルだな)


「アグロメイト、爆ぜろ」


「ギィィィィィィ!!!!!」



腹を見せているカニに先ほどヴェルを助けた爆発集塊岩を放つ。衝撃で対象に向けて至近距離で岩礫を撃ち込まれる破壊力はカニの腹も爆発させ、得体の知れない体液と肉を撒き散らす。


ヴェルは既に離れているが、カニが激痛でもがいてもハサミが抜けないことを見て再度飛び出す。



「右手のハサミを介錯してやれ!」


「左にお願いします!」


「な…やれるのか!?」


「やります!」


「面白い!ロックピック!」



ヴェルが狙いを変えたことを察して、カニの全身に真下から岩を細くして何本も突き刺す。体はさらに固定され、もはや足を震わせることしか出来ていない。



「こいつもやる、クラッジバースト!」



単発で放つクラッジバレットを三連バースト、連続で同じ位置に撃つ。寸分違わず全て左手のハサミの付け根に命中し、確かな削りを見せる。

そこへトップスピードのヴェルが駆ける。



「一式、絶刀!」


「ギァァァァァ!?!?」



高速の抜刀術がカニの唯一の武器であった右手を斬り飛ばした。これでもう奴の脅威はなくなった。




その後はすぐに弱体化したカニの頭部にヴェルが刀を刺し、この空間の主は絶命していった。



【夢の跡地】

ラクモア鉱山


鉱山町コーロの奥にあるかつての金のなる山

現在は誰も入る者はおらず、敵性生物の住処と化した

中でも中層以降は電力も届かなくなっており、アンダーグラウンドのモンスター社会が形成されている

腐食蟹ラドクラブは中層域で幅を効かせていた首級生物

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