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虹の果てまで  作者: 灯台
第一章 胎動
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第15話 路地の天使3



瞬間、男は歩いていた両脚が焼けるような痛みに襲われる。痛みで全身が反り返るが、脚が動かずにバランスを崩しそうになる。



「あがぁぁ!?」


「殺しはしませんが、姿くらいは見せなさい」



痛みに苦しむ男にイヴは近づく。

これを羽織って姿を隠してから襲撃していたのだ。

ゾーラの捜査官たちはいつまで経っても捕まえられないことから、いくつかの可能性を考慮していた。まさか、その中で最も現実離れしていると言われていたこれが答えだったとは。



「が…な、なんで…?」


「姿は隠せても足音は消えません、土埃で足跡も残る。落ち着いて見れば何かがそこにいるのは明白です」



男が羽織っているであろう外套を剥ぎ取って、残りは周辺で警戒網を敷いているゾーラに任せよう。





そう思ったイヴの頭上に歪んだ景色が落ちてくる。




「…!おま、上!」


「え?…っ、プロバイド・シールドッ!!」



男の声に意識を委ねて頭上に手を向けると、ガァァン!!!!という鉄の塊同士がひしゃげるような音が路地裏に響く。


襲撃者!?

数は?視界が悪い…!


実体がよく見えない…この男と同じ物を、いやこの感じだとこの男に妙な外套を渡した側だろう。




堅牢なプロバイド・シールドに重力加速度を乗せて直撃した襲撃者の拳は、盾を割らんとばかりに押し込みを強める。




「そんな、先生の剣も捌けるプロバイド・シールドを押し込んで…!?」


「悪ぃがそんなんでも機密情報を持ってるんでな、逃がしてもらうぜ!」


「それは無理な相談です!解!」


「ぬぉ!?」



襲撃者の拳を受け止めていた盾を一瞬で消し、再び宙で重力に引かれ落ちてくる。

構えた左手に馴染んだ両手剣を出現させる。刃に白瞳力を纏わせ、峰打ちで沈める!



「はぁ!」


「峰打ちだと!?そんな腑抜けにやられっかよぉ!!」



しかし襲撃者は腹に打ち付けた両手剣の衝撃に耐えてくる!

馬鹿げている!人間の腹筋とは思えない!



「な、馬鹿ですか!?峰打ちでなければ死んでますよ!?」


「わかってっから受けてんだよ!!オラ!」



襲撃者の蹴りが飛んでくる。今度は加速度も地に足もついていない蹴りだ、これなら受けられ…



「がっ!?」



そんな甘さを打ち砕くかのように胸元を蹴り飛ばされたイヴの身体は路地の奥まで吹き飛ぶ。

幸い壁に打ち付けられることはなかったが、肋骨の数本は持っていかれたであろう痛みが襲う。



襲撃者の方にも変化が起きる。

さっきのイヴの一撃を腹で受けて衝撃で外套が破損したのか、その姿が顕になっている。


暗めの赤い短髪で全身の筋肉は隆起している。

左眼には傷跡があり、一目で近接戦闘を挑むべきでないとわかる相手だ。




「あ…き、恐拳…」


「まぁ安心しろや、上はもともとお前が失敗すると見てたからな。Mr.は自分が連れてきたやつだから面子もあってキレてたけどよ」


「Mr.が…もうダメだ…」


「だぁもう仕方ねぇな!俺からも頼み込んでやるからそんな顔すんな!死なねぇ程度に働ける工場ならツテもある、立てるか?」



襲撃者がステーク・ディバインの杭を素手で握って破壊する。あれは光瞳力を圧縮したもの、あの高熱に表情すら変えないなんて…何者?




「フィクス・マーク…待ちなさい!」


「おいおい…アルマの報告通りだな…俺のクリーンヒット受けて起きてくるたぁ細身のくせに硬ぇな嬢ちゃん!ここはお荷物も居るからさっさと退散させてもらうぜ!」



粉々の肋骨に瞳力による応急処置術式を流しながら、逃走する奴らを追いかける。

イヴは移動加速をするために懐から緑色のアンプルを取り出し、目の前で砕く。


襲撃者は犯人を担いで壁を蹴り上がっていく。人を一人抱えながらできる芸当ではないが、目の前で屋上の高さまで到達している。



「フィグメント・ウィンド…アクセル・ブリーゼ!」


「うぉ、やべ!?」



砕いたアンプルから風瞳力が吹き出してくる。

イヴは自身の特殊な瞳力で風瞳力に同調し、全身を薄緑色に包む。

左足で力強く路地の石畳を踏み込んで全身を縮め、脚を弾かせた瞬間に風瞳力を背後で炸裂させ、襲撃者の真上を取る。



「逃がしません!」


「上か!仕方ねぇ!」


「え…うわぁぁああ!?」


「なっ…」



彼らの頭上を取ったイヴは二人まとめて下に叩き落とそうとしたが襲撃者の判断は早く、真っ先に犯人が捨てられた。


今の自分にとっての最優先事項は何か、イヴはその問いに答えるように、落ちていく男を確保するために足裏に空気を生成しては炸裂させていく。



「た、たすけ」


「動かないで!」



ギリギリで男の下に飛び出したイヴが自身を中心に風の渦を巻き起こして浮かび、犯人をできるだけ優しく受け止めた。



────────────────




「さすがは虹の筆頭局員、人名最優先ってか」


「下衆に褒められる謂れはありませんね」


「そりゃそうだわな。俺はアギオス、盗賊団【聖なる猫】のアギオスだ。追撃するなら優しい人にしてくれ、あばよ!」



『こちら作戦エリア、イヴ。犯人は確保しました。しかし回収者が現在逃走中なので追跡を!かなりの手練、聖なる猫のアギオスと名乗りました!』



『こちら57対策室、了解。追跡チームは追跡を開始せよ』




ACUAでゾーラに襲撃者の追尾を頼む。

これで一旦はこの場を凌ぐことができた。


しかし情けない…手練だったとはいえ全確保に至らなかった。犯人を確保できたことは最低限といったところだ。閉所での戦闘における手札の少なさも今後の課題だろう。




「は…生きてる…?」


「ええ、あなたに聞きたいことが山ほどあります。このまま自警団に引き渡します。ゾーラの尋問に答えてもらいますよ」


「あぁ、わかった…その方がマシだ、もうMr.の元には帰れねぇからな…ありがとな天使様」


「私は天使ではありませんよ…?」


「いや、俺にとっちゃ天使だ。おかげできっぱり諦められた」


「…?それはよかったですね」



────────────────






「あれが白瞳力…実際にこの目に見るのは初めてだな」


「あれが前に世に出たのは30年前、かつては隠されていた力だからな。気に入ったかな?」


「原初の龍の片割れの力…自分の瞳力を周辺瞳力に同調させ、全ての瞳力属性に変化させることが出来る、か」


「天光がまだ使いこなせているとは言い難いが、あの能力が猛威を振るうのは戦術、戦略規模だろう。大規模な戦闘になると奪うのは難しいぞ」





「俺とシヴァ、イーリスにはモノクロームが必要なんだ。なら迷うことはないさ」



【特別指定技能】

白瞳力


アルカ・シエル第一級特別指定技能

他に類を見ない特異体質で瞳力の色は白く、瞳力属性としては光にあたる

自身の瞳力を周辺の瞳力素に同調させ、本来ユニゾナの人間では多くても三種類程度しか扱えない瞳力属性を全て扱えるようになる

世界に染まる力であり、モノクロームの鍵

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