第14話 路地の天使2
「それで次の襲撃地点はここだと?」
「はい、今までの襲撃地点で囲われた赤の範囲では確かに何も起きていません。ですがここまで挑発的に事件を起こされていることを鑑みるなら、これは罠でしょう。そして何より一度しか襲撃されておらず、さらに失敗に終わったこの北東の路地裏…ここは敢えてゾーラがパトロールを薄くした場所です」
「敢えて…?こちらも網を張っていたのですか?」
「ええ。もう既に数回の襲撃を許してしまった我々です。今更後手に回ったところで相手が気持ちよくなるだけ。ならば相手が心から気持ち悪くなるような、最悪な捕まえ方をしてやろうとエルティエ支局は結論を出しました!」
なんと強かな。
というか世界連合統一機関の規律、法を司る機構が出すにはあまりにも過激な決議だ。
だがここまでコケにされていて頭に来ないはずがない。虹としてのプライドは私にもある。
「わかりました。ベネッタさんたちの方がエルティエは詳しいでしょうし、その案でいきましょう」
「ありがとうございます!上手くいくのか、少し不安もありますけど、イヴさんが一緒なら成功しそうな気がします」
「お力になれるよう頑張りますね。ベネッタさんは捜査官になってから日が浅いとおっしゃってましたが、手馴れた雰囲気がありますね」
「そ、そうですかね?実はこの間すごい傭兵の人たちに助けてもらって、私も頑張ろうって思ったので!」
『私もその予定でいたのだが…ある青年によって阻まれてしまったよ』
エルティエで聞くのは二回目になる傭兵の話。
なぜかとても気になってしまう。
あんな含みのある言い方をされたからだろうか。
「…あの、ベネッタさん」
「はい、なんでしょう?」
「その傭兵って…」
《EMERGENCY》
ビビっという音とともにACUAから緊急コールがかかる。視界にコールしてきた捜査官のデータと音声波形が薄く現れる。
「私が出ますね。イヴさんは聞いててください」
『ゾーラ、エルティエ支局、事件番号57対策室に報告します!』
『こちら一等捜査官ベネッタ・コーデルです。どうぞ』
『犯人と思わしき男を見かけました!特徴は一致してます。やはり一度失敗しているラストポイントの辺りです!』
『わかりました。すぐに急行するので住民の安全確保を最優先に動いてください』
どうやらタイミングが良かったらしい。
逆に悪かったとも言えるが。
けどここからは私の仕事だ。
気を引き締めてかかろう。
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『完璧にやれなきゃ意味ねぇよ。価値がなきゃ生かしとく理由ねぇよ。次でやれなきゃタマねぇよ?』
クソ!こっちが下手に出りゃいい気になりやがって!あんなん知らねぇよ!
せっかく裏口で雇えた高額傭兵もいたってのになんであのタイミングで変な奴らが来るんだよ!?しかもあの傭兵全然陽動出来てねぇじゃねぇか!
マズい…次ミスったらもうMr.の元には居られない…それどころか俺の首がくっついていられるかもわかんねぇ…!
けどおかしいだろ!?虹の奴らにちょっかいかけるって大ギャングがやることだろ!
なんでこんな中くらいのギャングが喧嘩ふっかけてんだよ!?
Mr.はなんかやべーもん持ってるって噂だけど、それだけで虹に喧嘩売れるレベルなのか?
いやそもそも俺がMr.のとこに金を借りなければ…
あークソ!
もう殺り方とかどうでもいい…
ここで一人刺せばいいんだろ…!?
息を潜める
ターゲットに出来そうなやつは数人歩いてる…あの帽子をかぶった女にするか、服も汚ぇし。
何食わぬ顔で路地を歩く。
当たり前だ、あの時がおかしかっただけで今までこうして上手くやってきたんだ。
女が角を曲がる。
その先の家に行くのか?悪ぃが逝ってもらうぜ…
角を曲がった瞬間、静かに【マジック】を使う。
これで俺は透明だ…やっと解放される!
「なるほど、それが真実を隠していたのですね」
女が振り返る。
そこには纏った服のようにみすぼらしい顔などなく、かつてユニゾナに舞い降りたと言われる聖天使ハウのような…
「ステーク・ディバイン」
天使の裁きが訪れた。
【一等捜査官】
ベネッタ・コーデル
法理機構ゾーラのエルティエ支局に務める捜査官
自分がまだ一等捜査官に合格したばかりの未熟者だと思っているが、毎年の合格者が5%前後の狭き門を通っているエリートである
だが彼女の劣等感は薄れない
なぜなら彼女の産みの親は法理機構の長なのだから