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虹の果てまで  作者: 灯台
第一章 胎動
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第13話 路地の天使1



エールはあまり好きではない。

もちろん私はまだ15歳、酒の摂取制限は18歳なので飲んだこともない。

では何が嫌いなのかというと…



「ヘェイ白いお嬢ちゃん!飲んでるかぁ!?」


「バッカおめェどう見ても18じゃねぇだろぉ!?ありゃあ12ちゃいだ☆」


「お、確かに。あひゃひゃひゃ!!」


「…失礼しました」




頭のネジが緩まることだ。




────────────────



調査協働の命を受けてから準備をして、港町エルティエに到着した。

船を降りると人々の喧騒が出迎えてくれる。



「さて、まずはゾーラですね。事件の詳細の聞き取りを行いましょう」



この町で起きている未解決の連続刺傷事件。先月末にはゾーラの捜査官二名も襲われて負傷している。この事件の注目すべきは被害者に共通点などがなく、ただ無作為だという点。つまりこれは事件を捜査させることが目的で、ある意味法理機構ゾーラへ向けた事件だともいえる。


ACUAでゾーラの支局に到着を伝える。



《通信が繋がりました》


『こちらは法理機構ゾーラ エルティエ支局 一等捜査官のベネッタです』


『私は軍事機構レナ 第一課戦術局 局長補佐のイヴ・アイリスです。先ほどエルティエに到着しました』


『ああ!協働要請の件、引き受けて下さりありがとうございます!今お迎えに行きますね』


『いえ、そこまでしなくて大丈夫です。この町の地図データを送って頂けますか?少し情報収集しながら向かいたいので』


『そういうことなら承知しました。すぐに送りますので、支局でお待ちしていますね!』




とても気立てのいい女性が応答してくれ、言った通りすぐに地図データが来た。

事件現場は大体が路地裏…今は地元警邏が封鎖しているそうだが、その中から被害者はまだ出ていない。次のターゲットになるかもしれない。


ゾーラへの道すがら酒場に寄って情報収集をしよう。

目撃者は既に事情聴取は済んでいるだろうから、噂や信憑性の低いピースを集めて埋まっていない部分を私が埋められたら、わざわざエルティエに来た甲斐もある。





そうして向かった酒場で、理性を飛ばした者どもに子ども扱いをされる始末だった。





───────────────




「はぁ…こんな昼間から飲んでいて、一体何を生業としているのでしょう…?」



アルカ・シエルのお膝元であるソリスの酒場ではこんな腑抜けた空気はない。別に虹が治安に介入している訳では無いが、何となく昼間はきっちり仕事に臨む人が多いのだ。

白を基調とした街の雰囲気がそうさせるのか?

虹の元にはそういった気質の人が自然と集まってくるのか?




「あいつらは漁師だ、ここは港町だからな。昼間から飲んでいるというより、今が仕事終わりなんだよ」




急に後ろのカウンター席から私の頭の中を読んだかのような返答が返ってきた。振り返ると初老でウェーブのかかった長い髪を束ねた男が、酒を飲みつつこちらを見ずに座っていた。



「朝っぱらから漁に出て、帰ってきて荷降ろししたら大体この時間になるんだ。仕事上がりに酒を飲み、帰って寝るとまた朝っぱらには起きて出発…ってことだ」


「なるほど、彼らの生活リズムなのですね。勝手な思い込みをしてしまいました」


「時に貴女はどのような生活を送っているのですか?」


「淑女の嗜み程度ですよ。随分とこの町のことを調べたのですね」


「……何のことかね?」


「貴方の飲んでいるお酒、ミントを浮かべて飲むヴィブレーゼはこの町では流通していないはず。それを酒場で飲んでいるということは、マスターの許可を得て西大陸から持ち込んでいるのでしょう?」


「いやいや何を。旅の途中で商人から買った酒ですよ、飲み方も教えてもらったんです。それともご貴族ごっこは嫌いですかな?」


「文化は否定しません。旅をしているには随分と綺麗な靴ですね。何足目ですか?」


「……今年は運が向いている。聡いやつは気に入ってしまうよ」




相手の容姿、風貌からおおよその当たりを付けた上で話に乗っていく。

どうやら間違っていなかったようだ。


だがこうも簡単に腹を割って来るということは雇われだろう。彼の後ろにいるであろう存在のしっぽだけでも炙り出したい。もしエレイン経由での依頼なら交渉記録が残っているはずだけど…


エレインが激しく嫌う行為の一つ、あまり取りたくは無い手段だ。虹からの捜査協力と情報開示はよほどの事件でなければ取るな、という暗黙の了解があるほどに。




「残念だが私は雇われた身でね、何か情報を得たいのであればエレインに頼むんだな」


「…随分とあっさりバラすんですね」


「なに、最近は機嫌がいいんだ。実入りのいい仕事も入ってくるし、将来有望な若人もこの世界に生まれている。素晴らしい日々だよ。そうは思わないか?その内の一人…天光のイヴ。意外なビッグネームがこの件に絡んできたもんだな」


「ここ最近の襲撃事件はあなたによる犯行ですか?」


「いいや、私の仕事は陽動だよ。無論詳しい話は話せないが…この先は何か払ってもらうしかないな」


「要りません。汚れた手段で得る結果には胸を張れませんから」


「ではこれ以上なにが望みだ?」


「捜査の一環として聞きます、あなたはこの件で人を殺めましたか?」


「……なるほど」




私の問いかけに対してヴィブレーゼに浮かぶミントの葉をじっと見つめながら、男は黙り込む。

大して私はじっと男から視線を外さない。

こういう時は身動きを取らないことが誠意になる。




「中々に割り切っているようだ、これ以上は話せないが答えよう。私は一人たりとも傷つけていない。これでいいかね?」


「ええ、ご協力ありがとうございます。あなたの行く末に虹の軌跡を」



よし、これで少し仮説が立てられるようになった。


この男は主犯では無いという仮定。

陽動のために雇われた傭兵だという仮定。

上記の仮定ならば一連の事件は組織的な犯行だという仮定。


なんの成果もなしに向かうのでは、一課の天光の名折れだ。




「天光、少し待て」


「なんでしょう?」




もう手土産は選び終えたのでゾーラを目指そうと思ったところを再び男に呼び止められる。




「欺瞞というのは多少の被害性があった方が騙しやすい。私もその予定でいたのだが…ある青年によって阻まれてしまった。彼は君と同じように私の役割を見抜き、その場で背を向けて次のターゲットの元へ行った」


「はぁ」


「もし興味があれば調べてみるといい。今頃は…そうだな、エレインにでも向かってるだろう」


「…どうも」






最後に歯切れの悪い捜査になった。

ただ足らぬ傭兵だとは思ったが、最後の行為の意味がよくわからない。何故私に、自分の計画を邪魔してきた人に会えと言ってきたのか…


ダメだ、平時の並列思考はやめよう。先生の教えの通りに一度頭の片隅に置いておき、事件のことを考える。男は傭兵、青年とやらもエレインに向かったのなら恐らく傭兵関係者だろう。なら後でいくらでも情報収集は可能だ。


ゾーラとの協働、エルティエの連続傷害事件はやはり複雑に絡み合っている。支局に着いたら早速調査報告書を読ませてもらおう。





意外な収穫が得られた酒場から出る。


部隊指揮で悩んでいたところだったので、こうして一人で動くのは少し気分転換にもなりそうだ。

もしかして先生はそのために私を…?


いや、あの不器用な人ならそんなことはないだろう。異名持ちが運も持ち合わせているだけ、そう思っておこう。







────────────────



「揺れないと気が付くや否や七色規律(セブンスコード)に触れるかどうかだけ確認するとは、理想に溺れるタイプではないようだな」


「長い依頼になると言っていたが、思っているよりも早めに事は動き始めているぞ。さて、私はどちらにつくか…」




「アイリスとイーリス。ゼノ・イーグルは面白そうな方を選ばせてもらうよ」



【???】

ゼノ・イーグル


ヴェルと交戦、イヴと対話をした謎の男

初老でウェーブのかかった髪を束ねており、傭兵であることは判明している

エルティエでの連続傷害事件に関係しており、その戦闘力も未知数

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