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虹の果てまで  作者: 灯台
第一章 胎動
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第11話 契約試験



目の前には大型の熊、グリズリーと呼ばれる生命が自分の命を喰らおうと目をギラギラ光らせている。


一般的に熊は素早いというイメージはあまり持たれていない。確かに走り始めの動作はそこまで素早くはないが、スピードに乗ると風瞳力による移動加速に匹敵するほどに速度が出る。



つまりこのグリズリーの目の前で立っている自分は、ほぼ逃げることは叶わないということだ。




「では契約試験を開始します。合格条件はグリズリーの討伐です」




全身に叩きつけられる野生の生命の咆哮を、戦いの始まるゴングに捉えて殺すことを決断する。




「グアァァ!!」


「まずは性格…」



抜いている剣でグリズリーの恐ろしい腕から繰り出される飛びかかりを受け流す。ガキン!ガキン!と剣から発されてはいけない音が響く。自前のものでは無いとはいえ、剣を扱う者としては心地は良くない。



「俺の技術がもっとあれば君にも負担をかけずに済むのに、ごめん」


「ガァッ!!」


「随分熱くなりやすいみたいだな、これで!」



一瞬で普段の構えから右足を後ろへ引く。

そこへグリズリーの膂力による力任せの大地砕きが振り下ろされる!



遷流(せんりゅう)!」


「ギグッッ!?」



迫る破壊槌を受け流しつつ、その場で体ごと回転させながら体内に走った衝撃を回しながら返し放つ!

左逆袈裟がグリズリーの右腕を切り飛ばし、人間よりも遥かに屈強なグリズリーの腕は鮮血を散らせながら宙を巻い、恐ろしい熊は信じられないと言いたげな目で自らの腕を見ている。


しかしその息を止めてしまった一瞬こそフェートに付け入らせる隙を与える。



体に染み込ませた納刀の動きから、このために編み出した歩法とともに0から100へ加速して抜き出す!



「一式、絶刀!」


「ギッ!?アガァァ!!!」



これで両腕を落とした。

もう奴は戦えない。

腕を動かそうにもなにも動かないという絶望を受け止めきれず、グリズリーは体ごと俺の方に突っ込んでくる。

目は潤みつつも憤怒の表情を浮かべている。



「苦しまないように送るよ」



ただでさえ巨体のグリズリーが両腕を失くしたのだ、突進などしたらバランスが取れずに倒れ込む。




俺は納刀し、この森の生物たちや人間を襲い震え上がらせていた存在の首を静かに刎ねた。





─────────────────




中央大陸、山間部の鉱山町に戻ってきた。

契約試験は終わり、もちろん問題なく合格。

今は巨体のグリズリーを猟師たちが解体し、鮮度を落とさないように町に運んでいる。



「すまない、正直君のことを侮っていたよ。【電竜】の推薦があったとはいえ、契約試験で高難度討伐依頼をさせるのは異例だったからな」


「ありがとうございます。でも個人的には小さなところから少しずつ経験を積もうと思っていたのですが、こういうのはいいんですか?なんかズルをしているような気がして…」


「ズルではないよ。サースティが…ああ、エレインのトップオーナーが定めたことだからな、『秀でた者には秀でた環境を。どうせ死ぬ』って言ってね。全く悪趣味というか気狂いというか…」


「はは…なるほど…」



だが確かに効率的ではある。

優秀な者の中にも優劣は存在し、恐らくトップオーナーが求めているのは上澄みの上澄み…ライノのような俗に高序列ランカーと呼ばれる存在なのだろう。

それを効率的に集めるには下手に優秀な程度の存在をさっさと消して、残ったエースだけでリソースを取り分けた方が無駄がなく手っ取り早い。



「サースティ…どんな人なんだろう」


「悪いことは言わん、あれに気に入られるとろくなことにならんぞ。ああ、しっかりやっとかないとな…」



すると試験官は懐から高級な羊皮紙を取り出し、グリズリー解体用の道具箱の上で印を押して半分に切り、割り印にした状態で差し出してきた。




「ヴェル・スカーレット。エレインはあなたを歓迎します。今後は傭兵として登録され、本部や各支部で依頼の検索や受注が可能となります。依頼主から指名依頼が入った場合にお伝え出来るよう、支部でも構いませんので窓口嬢に名前を一言お伝え下さい」


「はい、ありがとうございます」


「3営業日以降、一度本部にいらして下さい。受注方法やエレインナンバーをお伝えします」




エレインナンバー、つまり俺も序列を与えられることになる。契約試験があの幼馴染によって勝手にレベルを上げられていたことも考えると、きっと他の受験者よりもそれなりの番号を貰えるのかもしれない。


いや、思い返すと何してくれてんだライノ!

確かに良いスタートは切れたけど、それなら推薦してくれるだけで良かったのに試験難度まで上げなくてもいいじゃないか…試験官から話を聞いた時はかなり緊張した。

自惚れるつもりはないがこれでもあのロダン様の修行、トールおじさんの独り立ちを乗り切ってきているのだ。半端な結果で泥を塗る訳にはいかない。




それにエレイン登録傭兵になるのも手段に過ぎない。


あくまで目指すはウェイドの首だ。





「しかし君の戦い方は不思議だ。そんなに身体が大きいわけでもない、剣も貸与品も一般的なブレードなのに威力が大きく出ていた。【電竜】も似た動きをしていたが、それとも違う…武の行き先が全く違うな…」


「評価していただけるのは嬉しいんですけど、まだ仕事をした訳では無いのであまり期待されるのは…」


「ああ、すまない。プレッシャーをかけるつもりはなかったんだ。それではこれで失礼するよ。円滑な試験への協力ありがとう。現場はそのままで帰って構わないよ」


「はい、ありがとうございました!」




とても優しさのある試験官だった。もっと細かく見られて序列付けされると思っていたから少し拍子抜けだ。



いや、あれで細かく見ていたのかもしれない。

エルティエで見たライノの動き、あのレベルに目が追いつき、且つ覚えていること。

俺とライノの動きに似たものを感じ取ったこと。

俺の抜刀術とライノの戦闘術の到達点が違うところまで思考が進んでいたこと。



只者ではなさそうだ。

もしかしたら彼自身もエレインナンバーを持っているのかもしれない、それも高序列の。




世界にはフェートの潜在能力に自力で追いついたり、知識で上回ったり、経験で対処したりする者たちが数多くいるとロダン様から教えられてきた。

そうでなければ今頃傭兵業界のトップクラスはフェート傭兵だけで占められていることだろう。





「俺はもっと知りたい。全てを自分の物にしながら、まだまだ強くなれる」




今日のところはもう休もう。

明日にはエレイン本部のある、この大陸の都市ケイオスに向かわないといけない。



これで少し近づいた。



【傭兵たちの楽園】

傭兵斡旋組織エレイン


中央大陸のすぐ側のベルリネッタ島に本部を構える、依頼を達成して報酬をもらう登録傭兵に依頼を斡旋する組織、率いるのはトップオーナーのサースティ

エレインにおける傭兵とは単に戦闘行為を行う者だけでなく荷物の配達や護衛、採集、潜入捜査を伴う探偵業など「戦闘行為の可能性を有した依頼を遂行する戦闘員」という基準で登録されている

戦闘行為は不得手だが別のスキルに秀でている傭兵もおり、中には排除や無力化を専門とする高序列傭兵よりも序列が高く、依頼料も高額な採集傭兵もいる

この「開かれた傭兵斡旋業界」を謳うエレインに夢を持つ新規登録者が多く集まっており、現在の業界内では最大手に認知されている

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