第9話 第一課戦術局
既に部隊は展開されており、先遣部隊が投降を呼びかけている。鎮圧対象の組織規模は概算で62人、中大規模といったところ。人質はいないが指名手配されている犯罪者、コールドデンジャー【バイソン】を匿っていることが確認されている。
「俺がいないとして、どうみる?」
「瞳力士を10名前後と仮定するなら私の炸裂光とともにダーギュント隊が突入、突入フォローとオニール隊撤退支援にロォレ隊、そのままオニール隊が周辺警戒と退路確保です。私はオニール隊に随伴し指揮権を続投します」
「悪くない、瞳力士が20名ほどならどう手を打つ?」
「20…ダーギュント隊に私が随伴して【白瞳力】で抑えます」
「外の指揮権はどうする?」
「オニール隊副長のフリエに譲渡します。彼女の戦術座学のアイデアには光るものがあります」
「外部からの増援対処は?オニール隊は偵察が本領だ」
「ロォレ隊のフロンター2名をオニール隊に合流させれば…チームスイッチの訓練も積んでいます」
「最後、フリエはその戦術を執ると思うか?」
「……」
まただ。
私にはまだ部隊指揮に関して大きな課題がある。
仲間を信じきれていないという弱さだ。
先生は少し意地悪な質問をしたな、と謝りながら指揮権を私から受け取る。
『こちらウェイド、瞳力士を10名前後と仮定する。ダーギュント隊はイヴの炸裂光とともに突入、フォローはロォレ隊だ。オニール隊が下がるまで援護も並行しろ。偵察部隊は下がったら退路確保だ、俺が随伴する』
『ダーギュント了解。イヴに合わせる』
『ロォレOK。オニール、いける?』
『オニール了解しました。フォローは最低限で大丈夫です!』
『よし、行動開始だ』
『こちらイヴ、炸裂光いきます…!』
瞳力通信の傍受対策として使っている耳元の無線デバイスから、全部隊の確認が取れた。
意識を集中させ、この所々が崩壊している大型ビルの中央部分、大きな吹き抜けをターゲットに電瞳力素を結合させていく。それと並行して包み込むように光瞳力素でコーティングし、その両方の密度をさらに高めていく。
そしてエントランスから吹き抜け最上階まで埋め尽くせるだけの瞳力が込められた球を高速で撃ち出す…!
『バースト・グリント!』
荷電粒子を目一杯込めた光球がビルに撃ち込まれた刹那、人の視力を奪い去るような圧倒的な光がビルから放たれた。
そして一拍置いて今度は青白い電流が迸り、収まったと同時にダーギュント隊が突入していく。
『こちら突入隊、吹き抜けの構成員の無力化を確認、捕縛します!』
『ロォレ隊、クリアリングを開始する』
『こちらイヴ。オニール隊、下がれますか?』
『も、問題ありません!正面口からで、出ますぅ!』
『退路は取ってるよオニール、そのまま出な。お嬢、オニール痺れてるよ?』
『ご、ごめんなさいオニール…』
『おっほ……』
『ぶっ…お、オニール…』
『こちらロォレ。オニール以外は元気そうだから、ダーギュント隊のフォローに回るよ」
『はぁ…こちらウェイド。愉快な者ども、自分の仕事はきっちりしろよ』
おおよそ治安維持局の精鋭部隊とは思えない会話が無線越しに飛び交いながらも、各自与えられた役割を遂行している。
この雰囲気の緩さに似合わない確実な行動の遂行。
これこそ一課の持つ独特な作戦行動。
私は…まだ馴染めていない、と思う。
『…こちらダーギュント、コールドデンジャー【バイソン】を発見した。交戦許可を』
『局長許可する。やれるな?』
『当たり前です。ニックの飛び込みからいくぞ!』
一課の飛び込み隊長、ダーギュントの部隊がターゲットとの交戦を開始した。
「さてイヴ、ダーギュント達が負けるとは思わないがここから指揮官のすべきことは撤退、追撃、あいつらが死んだ時の対応だ」
「っ……はい」
「さっきの質問は覚えているな?お前はフリエを信じきれていないと思ったことだろう」
「えっと…思いました」
「確かに背中を預け合う仲間として信頼を欠くかもしれないが、指揮官にはそれこそが求められる。側近でも構わない。誰かが疑いを持つ、それが全てのケースを突破する安定剤となるんだ」
「…味方への疑いすらクリアする戦術こそベストだということですか?」
「ああ、高ランカー傭兵共を思い出せ。やつらがいるのは隣にいる協働相手が次の瞬間に裏切ってくるような世界だ。だからこそ潰せるリスク、裏切られた場合も含めたリスクは全て潰す。戦術立案の視点からすれば理想的だ」
「ですがそれは彼らが個人という戦力だから出来ることで、一個部隊ではやはり結束こそが力になるのではないですか?士気を高めることはアドバンテージです」
「全員で疑い合えと言った訳では無い、誰かが疑うことが必要なんだ。それが指揮官なら安定した部隊になり、副官なら士気を保ちつつリスク回避も意識できる」
「あ…すみません」
「傭兵共はただの理想パターンだ、俺たちはそうはいかない。もしもイヴが個の力を信じるのなら部隊全ての要素を疑う存在であれ。仲間と繋がって戦いたいのならば、副官にはお前すら疑うやつを置くべきだ。それが抑止力となる」
「は、はい!」
先生の隣は勉強になる。
この部隊の緩さでも戦績を上げているのは局員の優秀さだけではない。過度な緊張のない環境下で、安定した戦術でパフォーマンスを発揮しているからだ。その礎になっているのはやはり先生の存在。
「お前のそれは弱さではない。足りないのなら誰かと補い合って武器にする、それがイヴの戦い方だろう」
信じきれていない、なら信じられるようにする。
そう、私の戦い方だ。
『こちらダーギュント!仮定数よりも瞳力士が多い!人手を貸してくれ!』
『こちらウェイド、イヴを行かせる』
「はい!天光のイヴ、行きます!」
白とクリーム色の混ざった髪を靡かせ、両手剣を片手で持つ天使が空を駆けていった。
【虹の精鋭武装局】
第一課戦術局
アルカ・シエル軍事機構レナの第一課戦術局
ここ数年でも紛争鎮圧の功績、世間からの人気がトップの虹の有名部隊
その中でも【豪炎】と【天光】という異名持ちが二名も配置されており、そのビジュアルも良いため虹の広告塔のような役割も果たしている
三課と五課とは仲が悪い訳では無いが、一方的にライバル視されている