18 闇の洞窟で親分パニック! 脱出路はあるのか?
ぽよよーん!! ずざざざ!!
華麗にふくよかなるお尻から落ち込んだフォドラの横、コシュクアは筋ばった滑り込み! 二人は何とか着地した。
「何じゃこりゃあっっ」
「さすが、ぬすっとの隠し洞窟ー! しかけ満載ですわね!?」
「こういうのは仕掛けって言わねぇの、自然の為せるわざってんだよッ」
良かった、どちらも怪我はしていないもよう。どうか安心して欲しい、書いてる人も安堵している!
右手に松明、左手にコシュクアの腕をがっちりつかんだまま、フォドラはすっくと立ちあがった。コシュクアも立ち上がりながら、上の方を振り仰ぐ。
「あんちくしょう、奥がこんなに落ち込んでいたとは……。ここはどんづまりなのか?」
「……というわけでも、なさそうですわ!」
ちょろちょろと微かな音がする……。フォドラの足元に、細い水流が見えた。
「まだまだ奥へ行けそうですわ! さ、進みましょう。出口が向こうにあるんじゃないかしら」
コシュクアはもう一度、すべり落ちてきた勾配をふり返る。かなりきつい。どっちみちここは登れそうにないし、謎の盗人どもが気を取り直して追ってくる可能性もある。とりあえず進んでみるしかないだろう、と思う。
「……」
松明をかざすフォドラの後ろ、コシュクアは歩く。
入り口間際の部分よりも、ずっと幅も高さもない、せまい岩窟になっていた。
ひたひた、さらさら……。
足元に流れる水を時々踏みながら、いったいどれだけ進んだのだろう?
コシュクアは、狭い所があまり好きではなかった。徐々に、息のつまるような感覚をおぼえる。
「……フォドラ」
たまりかねて、彼は言った。
「はい?」
振り向かずに娘は答える。
「……いつまで、続けんだ。これ」
「外に出られるまでですよ!」
「そんなの、わかんねぇぞ? どこまでも続いてる岩窟だったらどうすんだ。お天道さま拝む前に、俺らへばって死んじまうかもしんねぇ」
「まーさかー。人間は水だけでも半月は生きていられるって言いますし、フォドラかくしに飴ちゃん持ってますの。出られるまでは生きていますわ、大丈夫だいじょうぶ~!」
「お前ね、……」
じじじっ。
不吉な音がして、松明が燃え尽きた。
「あらら」
「うあっっ」
闇。
闇、完全なる闇がコシュクアの全身を包み込んで、彼は窒息しそうになる。
――落ち着け、闇には慣れてるはずじゃねぇか……! いいや、森の闇はほんとの闇じゃない。俺が知ってるのはあかるい闇だ、月と星々が上にいてくれる。すぐ近くにいる女の輪郭だってちゃんとわかる、やさしい闇だ。こんな全き闇じゃない……。
「コシュクアさん」
手のひらの中に、やわらかく温かい別の手が入ってきた。
「大丈夫です。ここを進めば、外に出られます」
「……」
「ちょっとだけですけど、空気の流れがあるんですの」
「……何でわかるんだよ?」
「何ででしょうねえ? たぶん体が広いぶん、コシュクアさんより敏感に風を感じ取れるんですのよ、わたし」
あまりにのんきな、……そして肝のすわった言い方に、コシュクアは脱力しそうになる。しかし手のひらの中の小さな手には、確かなあたたかさ――熱があった。
「さっ、行きましょう。フォドラの頬っぺた、おにくの触感を信じてくださいな!」
ぽよん、と弾む頬がそこに見えた気がする。それでコシュクアはふっ、と笑えた。
彼女も笑ったらしい。
二人は手を繋いだままで、歩き続けた。
「……怖くねぇのかよ? 何も見えないのに」
「んー。実はもっと、怖い思いをしたことがありましたの」
「へぇ?」
「コシュクアさん。わたしたちイリーの国々の守護神のこと、ご存知ですか?」
「ああ、知ってんよ。黒羽の女神って、べっぴん神さまなんだろ」
コシュクアは商人づらをして、イリー都市国家群の各市を何度も訪れたことがあった。
テルポシエ、オーランにファダン、ガーティンロー……。主邑にはもちろん、中小の町にも女神像はよく置かれているから、どんな感じなのかはわかる。背中につばさを二枚くっつけた、美人ちゃん。
「わたし、その黒羽の女神さまに、助けられたんですの」