表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/20

13 芸達者な令嬢、親分にほめられる

 

 ・ ・ ・ ・ ・



 巡査五人は、緊張できりきりしていた。


 いきなりの要人通過・応援要請の報があって、近隣町村から急遽かき集められてきた彼らは、じきにユーレディにやってくるという一行を待っている。


 何やら町役場の近くでも騒ぎがあったとかで、もう本当にお腹ぐるぐるの不快さだった。



「どうも、お疲れさまでございますー」



 ふいと声をかけられて、彼らはそっちに顔をむけた。



「何ぞ騒ぎでも、あったんですかい?」



 すじばった体に黒い麻衣姿の男。同色手巾の首巻きを口元まで上げた中から、農村特有のくぐもった調子で言われて、やはり田舎ものの巡査おやじはうなづいた。



「そのようだねえ」


「おっかねぇなぁ。さっさと帰ろう、お母ちゃん」



 男におぶさった小さな太っちょ老婆が、もぐもぐ口を動かして同意している。


 苔色ほっかむりを鼻のあたりにまで下げているから、見えるのはたるんでしわの寄った口元ばかり。年寄り女の好きそうな、派手なばら柄外套を引っかけている。



「あ~、きみ。南の方へ、帰るんかい? 馬車?」



 孝行息子に心を寄せた巡査おやじは、親切心をふと起こした。



「この後ね、ユーレディをイリーの騎士団が通過するんだよ。行き当たって立ち往生でもしたら、おっさんに気の毒だ。サガナ方面から、早くお帰り」


「そりゃ大変だ。ご親切に、どうも」



 ひょいと頭を下げ、農家ふうの男は母親を背負ったまま、そそくさと厩舎の方へ立ち去った。



 ・ ・ ・ ・ ・



「かーっっ、ついてねぇえ。よりによって今日、イリー騎士団の巡行たぁッッ」


「どこの騎士団なのかまでは、巡査のおっさん達も知らねぇんです。いきなり決まったとかで」



 フォドラを後ろにのせて黒馬を駆るコシュクア、その横に並走するウレフが言った。



「俺らはついでに目ぇ付けられたってか……。は~、何てこった」



 あと一歩で小切手を換金できるところだったのに、とコシュクアは内心で歯噛みする。近隣から召集された中に、たまたまコシュクアを目のかたきにしている巡査が居合わせたようだ。



「あの、コシュクアさん……。本当に助けなくって良かったんですの、ノワさんとグミエさん……?」


「大丈夫だよ、ドラちゃん。二人の馬は残してきたし、グミエねえさんもノワも口八丁で腕が立つからな。どうしたって、じきに町を出て追いついて来るさ」



 ふさふさ髪を揺らしながら、ウレフが落ち着いた調子でフォドラに言う。



「……すごく信頼しているのね?」


「あったり前だぁ、ノワは俺の相棒なんだかんなぁ。……しかしドラちゃん! ばばあのふりが、さまになってたぜ」


「えへっ」


「だろ?」



 すいっと言った親分の言葉に、おやっと思ってウレフは顔を上げた……。コシュクアは前を向いたまま、……笑っているではないか!



「あんな風に口を尖らして、ぎゅうっとしわを作られちゃあ、どこから見たって立派なばばあだ。とても見破れねぇ、見事だったぜぇ」


「ふふふふ、百面相には自信あるんですのよー!」


「俺の外套も裏っ返してお前が羽織ると、大柄がばば・・趣味に大変身だ。こんな時だけどな、めちゃめちゃ面白かったぞぅ」



 手綱を握ったまま、コシュクアは右手でぽんぽんと軽く、胴に巻かれたフォドラの手を叩く。


 苔色ほっかむりの中で、フォドラが嬉しそうに笑うのが、ウレフに見えた。



 ――あれ? 親分、なんか機嫌よくねぇか?



 内心で首を傾げかけたウレフは、ふいと妙な気配を感じる。


 毛長牛や羊がぽつぽつ草を食む、牧地の丘陵がなだらかに重なったところだ、見晴らしは良い。


 すうっと白く走るいなか道のずっと先に、ちらちらうごめくものがある……。



「……あの、親分。あれって……」


「ああ、どこまでもついてねぇ。町門にいた巡査のおっさん、方面まで間違った話を聞かされてたんかな」



 そうっと首をのばして、フォドラはコシュクアの腕の裏から前方を見た。



「……騎馬隊、ですの……?」


「自分とこの国の騎士団を、見たことねぇのかい」


「!!」



 フォドラは息をのんだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ