13 芸達者な令嬢、親分にほめられる
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巡査五人は、緊張できりきりしていた。
いきなりの要人通過・応援要請の報があって、近隣町村から急遽かき集められてきた彼らは、じきにユーレディにやってくるという一行を待っている。
何やら町役場の近くでも騒ぎがあったとかで、もう本当にお腹ぐるぐるの不快さだった。
「どうも、お疲れさまでございますー」
ふいと声をかけられて、彼らはそっちに顔をむけた。
「何ぞ騒ぎでも、あったんですかい?」
筋ばった体に黒い麻衣姿の男。同色手巾の首巻きを口元まで上げた中から、農村特有のくぐもった調子で言われて、やはり田舎ものの巡査おやじはうなづいた。
「そのようだねえ」
「おっかねぇなぁ。さっさと帰ろう、お母ちゃん」
男におぶさった小さな太っちょ老婆が、もぐもぐ口を動かして同意している。
苔色頬かむりを鼻のあたりにまで下げているから、見えるのはたるんでしわの寄った口元ばかり。年寄り女の好きそうな、派手なばら柄外套を引っかけている。
「あ~、きみ。南の方へ、帰るんかい? 馬車?」
孝行息子に心を寄せた巡査おやじは、親切心をふと起こした。
「この後ね、ユーレディをイリーの騎士団が通過するんだよ。行き当たって立ち往生でもしたら、おっ母さんに気の毒だ。サガナ方面から、早くお帰り」
「そりゃ大変だ。ご親切に、どうも」
ひょいと頭を下げ、農家ふうの男は母親を背負ったまま、そそくさと厩舎の方へ立ち去った。
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「かーっっ、ついてねぇえ。よりによって今日、イリー騎士団の巡行たぁッッ」
「どこの騎士団なのかまでは、巡査のおっさん達も知らねぇんです。いきなり決まったとかで」
フォドラを後ろにのせて黒馬を駆るコシュクア、その横に並走するウレフが言った。
「俺らはついでに目ぇ付けられたってか……。は~、何てこった」
あと一歩で小切手を換金できるところだったのに、とコシュクアは内心で歯噛みする。近隣から召集された中に、たまたまコシュクアを目の敵にしている巡査が居合わせたようだ。
「あの、コシュクアさん……。本当に助けなくって良かったんですの、ノワさんとグミエさん……?」
「大丈夫だよ、ドラちゃん。二人の馬は残してきたし、グミエ姐さんもノワも口八丁で腕が立つからな。どうしたって、じきに町を出て追いついて来るさ」
ふさふさ髪を揺らしながら、ウレフが落ち着いた調子でフォドラに言う。
「……すごく信頼しているのね?」
「あったり前だぁ、ノワは俺の相棒なんだかんなぁ。……しかしドラちゃん! ばばあのふりが、さまになってたぜ」
「えへっ」
「だろ?」
すいっと言った親分の言葉に、おやっと思ってウレフは顔を上げた……。コシュクアは前を向いたまま、……笑っているではないか!
「あんな風に口を尖らして、ぎゅうっとしわを作られちゃあ、どこから見たって立派なばばあだ。とても見破れねぇ、見事だったぜぇ」
「ふふふふ、百面相には自信あるんですのよー!」
「俺の外套も裏っ返してお前が羽織ると、大柄がばば趣味に大変身だ。こんな時だけどな、めちゃめちゃ面白かったぞぅ」
手綱を握ったまま、コシュクアは右手でぽんぽんと軽く、胴に巻かれたフォドラの手を叩く。
苔色頬かむりの中で、フォドラが嬉しそうに笑うのが、ウレフに見えた。
――あれ? 親分、なんか機嫌よくねぇか?
内心で首を傾げかけたウレフは、ふいと妙な気配を感じる。
毛長牛や羊がぽつぽつ草を食む、牧地の丘陵がなだらかに重なったところだ、見晴らしは良い。
すうっと白く走るいなか道のずっと先に、ちらちらうごめくものがある……。
「……あの、親分。あれって……」
「ああ、どこまでもついてねぇ。町門にいた巡査のおっさん、方面まで間違った話を聞かされてたんかな」
そうっと首をのばして、フォドラはコシュクアの腕の裏から前方を見た。
「……騎馬隊、ですの……?」
「自分とこの国の騎士団を、見たことねぇのかい」
「!!」
フォドラは息をのんだ。




