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12 出たぞ大捕り物! VS巡査、親分の長鎖が舞うッ!

 

 ぽっちゃりした小さな手を宙で止めたまま、フォドラは隣のコシュクアを見上げた。



「コシュクアさんっ。いやだ、わたしったらこがらー! この台じゃ高すぎて、うまく書けませんわッ」


「へ?」



 目を下にやれば、ほんとだ! 娘は長靴の足でつま先立ちをしている。背伸びをし、台にぷるぷるしがみついている状態で、まともな字を書けるわけがない!



「あちらの卓子に持っていって書いても、よろしいでしょうか?」



 店の隅にある、卓子と腰掛を指さすフォドラに、コシュクアはうなづいた。



「ほんとだ……。ここの台、高すぎんな。いいよ」



 布巻をコシュクアが、墨壺をフォドラが持って、移動しかけた時である。



「兄貴ぃぃッッ」



 店の外にいるはずのグミエの鋭い叫びに、コシュクアはぎんと体を硬直させた!


 振り返りざまフォドラを右横からひっ抱える、かたーんと墨壺が飛んで行った……黒い一直線を宙にえがきながら。


 ざざっ!!


 入ってきたのとは別、出口扉からすばやく外に出る。


 ばさりっ!


 抱えられてゆく瞬間、フォドラは今まで自分たちが立っていたところに、何かが広がって落ちこむのをかいま見た。



「な、何ですの、あれっ!? 網!?」



 思わず、仰天してフォドラは口走った!



「ここ、海じゃありませんことよッ」


「巡査の捕りもの網だ、あんちくしょうッ」



 フォドラを下ろして振り向けば、店の手前でグミエがぶんぶん腕を回しているのが見えた。そっちはそっちで逃げろあんちくしょう、の合図である!


 四人ほどの男たち、武装した巡査に囲まれている。グミエは腕をぶん回すついでに、後ろから迫って来た一人の喉元に振り返りざまの裏拳をくれ、同時に足をすくって素っ転ばせた。その後ろではノワが、ごつい巡査のあごに立て続けの掌底三撃をいれたところである……楽勝のけはい。



「ええっ、巡査って……ああ、巡回騎士みたいなのですか? よかった助けておまわりさーん、ノワさんとグミエさんが、襲われていますのー!!」


「いや違う、俺らは巡査に助けてもらっちゃいけねぇの……って、はぁッッ」



 たたたた、近寄って来る足音に振り向けば、応援らしい二人の武装巡査が、まっすぐコシュクアめざして走って来るではないか!?



「貴様ぁ、山賊コシュクアの一味であるなぁッッ」


「……」



 ――親分本人でーす……。



 ずいっとフォドラの前に出て、コシュクアはばっと外套の内、腰のあたりに手をやった……じゃりッ!


 ずどッッッ。



「くはーっ」



 コシュクアの右手から、まっすぐに飛び出していった長鎖、その先の分銅が先走って来た一人のみぞおちを撃った。


 ふわっ、……そこを基点に弧を描く鎖、コシュクアはずーッッと滑り込んで右へ、――ぱしんッ!! さがる重さに勢いをつけて、鎖の半ば部分でもう一人の手の甲をしたたかに、正確に打った。


 ぜろぜろッ、それ自体が生きものみたいだ。奇妙な動きで長鎖は宙を舞う。



「ううッ!?」



 思わず手中の棍棒を取り落としかける巡査。ひゅっ、コシュクアのもとに帰って来る分銅部分……それを短く持ってぐりぐりっと回すと、ぱあん! 思い切り上むき、あごを払った!


 ……どおん! 一人目に続き、二人目巡査も派手に地に倒れ、仰向けにのびた。



「行くぞ」



 ものすごいものを見てしまったフォドラは、口をひし型に開けて固まっていたが、コシュクアのその一言ではっと我に返る。



「お、お見事ですわー!! コシュクアさーん!!」



 差し出された手にがしっとつかまって、フォドラなりの全速力で駆ける!


 騒ぎをきいて、何だ何だと市場の方から人が集まり出していた。その間を縫って、二人はすたこら町の外れをめざす……。



「何だお前、案外走れんじゃねぇかッ」


「むふっ!」



 思わず素で驚いたコシュクアに、フォドラはぽよっと頬をゆるませた。


 そうなのだ、実は彼女は逃げ足が速い! 母と姉たちの八つ当たりを察知して、とんずらするのはお手のものなのである。



「けどコシュクアさん、グミエさんたち……!」


「大丈夫だ、あいつらは切り抜けられる。問題はお前を連れた俺……って、おっとぉ」



 来た路とは反対側から町門へまわり込んだものの、その辺に五人の武装巡査がいるのを認めて、コシュクアはフォドラを民家の生垣かげに引っ張り込んだ。



「あんちくしょう、何だって今日はこんなにおまわりが集まってんだ!?」



 明らかにおかしい。ユーレディは大きい町ではあるが、歓楽街の規模は小さいし、治安はいたって良いところなのだ。


 ましてや今は朝なかば、捕りもの狙いの巡査配置なんて考えにくい。ならず者をしょっぴくなら、きゃつらの活動が盛んになる夜と相場が決まっている。


 その辺を裏切りたくて朝型の活動を続けているコシュクアとしては、誰ぞたれこみやがったか、としか思えない。



 ――くっそ。とりあえずは町門の外に出て、ウレフと馬と合流しねぇと……。



「あそこをくぐり抜けないと、いけないんですのね!」



 ぽよッ! コシュクアが気づけば左腕に、ぴとっとフォドラがくっついていた。見上げて来るみどりの瞳が、ぴかーんときらめく!



「ここはひとつ穏便に! 変装はいかがでしょう、コシュクアさん?」


「はーっ!?」


「とりあえず、その外套をさっさとお脱ぎになって! さあっっ」




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