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名護矢ロボ(2024リメイク中  作者: 首謀S・R!
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プロローグ「新たなる分岐」

「まだ、これを使ってはいけないよ。人間にはまだ使えないから」

緑色の大きな瞳をこっちに向けて、『あいつ』は俺にそう言った

最初は何を言ってるかわからなかった

だが、今ならわかる

誰もこんな事態になるなんて予想出来なかったんだ

これは、あいつの残した警告だ

必死にかき集めて作られた『鍵』だったんだ

「グラスサーキット」という技術がある


希代の天才科学者と言われる「ひじり」が発明したこの技術に、当時の世界が驚愕した


グラスサーキットとは名の通り「ガラスを利用した回路」である


ビルに大量にある「窓ガラス」を植物の葉とし、その窓の内側に葉脈にあたる特殊な回路を埋め込むことで、ビルそのものを巨大なエネルギー発生装置として利用する新システムであった


そんな新技術の発表から3年


2030年頃から始まっていた世界規模での未曽有の人口増加問題

これにより発生したエネルギー問題を解決する新しい技術として、グラスサーキットは人々の期待と共に瞬く間に世界中に拡散した


精密で特殊な加工を必要とするグラスサーキットの技術は、日本企業が世界のシェアトップ5を独占

日本における主力輸出産業としての地位を確立する


グラスサーキットは工費の安さと導入への早さを持ちつつも、導入後のエネルギー面でのメリットが莫大であることから、すでに世界中のビルの半数近くがグラスサーキットの導入を決定していた


またそれと時同じく、世界中で起こっていたエネルギー戦争を解決したとして、世界平和ノーベル賞の最有力候補となった科学者「ひじり」の功績は世界中に知れ渡ることになった


人類の明るい未来を与えてくれた彼女に対し、人々は感謝と敬意と賞賛を贈った


世界は、人類は、この新技術によって新しい未来を手に入れたのだ


そう、「新しい未来」を手に入れたのだ


---

異変が起き始めたのは2038年5月


それは小さな予兆であった


日本の首都「東響とうきょう」を包み込むように、分厚い霧が発生し始めた


最初は数日続く程度のうっすらとした霧であった

だが、日数を経るごとに日光を強く遮るほど濃い霧が発生するようになり、頻度も増加していった


天気予報士たちはただの異常気象だと判断し、数年に一度のことだと軽く見ていた


だが、それから半年後の11月まで事態は悪化の一途をたどることになる


関東平野を中心に月半分以上の日数で発生するようになったこの濃霧に対して、都は警報を発するとともに、状況によっては外出禁止令を出すようになった


濃霧で有名なロンドンに発生しているものより濃くなることもあるこの霧は、酷い時になると伸ばした手の指先が見えなくなるほど視界を奪うほどであった


経済活動は麻痺し、事故や犯罪などが多発するようになってきたことで、人々は東響から離れ始める


時の政府はこの霧の原因を早急に解明すると発表したが、調査は思った以上に難航していた


---

年が明けて2039年3月


独自に霧の原因を調査していた動画投降者の間で、新たな情報が次々と報告され始める


数十メートルに及ぶ巨大な何かが、濃霧の中で動いている


その情報はネットを中心に瞬く間に広まっていき、多くのメディアは嘘か誠か都市伝説や妖怪の類として大々的に報道した


「今年だけに発生している異常気象が終息していけば、濃霧の発生は終わることでしょう」


特集を組み不安を煽る報道番組に対して、政府広報が苦言を呈してから1ヶ月後

何度も東京を襲った濃霧の散発的な発生はついに終わることになる


そう、散発的な発生が終わり、4月半ばを境に東響を包む霧が晴れることはなくなった


衛星から見た関東平野は巨大なドーム状の濃霧に包まれていた


その高さは富士山を越え、東響中心から広がるそれは、埼玉や神奈川、千葉の一部も巻き込むほどの広範囲にわたっていた


そして何より不思議なのは、その霧のドームは上から見て円形であったことだ


人々はこの不可解な霧に対して徐々に恐怖を抱き始め、逃げるように次々に東響を脱出


首都「東響」はすでにこの時点で、長引く濃霧により経済が麻痺し始めていた


2039年10月


政府は臨時の首都を「遷台せんだい」に移すことを決定する


---

2040年元旦


濃尾平野南部に位置する都市「名護矢なごや


セントラルターミナルである名護矢駅近くのビルに設置されることになった「東響濃霧対策中央本部」に、東響を脱出する人々に混じってやってきた1人の「屈強な男」が到着した


彼は大事に持っていた小さなスーツケースを作戦本部長に渡す


スーツケースを受け取った作戦本部長は中身を確認する

そして目の前の兵士を一瞥すると向き直って口を開いた


「ご苦労だった。すでに作戦は始まっている。今日からキミは我々の指揮下に入ってもらう」

「拝命いたします」

「作戦開始前に聞いておくが、キミが本作戦に参加する目的はこの書類の通りで間違いないか?」


作戦本部長が机上の資料を手に持ちながら、目の前の兵士に問いただす


「私は」


兵士は少し視線を泳がせると、目の前の本部長に向かって続けた


「今もただ、家族を救いたいだけです」


しばしの沈黙


そして


「わかった。きみに協力しろと言われている。目的達成を願っている」

「ありがとうございます」


再び強く敬礼をして作戦本部室を出て行く1人の兵士を見送りながら、2人の隣で待機していた初老の男が作戦本部長に向かって耳打ちする


「よろしいのですか?彼は東響側の人間ですが」

「かまわない。適性の問題もある。それより」

「『ブラックボックス』の展開方法はすでに」

「なんとか間に合わせろ。すでにアレが霧の中から出ようとしている」

「了解しました」


作戦本部の壁にかけられている巨大モニターには、日本を上空から映した解析映像が流れている

その画面を見つめながら作戦本部長は静かに、しかし強く言った


「たった1年でここまで用意してやったぞ。今度はそちらの番だ」


東響を包んでいる巨大な濃霧の端はすでに、富士山の辺りにまで迫りつつあった。


そしてその濃霧の西の端から、巨大な何かが姿を現しつつあった


(続く)

次回予告


東響から持ち帰られた謎のブラックボックス

それは全ての始まりを知らせる福音だった


人類の持つ巨大兵器がついに立ち上がる

家族を救う意思と共に


そして、悲劇の未来を回避するために


次回「雷の尖兵」


この世界はまだ、悲劇の本当の理由を理解出来ずにいた

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