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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勇者退治人

作者: 浦田 緋色 (ウラタ ヒイロ)

勇者がいる。

彼女の目の前に、この世界を魔王から救った勇者がいる。

剣を持っていて、胸当てとかを装備している。

そんな、ゲームのキャラクターのような格好をした勇者がいる。

誰もが一度は遊んだことがあるテレビゲーム。

そこに出てきた勇者のキャラクターそっくりの格好をした少年が、床に尻もちをついて、みっともなく泣きわめいて命乞いをしていた。

豪奢な建物の中。

この勇者の私室。

その私室にて、かつて魔王を倒し世界を救った英雄である【勇者】は、今まさに殺されようとしていた。


「なんで、どうして、僕が殺されなきゃいけないんだ!!

僕は、世界を救ったんだ!!」


元の世界で交通事故で死んだ彼は、神によって勇者としてこの世界に転生した少年だ。

少年は、そんな事を言って喚いた。

こんな終わりはあんまりだ、と言って喚いた。

情けないくらい泣いて、喚いている。

勇者の威厳なんて欠けらも無い姿だ。


「大丈夫、正確には殺すんじゃないから」


ニコニコと、勇者の前に立ったその黒衣の人物は笑みを浮かべて言ってくる。

声からして、十代半ばほどの少女のようだ。

その外見は、死神を連想させる真っ黒なローブ。

そして手には、やはり死神を連想させる大きな鎌。


「退治するだけだから。

君は退治されて、元の世界に戻る。

そして、()()()()()()()()()()()()()()


その言葉に、さらに勇者は絶望する。


「嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!!」


あんな惨めな人生に逆戻りなんて絶対嫌だ、と勇者は喚いた。


「そんなに嫌なの?

元の世界に、生活に戻れるのに?

安心、安全で、食べ物にも困らない。

この世界のようにモンスターを退治したり、魔王を討伐したりといった危険な仕事をしなくていい。

でも、そっか、そんなに嫌なんだ」


黒衣の人物はそう言ったかと思うと、なにやら考える仕草をした。


「そうだ!!

ねぇ、君はこのままこの世界にいたいんでしょ?

元の世界に帰りたくないんでしょ?

なら私とゲームをしようよ。

そのゲームに勝てたら、この退治をやめる。

そして、私が君を退治するために仕方なく殺した君の奥さん達や仲間たち、使用人さん達を蘇らせてあげる。

どう??やる??」


黒衣の人物が声を弾ませて提案した。


「げ、げーむ??」


「そう」


この黒衣の人物は、勇者より強い。

神からこの世界へ転生

その人物に、勇者は勝てる気がしなかった。

ゲームをしても、おそらくこの黒衣の人物の一人勝ち、出来レースだろうと思われた。

そんな考えをよんだのか、黒衣の人物が説明してくる。


「簡単なゲームだよ。

私は君に一つ、質問を、いえ問題を出す。

君はそれに答えるだけ。

その答えが正解だったなら君の勝ち。

不正解だったら私の勝ち。

ね?

簡単でしょう?」


戦う訳ではないらしい。

勇者は周囲を見回した。

彼がこちらの世界にきて結ばれた女性たち。

その女性達の死体が、私室のあちこちに散らばっている。

彼女たちは彼を守るために、死んだのだ。

彼女たちだけではない。

この屋敷のあちこちに、使用人やかつての仲間たちが死体となって転がっている。


勇者だった少年には、もうそのゲームに賭けるしかなかった。

そうしなければ、元の世界に戻って、惨めないじめられっ子としての生活が再び始まる。

誰にも認められず、バカにされ続ける日々。

あの日々に戻る。

そんなのは、絶対に嫌だった。

やっと成功したのに。

ようやく、力もなにもかもを手に入れたのだ。

これから幸せに生きていくつもりだったのに。

それなのに、あの日々に戻るなんて、少年は耐えられなかった。

だから、


「やる!そのゲームを受ける!!」


少年は黒衣の人物が提案したゲームに挑戦することを選んだ。


「オーケー。

じゃあ、問題。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


その問題を聞いて、真っ先に思い浮かんだのは、家族だった。

でも、すぐに違うと判断する。

前半だけの問題だったなら、少なくとも家族は少年が帰ってくることを望んでいるはずだ。

誰にも認めてもらえなかったけれど、家族は彼のことを愛してくれていたから。

だから、彼の不幸を望むわけはないのだ。


「し、しつもんは、許される?」


ビクビクと少年は、黒衣の人物へ訊ねた。


「うん、いいよ」


「僕が元の世界に戻ることを望んでいる人と、不幸になる事を望んでいる人は別々の人??」


「違うよ、同一人物だよ」


ということは、家族ではない。

そして、彼に不幸になってほしいということは、つまり恨みや憎しみを抱いている人物ということになる。


「あ、訂正。

複数人いるよ。

君が元の世界にもどって、元通りの生活を送ることを望んでいる人たちは、複数人いる。

でも、うん、同一人物でも間違いじゃないけどね」


その返答で、彼は答えを確信した。


「わかった、答えがわかった!」


「え、もう?

いいの?

もっとちゃんと考えなくて?」


「あぁ!!」


「じゃあ、答えて。

それは、だぁれ?」


少年は賭けにかった顔をしていた。

勝者の顔をしていた。

自信満々に答える。


「魔王軍の残党!!」


彼に恨みと憎しみを持っていて、さらに元の世界で不幸になってほしいと願うのは、かつて勇者として滅ぼした魔王軍、その残党しか思いつかなかった。

返答と同時に、腹に衝撃。


「……へ?」


間の抜けた声が、かつての勇者からもれる。

見れば、彼の腹に鎌が突き刺さっていた。


「残念、ハズレ♡」


黒衣の人物がさらに声を弾ませた。


「正解はね、君を轢いてしまった車の運転手の家族。

ううん、遺族。

君が急に飛び出してきたがために、人殺し扱いになって世間から非難され、それを苦に自殺してしまった運転手の遺族。

君が異世界で勇者として賞賛され、幸せに暮らすことがどうしても許せなかったんだって」


「そ、んな、だって、だって、ぼくはっ!」


「たしか信号が赤になってるのに気づかなくて、横断歩道を渡ったんだよね?

それで轢かれて死んじゃった。

でも、それさえ無ければ少なくとも自殺する人はいなかったんだよ」


かつての勇者が、その場にくずおれる。


「君はもう少し、ここに来た代償について考えるべきだった。

どこかの家族の幸せを奪ってここにいる、その事を自覚すべきだったんだ」


黒衣の人物の声が遠くなる。

やがて、彼の意識は完全にこの世界から消えた。


「それに、魔王を倒したことによって神に近くなってしまったから、討伐対象になっちゃったんだよ。

……って、ありゃ、聞こえてないか。

よし、お仕事終了っと!」


黒衣の人物は、言いつつ名前がズラズラと書き連ねられたリストを取り出す。

それを見ながら、


「うげぇ、次の退治対象者はチート転移者かぁ」


そう呟いた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 人生で交通事故4回も轢かれたましたが、加害者側の罪悪感とかめっちゃ薄いですよ? 保険会社通しての和解だけど、同じ病院で通院してたけど、凄い愚痴言う言う。 (リハビリ室で近くにいた) …
[気になる点] 随分前に大愚世界線で起こってた転移者狩りの人の話かな? なんか、強制送還されてるって話が出てた気がする
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