第3話 潜入!国の内部
「とりあえずアイちゃんは、ここで待っててくれるか?」
脱糞魔物は私にそう言い残して、ゲドーウン国の中央にある大きな城へと入っていた。
てか何で”ちゃん付け”で呼ぶんだよ、シンプルに気持ち悪い。
あ、そういえば魔物は私に”コレ”を渡していったんだった。
私の小さな手のひらに乗っている、この耳栓のようなモノ。
「これを耳に入れて待っててね。
僕の会話と映像が全部聞こえるし、見えるから」
聞こえるだけでなく、映像も見えるなんて・・・!
魔王軍はなんて高い技術を持っているのだろう。
私が太刀打ちするには、あまりに早すぎた相手だったのかもしれないわ。
ていうかこの通信機、脱糞したやつのポケットに入ってたような・・・
ダメ!ダメよ私!!!
それ以上考えちゃダメよ!!!
ここまできたからには、私は真実を知らないといけないんだから、その前につまずいちゃダメよ!
【ザ・・・ザザ・・・】
耳に入った小型の通信機から、ノイズのようなモノが聞こえたわ!!?
どうなっているの、この耳栓!?
えぇ待って!?何か目の前に透明な板みたいなのが映し出されて、そこに映像も映し出されてるんだけど!?!?
どういう事!?空間に映像を映し出すなんて、一体どんな魔法を組み合わせているの・・・?
底知れないわね、魔王軍・・・!
【おーいアイちゃーん、見えてるかなー?】
「え・・・えぇ、見えてるわよ」
【まぁ問いかけたところで、そっちの音は聞こえないんだけどね。
とりあえず見ている事を信じて今から国王のところに行くから、そのまま見ててねー】
「おい脱糞魔物!馬車の中で一人で問いかけに答えた私の恥ずかしさを返せ!!」
けどそんな怒りも届くはずもなく、魔物はドンドンと城の中に進んで行っていた。
でもおかしいわね。
あの城の警備は、この国で最も厳しい事で知られている。
まぁ国王が住んでいるから当然なのだけれど。
なのにあの魔物は、何故こんなに堂々と城の中に歩いていられるの?
まさか、城全体の人間を既に操っているとか・・・!?
だとしたら、脱糞するとはいえ恐ろしい悪魔である事に変わりないわよ。
ん?でも何か城の中の人間達の反応がおかしいわね・・・。
【これはこれはテネーゲル様ではないですか?
いつ来国なされたのですか?】
【おぉ、テネーゲル殿。お久しぶりですな。
最近は貿易が上手くいってると聞いておりますぞ?】
【テネっちおひさ~!元気してた~?
またウチに会いにきてくれたん?マジ嬉しすぎてウケる】
あれれ、魔物に親しく話しかけてくる人間ばっかり・・・!
どういう事?まさか既に裏では魔物がこの国を支配してたの!?
でも、ちょっと待って。
今カガミに映った魔物の姿って・・・。
「あぁこの顔!?
テネーゲルって、確か隣国の国王だわ!!」
私は思わずモニターの中のカガミに映る顔を指差しながら叫んでしまった!
そうよ、この顔と名前は間違いなく隣国の国王テネーゲル。
て事は、あの魔物まさか・・・。
「顔を変化させる事もできるの!?!?
なんなら体型まで変わってるわ!」
思ってたより凄い能力持ってて、脳みその処理が追いつかない。
人を操るだけでも恐ろしい能力なのに、変身まで出来るなんて・・・!
あれ、ちょっと待てよ。
人を操ったら、代償として脱糞してしまうのよね?
あぁ、嫌な予感がする。
変身なんて高度な技を使ってしまえば、一体どんな恐ろしい代償が!?!?
【ズズ・・・ズズ・・・】
・・・ん?
そういえばさっきからずっと鼻をすすってる?
【ごめんねアイちゃん。
変化したら鼻炎になっちゃうから、ノイズ入っちゃうかも】
あぁそう、鼻炎になるのね。
いや、そうよね。鼻炎ツラいわよね・・・。
わかる、わかるけど。
なんか少しだけ心配してた自分が恥ずかしくなったわ。
【ヨシ着いたぞ、国王の執務室だ】
ってこの魔物、本当に国王の元へ辿り着いちゃった!
変化能力の優秀さと共に、この国の警備のガバガバさにまで気付かされる事になるなんてね・・・。
【ガチャ・・・】
【おぉこれはこれはタイチ国王。お久しぶりですな】
【テネーゲル!?どうしてここに。
今日会談する約束をしておったかな?】
【いえ、たまたま別の要件でこちらに来てましてね。
ついでと言ってはなんですが、国王にも挨拶だけしておこうと思った次第ですよ】
【ハッハッハ!そうかそうか。
挨拶だけと言わず、茶でも飲んで行きなさい】
嘘でしょ?
ウチの国王、全然気付いてないんだけど・・・!
あなたの目の前にいるのは、あなたが長い間憎んでいたはずの魔王軍の魔物なんですよ!?
【いやいやそれにしてもタイチ国王、最近は色んな事に手を出しておられるようですな?
国の財政も潤っているようですし、うらやましい限りですぞ!】
【ハッハッハ!そうだなそうだな。
これも何かの機会だ。お主にもオススメの商売があってな・・・】
オススメの商売・・・?
私は毎日訓練ばかりだったから、流行っているモノとかは全く知らないのよね。
【この数年で”異常な魔力を産まれながらに持つ子供”が増えておるのは知っておるか?】
【え・・・えぇ、もちろんですとも】
【なら私は考えた。
この特別な子供達を使って、何か金を生み出せないものかと!】
【・・・ほぉ、それは気になりますな!
ぜひ私にもその教えを頂きたい!】
すごく、すごく嫌な予感がするのは私だけなのだろうか?
ここから先の会話を聞いてしまえば、私は戻れない気がする。
戻れない?どこに?
正直それは分からない。
だけどきっと、それは大切な思い出がある場所なんだと思う。
【魔力に恵まれた子供を訓練し、育て、魔王の元へと戦わせにいくのだよ。
するとどうなると思う?
この国にとって魔王とは、憎むべき存在として扱われてきた長い歴史がある。
つまり、力のない大人達はこぞって子供達に希望を託すのだよ!お金という支援を通じてな】
【な・・・なるほど?
しかし子供を戦わせるべきではないという意見も出るのでは?】
【全くテネーゲルよ。お主は真面目すぎるな。
この数ヶ月で随分と性格が変わったようじゃ。まあよい。
話を戻すが、もし反発する者がいるのならば、どうするのが手っ取り早いと思う?】
【それはまぁ・・・口を無くしてしまえばよいですな】
【ハッハッハッハッハ!!!
なんじゃテネーゲル、ちゃんと分かっておるではないか!
そう、死人に口無しじゃ。
魔王軍の侵攻だと偽って、その際に反発した者は全員始末しておいたんじゃ!!!】
息ができない。
きっと目から水が止まらないせいだ。
私はずっと強くなるために、魔王を倒すためだけに厳しい訓練に耐えてきた。
パパとママを殺した魔王達に復讐するために。
だけど違ったんだ。
敵はずっと側にいたんだ。
今、この瞬間から、この私に生きる価値なんて・・・
【ザ・・・ザザ・・・】
【あ、お話し中にすいませんタイチ国王。
初めまして、魔王です】
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