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第1ー1話 見た事のない幼い勇者①

「はーい、魔王討伐の整理券はここで配ってまーす!

ほらそこ!押さないでちゃんと並んでくださいねー!」


「最後尾はこちらですー!ただいま25分待ちになってまーす」





 年中黒く厚い雲に覆われている国にある、魔王が住む大きな城【ヤヴァーイン・デス城】


 三日かけてようやく城に到着した私は、今まさに目の前に広がっている光景に開いた口が塞がらなかった。






「おいまだかよ!早く魔王と戦わせてくれよ!

頼んでたゲームが夜に届くんだよ!」


「25分か・・・。トイレは行かなくても大丈夫そうかな」


「魔王と戦うと巨額の報酬が貰えるからな。適当に負けて、適当に稼ぐぞー!!」





 え待って。



 この人たちは、いろんな国からやってきた勇者達なのよね・・・!?


 なんでこんな呑気な顔をしながら、律儀に列にまで並んでいるの!??


 今、まさに目の前の城の中に、私たちの生活をおびやかす【魔王】がいるっているのに!!






「あ、前の人の戦いが終わったみたいなので、列進んでくださーい。

次は・・・フヌケーン国の勇者の方ですね!

それでは張り切ってどうぞー!!」


「よっしゃー!頑張って魔王倒してやるぜー!ふぅーー!!」





 あぁ、信じられない・・・信じられないわ・・・。



 私が物心ついた時に両親はいなかった。

 なぜなら魔王に殺されたから。


 そんな魔王とこれから戦うのに、なんであの勇者たちは楽しそうにしているのよ・・・!



 意味わかんないし、もう許さないわよ。


 この世界も、魔王も!



 幼少期から厳しい訓練だけを受けて育った私が、今日この手で、魔王の支配を終わらせる。






「ちょっとアンタたち、どきなさい!!!!」


「ちょ、ちょっとお嬢さん!後ろで配ってる整理券は持ってますか!?

私と同じプラカード持ってる後ろのお姉さんに、ちゃんと整理券もらってきてね」


「はぁ!?どきなさいよ!アンタも魔王の手下なんでしょ!?

きっとその整理券には勇者の力を弱める呪いとかがかかってるんだわ!きっとそうだわ!

私がスグに魔王を倒すから、とっとと道を空けなさい!!!」





 もう私に止まる理由はない!


 列に並ぶような腑抜けの勇者達なんかより、私がとっとと魔王倒す方が世界の平和につながるのよ!



 この手に握った聖剣【ヴァストロイ】で、全てを終わらせて見せる。






「ちょっとお嬢さん、城の外で剣を出しちゃ危ないですよ・・・」


「うるさい魔王の下っ端。まずはアンタで試し切りしてやるわよ!?」


「え!タンマタンマ!それはよくない!

もうわかったから、先に進んでください・・・。

全く、最近幼い勇者が増えたと思ったらコレですよ。

とりあえず後ろの勇者さんは、もう少しだけ待ってもらえますか~?」





 何が幼いよ!!


 強さに年齢なんて関係ないわ。

 ここにいるザコ勇者どもとは、私は覚悟が違うのよ!!


 私はドンドン城の内部へ進む。



 心なしか血の臭いも強くなってる気がする。


 きっとやられた勇者達の血の臭いだわ・・・!



 だけど私は恐れない。

 この世界で最高の、選ばれし子供の勇者なんだから!





「ようこそヤヴァーイン・デス城へ。

魔王様討伐の整理券をお預かりします」


「うるさい!整理券なんて無いわよ!

とっとと魔王にあわせなさい。スグに終わらせてあげるわ!!」





 この女、邪悪な魔物のくせに、ちゃっかりスーツなんか着ちゃって。


 てか、そのメガネなんてどこで買ったのよ。

 私の国でもあんまり見ないわよ。


 おそらく殺した人間から奪ったものなのでしょうね!邪悪なる魔物め。




 違う、メガネの事はどうでもいい。




 今、目の前にある大きな大きな扉の向こうに、魔王がいるのよ。


 向こうからもっと邪悪な空気をビリビリと感じるわ・・・!





「えーっと・・・・もしかして年間パスの方ですかね?

ウチでは整理券がない勇者様には・・・」


「うるさい、黙ってそこで見てなさい!」





 私はヴァストロイを大きく振り抜き、目の前の扉を真っ二つに切り倒した。


 こーんな薄くてモロい扉の部屋にいる魔王なんて、思ったよりも大した事ないのかもしれないわ!






「さぁ魔王!!悪事をはたらくのも今日この瞬間までよ!!

【ゲドーウン国】から選ばれてやってきた勇者、【アイ・スカーレット】がアンタを殺す!!!

そして私の名は永遠に語り継がれるのよ、魔王を倒した勇者の名としてね!」






 決まった、完全に決まったわ。


 2週間前から考えてた、魔王への第一声が。



 これが数百年後の歴史の教科書に、”勇者アイの伝説の言葉”として語り継がれるのね・・・。





 ほらその証拠に、目の前で座っている魔王も、口をポカーンとしているわね。


 なんか思ったより”魔王感”はないけど・・・



 え、てか魔王だよねこの人?


 あんな豪華絢爛なイスに座ってて魔王じゃないなんて事はないわよね・・・?



 でも、なんかその・・・ウチの国にいる”にーと”って呼ばれて働かない人達みたいな服装なんだけど・・・。





「ようこそ・・・って、君が勇者・・・?

職場見学の子供じゃなくて、勇者なのかい?」


「しょく・・・けん・・・何て?

あ、まさか攻撃魔法!?

そうか!ラフな服装で私を油断させて、攻撃魔法を撃とうとしたのね!!??

クソ!魔王を前に一瞬でも気を抜いたなんて・・・!」


「こらこら、小さい女の子が”クソ”とか”殺す”とか言っちゃダメだよ。

お父さんお母さんが悲しむよ?」


「・・・!!??」





 パパと、ママ。


 一体・・・一体誰のせいで・・・




 誰のせいでパパとママが死んじゃったと思ってるのよぉぉおお!!!??






「あぁぁぁぁあああ!!!!

神の怒り(アイラ・デリト)!!!!!」


「え、ちょ・・・いきなり攻撃!?

ち○かわ読んでる途中なんだけど!?」





 死になさい。


 私と、そして世界の人たちを苦しませた罰よ。



 私の最強の技で、灰すら残さないように殺してあげるわ・・・!






【バシュウゥゥン!!!】





 直撃!見事なまでに!


 つまりそれは全てが終わった合図。


 私の”神シリーズ”の技は、魔族が喰らえば必ず致命傷を受ける最強の技だからね!



 子供だからって油断している間に仕留める、私が事前に想像していた通りの戦いだったわ・・・。


 どの勇者の本を読んでも、大体魔王が本気出すまでベチャクチャ喋ってるのが多くて理解できなかったのよね。


 最初から全力で叩く。それが一番勝率高いに決まってるじゃない!







「うわー、凄いね!その小さい体のどこにそんな力が!?

あ、ち○かわの第一巻は無事だった」







 ・・・・・・は?




 いやちょっと待って・・・・いや・・・





 ・・・・・はぁ?





 いや、攻撃は当たったわよね?


 うん、絶対当たった。当たったわよ。


 じゃあ何でこの魔王は、何事もなかったかのようにピンピンしてるの?





「でもやっぱりダメだよ、いきなり知らない人を攻撃するなんて!

言葉遣いも、ちゃんとしなきゃ」


「うるさい黙れ魔王!!!

私の攻撃を喰らって、なぜお前は生きている!!」


「何故って・・・そりゃ死ぬほどの攻撃じゃ・・・なかったから?」






 もういい殺す。


 徹底的に殺す。


 もう生きてきた事を後悔するレベルに殺してやるわ・・・!!






「うわああああ!!!

神のデリト・ファング!!

神の吐息スピリタス・デリト!!!

神のデリト・ヴェニナム!!!!」


「おぉ凄い凄い!

色んな技使えて偉い!賢い!天才!

あ、これはちょっと痛い」




 痛いとかそんなレベル!?


 なんでコイツには効かないのよ・・・



神の唾吐き(デリト・ヴェーラ)!!!

神のデコピン(デリト・デコピン)!!

神の・・・神の・・・」


「神の?」


「神の・・・何か絶対魔王(ナンカゼッタイマオウ)殺せるヤツ(コロセルヤツ)!!!」


「そのまんまだ!!!!ハハハハハ!!!」





 気付けば私の攻撃は10分以上続いていた・・・・



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