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【進め!異世界!!戦車人間(タンクマン)!!】~元ドイツ陸軍戦車兵の転生先はひよっ子ビーストテイマーの使役獣?~  作者: 稲村某(@inamurabow)
第三章・ハンスと仲間達

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⑧エドとリグレット



 「……只今戻りました」

 「あ、おかえり。随分と長い散歩だね。何かあったのかい」


 斡旋所に戻ってきたハンスをアルベルナが出迎え、彼女についさっき起きた事を手短に話す。


 「……それは凄いね。リグレット翁の指南所と言えば、城詰めの騎士が教えを乞う名門中の名門だよ。素人が簡単には指南を受けられないって噂だし、況してや剣のイロハも知らない者が教授を受けたなんて、小さな子供ならいざ知らず……ね」


 彼女の話を聞き、ハンスは改めてリグレットの凄さを理解した。だが、彼の中に剣への憧憬が消える事は無く、却ってその思いは以前より増しているのだ。


 「そうそう、先程イワノフ君が探していたよ。何か祝うとか言って騒いでいたからね、早く見つけたらどうだい」

 「あ、そうだったんですか……そりゃ悪い事したな」


 アルベルナからそう伝えられたハンスは頭を掻き、まだ間に合うなら追いますと言って彼女の元から立ち去った。


 「……やれやれ、この斡旋所も賑やかになったものだ……」


 頬杖をつきながら彼を見送ったアルベルナは、嬉しそうにそう言うと仕舞って置いた帳面を開き、几帳面な文字で《 ハンス、剣の指南を受ける 》と書き付けた。




 「……ほほう、また教えを乞いに来たと言う訳か。それは随分と熱心で良いが……」


 リグレット翁は次の日も現れたハンスを眺めながらそう言うと、僅かに視線を横にずらし、


 「……で、何用かの?」


 と、背の低いリグレット翁はエドの姿を見上げながら問い掛けた。


 「……あの、いや……リグレット様……」

 「……何を畏まっている、エドよ」


 意外にも彼の事を知っている口調に、ハンスは成り行きを見守るつもりで口を閉ざした。


 「……久し振りに孫がやって来て、とやかく言うつもりは無い。だが、お主は家督を捨てて出奔するに値するだけの、確たる論があるのじゃろう」

 「……はい、その通りです」

 「……で、ハンス殿と共に来たには理由があるのだろ?」


 そうリグレット翁に問われ、エドは事の成り行きを説明した。






 「……っ!? 剣の稽古だって? 好きだなお前……」


 イワノフにそう笑われ、ハンスはムッとする。酒の入った言葉と言えど、面と向かってそう言われれば、誰もがそう思うだろう。だが、ぐっとビールを煽りながら彼は憤りと共に反論を飲み込んだ。


 前回の【人喰い(マン・イーター)】迷宮挑戦で手に入れた報酬は均等に分けられ、イワノフの懐も随分と嵩が増し、彼の舌もこの世界の酒の味に慣れたらしく、景気良く奢ろうと戻って来たハンスを待っていたのだ。但し、店は例の【クエバ・ワカル亭】ではなく、近場の酔客溢れる雑多な酒場に向かったのだが。


 「……その、ハンスさん。剣の指南所とはどのようや場所だったんですか」


 と、二人の話を聞きながら注文したビールのジョッキを掴み,エドが問い掛ける。


 たまたまアルベルナの斡旋所で鉢合わせたエドも同席し、イワノフと共に耳を傾けていたのだが、界隈にそんな所が山程有る訳では無い。自由民が多く出入りする中央都市と言えど、様々な流派や剣技が入り乱れる世界である。端的に言えば剣かそれ以外かと分類される程、剣の存在が身近である分、我流で扱う者の方が多いのもまた事実。わざわざ他人に頭を下げてまで教えを乞うのは、剣に疎い新参者と嘲笑われ自尊心を傷付けられる。だからこそ、ハンスのように先入観の無い者を迎え入れる指南所は限られているのだ。


 「あー、うん……リグレットと言う年配の方が居る所だった。そこに綺麗な姪の方がやって来て……」

 「えっ、ラクレス姉さんも居たのか? ああ、そうか……騎士団付きになったから、当たり前か……」

 「エドさんはお二人を知っているのか?」


 ハンスに問われ、エドはジョッキに注がれたビールを一口飲み込み、暫く言葉を探すようにジョッキの縁を睨んでいたが、


 「……リグレット(じい)は、自分の剣の師匠だった。でも……キャロンと駆け落ちしたのがきっかけで……」


 そこまで話した後、その先を打ち明けるべきか迷うエドだったが、直ぐに意を決して言葉を紡いだ。


 「……破門されたんだ、そして……リハレス家から俺は逃げてきた」

 「おいおい、駆け落ちしたって言ってたが、あのキャロンって姉ちゃんの方がお嬢様だったんじゃないのか?」


 そこまで聞いていたイワノフが思わず割り込むと、彼は自嘲気味に笑いながら首を振った。


 「……いや、キャロンは家に縛られていた俺の目を、外の世界に向けてくれたんだ。そうじゃなかったらきっと……」



 「……リハレス家の面汚しとして、斬り捨てられていたろうな」





 「……黙って出ていったのは、そのキャロンという娘と一緒になりたかったから……か」


 彼の説明を聞き、つい言葉を漏らしたリグレット翁にエドは頷き、自らの胸に秘めていた覚悟を打ち明けた。


 「……リハレス家の主系として家督を継ぐ役割は、自分には重過ぎました。能力に劣り、才能も無いまま潰されていくよりも、自分の思い通りに生きていきたかったから……」

 「……それは、もう良い。家督の件はどうとでもなる……それに儂は、既に身を引いた立場じゃ。口出しする事は無い」


 リグレット翁の言葉にエドは込めていた肩の力を抜き、安堵の表情を浮かべた。だが、


 「……それはそれ、これはこれじゃ。エドよ、お主の祖父として、中途半端な腕は叩き直す所存じゃった。剣を取れ、直々に手解てほどきするぞ」


 くるりと身体を回し、壁際に立て掛けてあった台から木剣を二振り抜くと一本をエドに投げ、もう一本を両手で持ち正面に構えた。


 「……ハンス殿、済まぬが孫を先に相手するでな。暫し待たれて貰えぬか」


 その言葉にハンスは頷き、身を引いて壁際まで下がる。


 「……我が孫、エド。お主が信ずる道を進むならば、好きにすれば良い。だが、剣を持つ限り……リハレスの名を捨てようと必ず壁に突き当たる。だからこそ、儂は敢えて、師としてお主の前に立とう」


 その最後の言葉と共に木剣を構えたリグレット翁は、不動の姿勢でエドが打ち掛けるのを待った。




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