⑭新しい仲間
「人数が増えれば、それだけ戦略の幅が広がる。けれどその分だけ組み合わせが重要になるから、出来るだけ各々の得手不得手は把握しておきたいんだ」
そう説明するエドの言葉に、ハンスは納得しながらも躊躇する。自らの能力、いやティーガー重戦車を我が身に宿す【鋼の虎】を公開する事は、エレナとの関係性を明かす事に繋がるからだ。しかし、その事を伏せたままエレナの【ビースト・テイマー】の技能を明かせば、使役獣は何処に居るのかと尋ねられて直ぐに露呈するだろう。
しかし、それは杞憂なのかもしれない。何故ならば、既にハンスが使役獣だと言う事は、自由民として登録された段階で広まっている。そして、最も優先すべきはエドの言うように【組織内のバランス】なのだ。
「……判りました。それではまず、私から……」
ハンスがエレナに目で促すと、そう言いながら彼女は立ち上がり、
「改めまして……エレナと言います。職業は獣従士です。登録して二週間程の新参者ですが、宜しくお願いします!」
そう自己紹介をして、着席した。続いて自分の番かと思いながらハンスは立ち上がり、手を背中に回し姿勢を正してから話し始める。
「自分はハンス・ウェルナー。元ドイツ陸軍戦車兵の伍長で……今はエレナの使役獣を務めている。登録はエレナと同じなので新参者だな。宜しく……」
「……人間なのに使役獣なの!? ねえ、それって本当!?」
「……エドは聞いたことある?」
「いや、流石に無いな……アーヴィンは?」
「有る訳ねぇだろ! しかし、たまげたな……」
流石に四人は困惑するものの、彼が嘘をついている訳で無い事は周知の事実。だが、イワノフが自己紹介を始めた時、四人の反応は更に混沌と化していく。
「……あー、イワン・イワノフだ。キエフ出身のソビエト連邦狙撃兵……だったけど、今は狩人って事らしい。まあ、ガキの見た目になっちまったが……ホントは二十六才なんだぜ?」
「に、二十六才!? 全然見えない!!」
「エドより年上だったの!?」
「……ハーフリングじゃないのか……」
「さぁ……本当に人間なのか?」
そう口々に言い交わすエド達だったが、ハンスはエレナがパクパクと口を開けながら、言葉を失っている姿を見て、思わず声を潜めながら笑ってしまう。
「……もう! ハンスさん!! 知ってらしたんですか!?」
「いや、なかなか言い出せなくて……騙すつもりはなかったんだよ……なあ、イワノフ?」
「済まねぇな、嬢ちゃん! だからって別に敬えとか言わねぇから心配すんなよ?」
戸惑うエレナにイワノフはそう言うと、自分の役目は終わったと言いたげにニヤリと笑い、椅子に座るとチェモリに向かって、
「んな訳だからよ! あんまり子供扱いしねぇでくれな?」
そう言って薄めたワインを一息で飲み干した。だが、チェモリは眉一つ動かさぬまま、自信満々に答える。
「ええ! もちろんですとも!! 愛しいお方を子供扱いなんてする訳ないですわぁ~!!」
「……あー、そうかい。判ったから店中に響く声で言うのは止めてくれや……」
降参とばかりに項垂れるイワノフに向かって、一同は慰めと祝福を兼ねた乾杯を掲げた。
「そう言えば、ハンスさん達は何処の斡旋所で仕事を請けているんですか?」
宴も次第に落ち着いてきた頃、キャロンが思い出したように尋ねた。
「そう言えば教えてなかったな……アルベルナって女性が一人でやってる斡旋所だが、知っているか?」
「ええ、知ってますよ。私達が此処に来て最初に入った所ですから。今は別の所で請けてますが……」
何か事情が有って場所換えをしたのかと思い、ハンスは詳しく尋ねるのを躊躇ったが、チェモリは彼の思惑を余所に話し始める。
「実はねー、キャロンがアルベルナさんと口論になっちゃってねー、それが元で移籍する事になっちゃったのよー!」
「こら、チェモリ! ……ま、まぁ……そんな感じなんですが……」
キャロンはそう言うが、ハンスは意外に思ってしまう。見た目の若々しさから比べると慎重で落ち着いた印象の彼女だが、感情的になるとどうやらそうでもないらしい。
「駆け出しで経験の浅い頃でしたが、アルベルナさんの忠告にいちいち反発して……今から思うと赤面ものですよ……」
「いや、誰にだって間違いは付き物さ。ただ、いつまでも引き摺るのは勿体ないとは思うがな……」
そう言って励ますハンスだったが、不意に何か思い付いた表情と共に口を開いた。
「なら、我々を繋ぎにしてわだかまりを解消するのはどうだろうか?」
「えっ? いや、それは……幾ら何でもおこがましくないですか……」
キャロンはそう言って渋るが、見かねたエドがとうとう助け船を出した。
「折角ハンスさんがそう言っているんだから、行ってみよう。何なら僕も一緒に頭を下げてもいいからさ」
「エド……あなたまで……もう、判ったわ。私の負けよ……潔くアルベルナさんの所に行って謝罪するわ」
キャロンはそう言いながら、両手を小さく挙げて降参の意を現した。




