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⑩試験結果



 「……では、この棒に火を点けてみてくれ」


 係官の男はハンスに折れて二つになった棒を返すと、次の試験を言い渡した。


 「……火を? いや、何も道具が無ければ出来ないんだが……」


 ハンスが当然のように伝えると、係官は手に持った用紙に何事か書き込み、そりゃそうだろうなと呟いてから、


 「あー、取り敢えず出来る方法が有れば、それでやってみてくれ。何か持って来ているか?」


 そう言うと用紙を小脇に抱え、ハンスの返答を待つ。彼の言葉に少し考えてから、ハンスは同行していたエレナに向かって手招きし、自分の荷物の中から短剣を手渡すよう頼んだ。


 「ハンスさん、これですよね」

 「ああ、ありがとう」


 それを受け取ったハンスはエレナに礼を言うと鞘から抜き出し、折れた棒を地面に向けると端に刃を当て、親指の腹で押しながら削っていく。


 しゅっ、しゅっ、とリズミカルに刃先を動かし、棒の端から地面に削りクズを落としていく。やがて(てのひら)に溜まる程の削りクズが出来上がると、鞘から火打石を取り出して短剣に打ち付け、火花を散らせる。


 幾度か火打石から散った火花を削りクズに掛けていくと、小さな煙が漂い始め、やがて小さな火が起きた。


 「ふむ、なかなか上手なものだ。まあ、能力はともかく結果は残せた訳だ……これで【会話】と【知識】が済んだので、最後の試験で終了としよう」


 何気無く差し出された係官の手に、自分の短剣を渡すと興味深げに眺めていたが、彼の言葉に心の内でホッとしたハンスは、その安堵感を直ぐに打ち消された。


 「……よし、ミレーシャとミリーニャは【土霊術】の準備をしてくれ。使役獣ハンスの【真の力】を試す」


 (おいおい、どうなってる? さっきの棒や火付けは力の試験じゃなかったのか?)


 係官の説明に雲行きの怪しさを感じ取ったハンスは、せめて短剣だけでも取り戻そうと足を踏み出しかけた。しかし係官は新たに現れた二人組みの女性と交代すると、ハンスに向かって短剣を振りながら、


 「おい、ハンスくん。これは預からせてくれ。次の試験には何も持たせられないんだ」


 (いやいや! もしかしたらもっと必要になるんじゃないか!?)


 慌てて何か言おうとしたその時、ミレーシャとミリーニャと呼ばれた二人の前に、突如長方形の土塊が湧き上がってハンスを隔離した。しかし四角い形状を維持していたのは一瞬で、直ぐ直線的な切れ目が縦横に走ると、バキバキと割れるように形状を変え、見上げる背丈の巨人が姿を現した。


 「では、最後の試験だ……そいつを倒してくれ」


 男の係官が素っ気ない程の号令を発すると、土くれの巨人がハンス目掛けて巨大な腕を振り下ろす。辛くも避けたハンスの直ぐ脇に振り下ろされた拳が地面を穿ち、衝撃で思わずよろけそうになりながら、


 「……何も持たずにこいつを倒せだと!? あんた正気か!!」


 まるで大人と子供並みの体格差を無視され怒声を上げて抗議するハンスだったが、係官は黙って成り行きを見守るのみ。


 (……前はただ見せるだけだったが、流石に()()を出す訳には……)


 躊躇するハンスを余所に、巨人は容赦無く次々と拳を振り下ろし、壁際まで追い詰められたハンスは窮地に立たされる。遂に逃げ場を失い、迫る巨人の身体で四方すら見通せなくなったその時をハンスは見逃さなかった。


 (……くそっ! 今しか無いっ!!)


 破れかぶれに下着を穿いたまま、鈍色の砲塔を巨人に向けて突き出し、覆い被さる身体目掛けて砲弾種も決めぬまま、


 「仰角45度……情け無用っ!! 零距離射っ!!」


 ハンスの発射を告げる声から刹那も過ぎぬ後、轟音と共に発砲炎が左右に噴き出て巨人の腹に砲弾が突き刺さる。遅れてバッヒュッ、と砲弾が通過した後の大気が急速に薄まって冷却され、真っ白な帯を残す。


 (……おおぉ、思ったより痛みはないか)


 急角度で発射したお陰で、ハンスの下半身にダメージは少なかった。そして仰角があった事が幸いしたか、周囲の建物に着弾した様子は無い。しかし、至近距離で発砲したせいで付近の窓ガラスはかなりの数が割れて吹き飛んでいた。


 と、目の前の巨人が腹部の大半を失った為、上半身をドスンと腰の上に落下させ、そのままボタボタと形を失って崩れ落ちていく。そして後には泥の山がうず高く積り、巨人の痕跡は跡形も無く消えていた。


 (……何とかやり遂げたが、試験とやらはどうなったんだ?)


 ハンスは心配になり、係官達の姿を探す。砲を撃った拍子で気絶でもしていたら一大事である。しかし、そんな気遣いは無用だった。


 「いやぁ! ハンスくん凄いじゃないか!」


 突如、担当係官がハンスに声を掛けながら、手を差し出すと握手を求めてくる。


 「まさか一撃とはな! それにしても、どうやってやった……かは、秘密なんだろう? 判ってる判ってる、大丈夫だから心配ないぞ」


 係官の態度に妙な物を感じたが、今はそれどころじゃない。早く替わりの服を手に入れないと……と、片手で握手に応じつつ、もう片方の手で何とか股間を隠しながらハンスが焦ったその時、


 「……は、ハンスさん……服です……」


 恥ずかしそうにしながら、エレナが彼に向かってさっきまで身につけていた衣服を差し出し、受け取ったハンスは大慌てでズボンを穿いて難を逃れたのだった。




 

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