22 トレーニング
――休日――
朝3時頃
良い夢を見ている最中、俺の体を誰が揺さぶる。
「初瀬君、起きてください……初瀬君……」
ぼんやり映る視界には、東雲先輩が俺の体を揺する。
一体なんなんだ……
近くにあった時計を見ると、まだ午前3時だ。
せっかくの休日だから、ゆっくり寝かして欲しい……
俺は布団を被る
すると……
「いい加減起きてください!」
と東雲先輩が布団を引っ張った。
「さぁ!いい加減、着替えて行きますよ!」
東雲先輩はどうして、ジャージ姿なのだろうか?
そう言えば、今日は犬飼さん達と、朝のトレーニングがあるんだっけ……もしかして、東雲先輩も俺達と一緒に参加するつもりなのだろうか?
まぁ、そんなことよりも、今は眠い……もう少しだけ……て言うか、トレーニングサボってしまおう……俺は、強制的に参加させられた、被害者だし
東雲先輩の隙をつき、布団を奪おうとした。
しかし、そう甘く、奪えるはずもなかった。
なら、このまま寝る……
「駄目ですよ!今から私とトレーニングに行きますよ」
「えぇー……東雲先輩も出るのですか?……」
「はい。私は、普段から犬飼さんと朝からトレーニングをしています。それに初瀬君がサボらないように!と犬飼さんから、初瀬君の監視役を任されています!だから、諦めて起きてください!」
なるほど、犬飼さんは俺がサボることも分かっていたのか……
なら、俺も諦めるつもりはない!
このトレーニングサボってやる!
「さぁ!起きてください!」
「嫌です!寝ます!」
「子供じゃないのですから、言うことを聞いてください!」
「まだ僕は、子供です!」
「ほら、トレーニング行かないと、みんなに迷惑がかかりますよ!ほら山岸さんとかも来られるでしょ?」
その言葉に俺は、目が覚めた。
そうだ、山岸が来る。
こうしてはいられない!
「東雲先輩!俺、行きます!」
「えっ、はい」
俺は急いで身支度を済ませて、集合場所に向かう。
なぜなら、そこにモーニング山岸がいるから!
待っていろ!山岸
――早朝――
――川沿い道にて――
俺達は集合していた。
まだ、朝日が上ってない夜明け空。
普段とは違う街の姿、6月の日中の気温とは違い快適な気温。
新聞配達の人達や、犬の散歩もしくは、俺達みたいに、トレーニングをしている人をちらほら見かける。
休日なのに、勤勉なこと
「皆さん!おはようございます!」
「おはようございます!犬飼さん〜!朝の犬飼さんも素敵です〜」
朝から、やかましい。お前は黙っていろ……
「あはは、ありがとう浜田くん……」
苦笑いをする犬飼さん。
一方で、瀬奈さんと東雲先輩が話をする。
「初めまして、東雲会長さんですよね?私、瀬奈 愛梨と申します。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、宜しくお願いします」
「初めまして、俺!浜田 裕と申します!よろしくお願いします!」
「朝から元気が良くていいですね。私は、東雲 宇鷹と申します。よろしくお願いしますね」
「は、はい、こちらそこ!」
「こうくん頑張ろうね」
「そうだな頑張ろうな」
モーニング山岸は、可愛さのあまり神々しく見える!
「はいはい。お話はそこまで。さて軽くストレッチを始めましょう」
自己紹介を終えたところで、俺達は二人一組でストレッチを始める。
「痛いぞ!浜田!」
「うるせー我慢しろよ」
いつも自堕落な生活を送ってせいだ。体が硬い。
俺は、「痛いたい!」と、ぎゃあぎゃあ騒ぎながらストレッチを行った。
その結果、山岸、瀬奈さん、東雲先輩には苦笑いされ、犬飼さんには「だらしがないですね」と呆れる始末。
朝から大恥をかいた。
「さぁ、皆さん今から町内一周走りますよ!」
と犬飼さんが先頭の元、俺達は走り始める。
序盤は俺でもついていけたが、中盤から東雲先輩達から、距離が離れ始めて、気づいたときには、一人ぼっちに……
まぁ、置いておかれてもおかしな話ではない。日頃の怠惰な生活が、こう言う形で出てしまっただけだ。
俺は軽く走る。
いつもは賑わっている街並みもシーンと静まり返っている。
まるで、俺達と同じで、街も寝ているようだ。
新鮮な街並みを眺めながら、俺は俺なりのペースで走った。
そして、走って数分後
俺は、ある人影を見つけた。
もしかして……
「山岸?」
「こうくん?」
そこには息を切らした山岸がいた。
「大丈夫か山岸、何か飲むか?」
「えっ、じゃあ、お言葉に甘えて……」
丁度近くに自動販売機があったので、山岸と一緒に飲み物を飲みながら、歩いた。
「なんか、犬飼さん達に申し訳ないね」
「そうだな」
山岸はともかく、俺は確実に怒られるだろう。
「なんなんですか!私達が頑張っているのに!」
的な事をガミガミと言ってくるに違いない。
だから、こんな姿だけは見られないようにしなければ……
とか、思いながらも、このサービスタイムを満喫する。
こんな朝から、山岸と一緒にいられるとか、最高か!
山岸と仲良く歩く。
「いつもは賑やかい街並が静かだと、なんだか新鮮だね」
「そうだね」
「なんか、こんなに静かだと怖いかも……」
「じぁあ、手でも繋ぐ?……」
「えっ?」
うん?俺今、変なことを言ったよな……
山岸の方を見ると、ぽかっと口を開けて、こっちを見ているが……
やっぱりおかしな事を言った!?
やばい!山岸に嫌われた?!
そう思った瞬間、山岸が手を伸ばした。
「じぁ、手繋いでくれるかな?」
「えっ、良いの?」
「うん、いいよ」
まじかよ!失言で、こんな展開になるとは!
俺は、山岸の手を握る準備をした。
手汗をふき取り、山岸の方へ手を伸ばす。
あぁ、神様!なんて幸運をもたらしてくれたのだ!
早起きは三文の徳と聞くが、まさにこれのことか!
しかし、そんな幸運は来るはずがなかった。
手を握ろうとした瞬間、犬飼さんに見つかった……
「あっ!二人とも、見つけましたよ!なにサボっているのですか!」
犬飼さんは俺に詰め寄る。
「さっきの行動見てましたからね、もし、今度、同じような事をしたら、許しませんから……」
「す、すみません……」
犬飼さんの狂気じみた目は、今にも俺を始末しそうな勢いだ。
そんな犬飼さんは、俺から距離を取るとにっこり笑った。
「では二人は、私が同行しますので、もう一周追加ですからね」
「えっ……」
こうして、俺と山岸は、皆より一周分多く走る事になるのであった。
「頑張ろうな、山岸」
「うん」
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