1 これでいいんだ・・・・・・
「頼む!浩介!」
尊敬していた人物が俺の前で土下座していた。
これは、悪夢なのだろうか?
俺は現実を受け入れられない。
俺の父は、この地域では有名なホテルを経営している社長だ。
絶景が広がる露天風呂と、料理やおもてなしが高く評価されて、
ホテル自体も毎日宿泊客がくるほど賑やかだった。
そのため親父は、ほとんど休みがなく、俺と過ごす時間はあまりなかった。
だが、俺は、その父を小さい頃から尊敬していた。
だが、父親のホテルは、世界的に流行ったウイルスの影響を受けた……
そして残された選択肢は、倒産。
もう、これ以外の選択肢は残されていたないほど、俺達は窮地に立たされていた。
だが、そんな時にある財閥の社長が立ち上がった。
その会社が、東雲財閥。
東雲財閥の社長は、昔からよく親父が経営しているホテルに来るほど、このホテルを気に入っている。
そのため、東雲財閥は、親父の会社に援助金をいくらでも出すことを提案してきた。
東雲財閥は、このウイルスが流行っている中で、新規事業を開発をし、見事成功。
飛躍的に成長している会社。
そこで持ち出された提案だったが、ある条件がある。
それは東雲家の娘である、東雲 宇鷹と俺、初瀬、浩介が、結婚前提でお付き合いすると言う条件だ。
「頼む!お前と東雲さんの娘さんと結婚前提でお付き合いしてくれ!」
尊敬していた親父が俺の目の前で土下座をしている。
いつか、親父みたいに立派など大人になって、親父みたいに信頼を得られる人物になろうと思っていたのに……
こんな惨めな姿見たくなかった……
俺は悔しくて下唇をかんだ。
もしも、ウイルスなんて流行らなければ、こんなことはなかったのだろう。
もし、ウイルスがなければ、こんな親父の姿を見ることはなかっただろう。
「顔を上げてくれ、親父」
「もしかして、東雲さんと付き合ってくれるのか?」
我にすがる表情で俺を見る親父。
それほど、ホテルの経営をしたいのだろう。
だが、その思いには答えられない。
「それは無理だ」
「どうしてだ?」
「俺は昔から好きな人がいる。だから、親父たちの都合で結婚前提の付き合いは無理だ」
本当はホテルを存続させてあげたい。
それに今いる社員も救ってあげたい。
だけど、俺にも思いがある。
俺が好きな彼女は、昔からの幼馴染だ。
今でも仲が良く、正直、他の男性には奪われて欲しくない気持ちがある。
相手が俺の事をどう思っているか分からない以上、恋が実かは分からないが……
悪い親父……
「そうか、そうだよな。わかった。東雲家には今回の案を辞退してくるよ。すまなかったな浩介。お前の気持ちも考えず、俺の都合ばかりで本当にすまんな」
と諦めた親父
親父はどこか寂しそうだ。
果たしてこれで良いものだろうか?
もしかして、俺が東雲 宇鷹と付き合えば、親父の会社は立て直せるか?
もしかして、俺と東雲 宇鷹が付き合えば、従業員も救えるのか?
もし、俺が東雲 宇鷹と付き合えば、またいつも通りを取りも戻せるのか?
そう思った俺は親父に聞いてみた。
「親父、もしも俺が、その宇鷹さんと付き合えば、元の生活は戻るのか?」
「あぁ、約束する」
本当は幼馴染を諦めるのは、正直嫌だ。
だが、実るか分からない恋に縛られても誰も幸せにはならない。
ならば俺が諦めれば、他が幸せになるんだ……
「なら、俺その人と付き合う」
これで親父の旅館はまた続くのだ。
好きな人とはもう、一生、結ばれないが、これでいいんだ。
これで……みんなが幸せになれば
読んでくれてありがとうございます!
次回よろしくお願いします!