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2日目 彼の周りには②

風が強い…

桜の花はほとんど散り

葉桜が目立つようになってきた

桜の下で花見をする人

写真を撮る人

楽しそうに笑う人

そんな景色はもう見れない。

僕は病院は嫌いだし退院出来たことはとても嬉しい。でも、病室の窓から見えるあの景色は大好きだった。

それに、あの時の景色はとても幻想的だった。桜の花びらと雪が空から舞う景色はこれまでの人生で見た景色の中で1、2位を争うほど美しかった。


僕は今一人暮らししているアパートの自室で精神疾患のレポートを書いている。


「あー…だめだ、集中できない」


僕はずっと入院していた時のあのできごとがずっと忘れられていなかった

あの美しい景色もそうだが

それ以上に忘れられないものがひとつ


「「また私に恋をしてね」」


あの言葉がずっと頭の中に留まり続けていた。


「冬華さん…なんにも知らないのに、こんなにも懐かしい。なんで僕なんかにあんなこと言ってくれたんだろう。」


僕はいい人じゃない

自信もない

そんなに素敵な人じゃないのに…


「はぁ…どうしたらいいんだろ…」

僕は彼女にはもったいない

ふさわしくない


きっと、僕は彼女に恋できない

心の中に暗い渦が沈んでいた。


あんなに大好きって言ってくれた

愛してるって言ってくれた

抱きしめてくれた

それでも…彼女に僕はもったいない

過去の僕はきっと、彼女のことが大好きでしょうがなかったのかもしれない。

もしかしたら、付き合っていたかもしれない。

でも

でもでもでも…


そんな大切な人のことを、こんなにも完璧に忘れてしまう僕は彼女を愛していいのだろうか。

きっと、もっと素敵な人がいる。

僕なんかより、他の人の方が幸せに出来る。

そのようにしか考えられなかった。


「彼女のためにも…諦めてもらった方がいいよな…。」


僕の心と頭の中はぐちゃぐちゃになっていた


何故か

僕の心の中には彼女のことを知りたいという気持ちが溢れている。

相応しくない、考えているのに…


矛盾した気持ち

僕はどうしたらいいんだろ…


ピロリロリン♪

ピロリロリン♪


あっ


スマホから明るい通知音が響き僕の意識は現実に戻ってきた。

電話だ

着信は一秋という人からのものだった

「…うーん、これは出るべきなのかな」

僕には今記憶が残っていない。

家族以外の人の記憶は残っていない。

そのため、メッセージが来たとしても、誰が誰でどんな関係だったのか分からなかった。

これまで来たメッセージは基本無視してしまっている。

しかし、電話は初めて来る

メッセージ返せてない僕は電話に出るべきじゃない…だから今回も出ないべきなんj…


…いや…出よう

迷惑をかけてるのは僕だ、自分から動かないでどうする

そして知るんだ

僕の周りの人のことを

僕と冬華の関係を

なにか、思い出せるかもしれない

そう考えた春樹は携帯に手を伸ばし

応答ボタンを押した。


ピッ

「はい、春樹です」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「解離性…同一性障害…???」

初めて聞いた言葉だった

でも、名前聞いて唯一わかることがある

これは、障害というところからもわかる通りいい言葉ではない


「そ、知ってる??」


「ごめん…勉強不足だった。わかんない」

心の中に残っている不安が

ジワジワと広がってくるのを感じた。

病院で決意したつもりだったけど…不安は完璧には取り除けてないことを、改めて理解した…


「わかった、んじゃわかりやすいように簡単にかいつまんで説明するね」


鳴海の説明はとても分かりやすく、頭の悪い私でもすんなりと頭に入った。


解離性同一性障害

俗に言う多重人格が生まれてしまうことだ。

ずっと新しい人格が生まれてしまう人

とある条件を満たした時にあたらしい人格が出てしまう人

人格まではいかないが、好みや思考が変わってしまい、昔とは少し変わってしまう人など

様々な症状がある

物理的な衝撃や精神的なショックなど

普段の生活ではなることはほとんどない。

そのため、この症状になる実例はあまりないと言われている。


「…おっけ?軽く説明したけどこんな感じ」


「ありがとう!めちゃくちゃ分かりやすかった!でも、なんで解離性同一性障害が心配なの?病院での様子的にそこまで変わってないと思うんだけど…」


実際、あの真剣に話を聞いてくれる時の瞳は何も変わってなかった。

あの優しさも、人前でくっつかれることが苦手な照れ屋さんなところも


「んじゃ冬華、春樹のいい所言って?」


「何藪から棒に!?惚気話はやめてって言ってたじゃん!」


「いいからいいから、どういうところが好き?どういうところがいいと思ってる?」


「えっと…全部が好きなんだけど…」


「違う違う!そういうのじゃなくて!詳しく!してもらって嬉しかったとことかでもいいから」


「うーん…1番嬉しかったのは私より先に記念日とか一緒に祝ってくれたこととか、私が喜ぶと一緒に喜んでくれて、悲しい時は一緒に悲しんでくれるとことか…色々あるんだけど…」

特に記念日の思い出は私の中でも特に覚えている。

初めての記念日を迎えるとき、私がメッセージを送ろうとチャットを開いた。

その瞬間 ピコン♪

と通知がなり、メッセージが送られてきた

「付き合って1ヶ月だねー!嬉しくて少しフライングかもだけど送っちゃった!冬華とずっと一緒にいられるように頑張るからこれからもよろしくね!大好き!」

この時、口元が緩んで治らなかった

どんなにシャキッとしようとしても、嬉しくて嬉しくて嬉しくて…笑顔にならないわけがなかった。

その後の記念日も、ずっと彼から祝ってくれてる。

「今回こそは!」と意気込んで祝おうとしても、彼の方が早く祝ってくれる。

彼のそんなところがとても大好きだった。


「あー…記念日のあれスクショとか私に送ってきたもんね、あれは私でも嬉しいと思うし、そういうところも春樹の魅力の一つだね」


「うん!春樹を好きでいられる理由の一つなんだ…こういうところ」


「でも冬華…?その彼のいい所無くなってしまってる可能性って考えた??」


「…え?」


「確かに、優しいところとか真剣に向き合ってくれるところとか色々変わってないところはある。でも、あの短時間で分からないこともいっぱいあると思うの。だから、全て同じだと思って接して、もし変わってしまっていた時。例えば、関係をもどせた時冬華の好きと言っていたひとつの「記念日を先に祝ってくれる」って言うところが彼の考えの中にはもう残ってないかもしれない。」


鳴海の言ってることは正しかった

今の私は春樹くんとは付き合っていない

過去の春樹くんとは付き合っていたけど、今の春樹くんが記念日どんなことをしてくれるのか、どんな反応をしてくれるのかは何も知らなかった。

考えれば考えるほど

分からないことが増えていった。

だからこそ、私の心の不安な気持ちが増えていく。黒く染っていく気がしていた。


「…確かに…そう…かもだよね」


「そ…ポジティブに考える冬華のそういうところは私は大好き。でも、悪い方の可能性を考えない馬鹿だとは思ってない。私は冬華が春樹くんのことが大好きで愛していて、ほおっておけないこともよく分かってる。」


もし、春樹くんが変わってしまっていたら

私の中にある春樹くんとの思い出や好きなところはどうなってしまうのだろうか

過去の思い出とこれからの思い出をしっかり分けることが出来るのだろうか

考えれば考えるほど、不安になる


「う、うん…」


「私は…冬華には幸せになって欲しい。春樹くんと幸せになって欲しい。だから私に出来ることはなんでもやる。だけど、それ以上に冬華が壊れちゃわないか心配なの」


鳴海は優しい。でも、素直に思ってることを話してくれる。

鳴海だから話してくれる。

きっと、他の人だったら私の考えを肯定するだけで、ここまで深く考えさせるようなことは言わない。

真剣に思ってくれてるからこそ、こう言ってくれてる。でも…強がっていただけの今の私の心にそんな余裕は…


彼の好みが変わって、私のことはもう一生好きにならないかもしれない。

この考えが抜けなくなってしまった。


私は

鳴海の真っ直ぐ見つめる瞳を見ることが出来なくなってきていた

下を見て

顔をあまり見せないように

また泣きそうなことがバレないように


「はぁ…もう」

ガシッ


私は鳴海に顔を両手で掴まれていた


「な、鳴海…やめて!」


「…ほんとバカ!別に悪い方にだけ考えろなんて言ってない!」

鳴海の目は涙ぐんでいた。


「だ、だって…」


「それに冬華は少し変わったくらいで春樹のこと嫌いになるの?」


ならない、なりたくない

春樹くんのことを嫌いになんてなりたくない


「確かに昔のキラキラした思い出は忘れられない。彼は覚えてなくても、冬華は忘れることは無い。なら、その思い出を彼に伝えるためにも、彼のそばに居なきゃダメなの!」


「そばに…」


「どんなに変わったって、何回忘れたって、冬華が覚えてれば何度でもやりなおせる。やり直すのは辛いことなのはそう。戻れるか分からないリスクがあるのもそう。でも、それ以上に春樹くんを思う気持ちなら誰にも負けないってのは冬華が春樹くんのそばにいるべき理由なの!過去は変えられなくても未来は変えられる。その大切な過去の思い出は一生変わらない大切な宝物なんだから、それをしっかり春樹くんにも分かってもらう為にも、それを唯一知ってる冬華じゃないと出来ないことなの!」


「う、うん…」

涙は止まらなかった

鳴海も泣いていた

顔を掴む力はとても弱く、優しくなっていった。でも決して離さない

私も離れようとはしなかった

鳴海の私を思う気持ちをもっと近くで感じていたい。

鳴海のその気持ちが、私の黒くなっていた心を癒してくれていた。


「後から悪い可能性について考えてつまずかないように今回はこんな話をした。でも、冬華は冬華らしく春樹と接してればいい。変わったところがあったらそんときはそんとき。その上で愛してあげる。それができるのは冬華だけ。それだけは忘れちゃダメ。」


「…」


「…また、春樹と一緒にいる時に見せてくれる、冬華の100点満点の笑顔。私は見たい。」


「…うん」


「自信を持っていい。絶対に大丈夫だから」

掴んでいた手はそっと離されていた。


「…私、がんばる」


「…うん…それでこそ私の親友だよ」


「鳴海ありがと…私、強がってたけど、ほんとに決意が固まったよ」


「不安なことはない?」


「無いわけじゃないけど…鳴海もいるから大丈夫。私なら大丈夫」


「ん、分かってるならのんも文句なし!」


「うん!」


「んじゃ、とりあえず…長居しすぎたしそろそろでよ?」


気づけばここに来て2時間はたっていた。

アイスコーヒー1杯で2時間…

ちょっと迷惑かけちゃったかなぁ


「そ、そうだね、そろそろでよっか」

急いで残ったコーヒーを飲みほす

氷が溶けきっていて、少し薄い…


「マスターお会計!」

席をたち、レジに私たちは向かおうとした

その時


ピロリロリン♪

ピロリロリン♪


電話の着信音が鳴り始めた

電話が来ていたのは冬華の携帯だった。


「鳴海ごめん!電話来ちゃった!お会計やっててくれない?」


「はいよ」

お金を渡し、携帯の画面を見る


そこには

「春樹」からの着信の文字が映っていた。

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