2日目 彼の周りには①
やぁ、僕の名前は元部
モブって呼んでくれ!
最近僕は人の少ない喫茶店を探してる
理由としては、うるさい所が嫌いだからだ!家にいればそんな騒音ないんじゃないだろうかって?
残念、僕はニートだ。
親が働け働けうるさいのだ…
んでまぁ、バイト探しに行ってくるーっていう口述で今こうやって外に出てるってわけよ!
てことで、とりあえずそういう理由で人の少ない雰囲気のあるいい喫茶店を探してるんだ。
そして丁度昨日最高の場所を見つけた!
少し裏路地に入ったところに昭和の雰囲気の漂う喫茶店があったのだ!
大きな音もなく、聞こえるのはゆっくりとした落ち着いたジャズ
店員さんもイケおじのマスターが経営してる。もう理想形態だよね。
最高!ボサボサの髪をなびかせて、今日もこの喫茶店でのんびりコーヒーを嗜みながらこの空間を楽しもう。今日はコーヒー以外になにか頼もうかな♪
しかし、そんな空間は一瞬で壊されるとは思いもしなかった。
「はぁー!?!?記憶喪失!?!?」
「ちょっと鳴海!!大きな声出さないでよ!」
「いやいや…これは仕方ないでしょ!え、ドラマとか漫画なら分かるけどさ、リアルにこんなんありえるの?」
「1番驚いたのは私だよ…」
え…
…なんでだよぉぉおおおおお!!!
俺の!
理想の!
空間が!!!
せっかくの雰囲気が台無しじゃんもー
…でも、なんか、面白そうな話してるな
声の主のある方に耳を傾けると共に、目線をあてた
そこに居たのは黒髪のショートボブの似合うパーカーの似合う古着女子。そして、明るめの茶髪を結んだポニーテールと少し焼けた肌が特徴的なオーバーオール女子がいた。
(うわぁ…キラキラしてんなぁ、俺とは違う世界線の人だわ)
いやいや、今はそんなことはどうでもいい
記憶喪失とかいう普段じゃ耳にしない話をしてるんだ、気にならないわけが無い
ちょっと彼女らには悪いけど…耳を傾けさせてもらおう
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「はぁ…あんまり大きな声出すと他のお客さんに迷惑だよ」
「うーん…記憶喪失ねぇ」
「聞いてないし…」
私は今、いつもの喫茶店に親友の
日向鳴海と来ています。
この子との付き合いはもう5年目になるのかな、高校時代の部活で初めて話してそこからもう意気投合。素直すぎてたまに意見の食い違いで喧嘩にもなるんだけど、なんやかんやずっとそばにいてくれてる。それに、その素直で真っ直ぐなところから最後までちゃんと向き合ってくれる。春樹とは少し違うけど、相談に関しては良くしてもらってるんだ。ほんとにありがたい。
「春樹くんは冬華以外の人のことは覚えてないの?」
「実は、お父さんお母さんのことは覚えてたらしんだよね。でも、友達とか私は全然覚えてないみたい」
「あー…んじゃ私がお見舞いにってもどちら様ってなっちゃうよなぁ」
「逆に鳴海のことだけ覚えてたらそれはそれで悲しいけど…」
「確かに、彼女のことは忘れて女の子の友達のことだけ覚えてたらそりゃやばいわ」
「うん…」
今現在、4月16日
春樹くんが目を覚ましてから10日が経っていた。
春樹くんの体調はすっかり良くなり
今は普通の生活に戻れてるみたい。
勉強についてはほとんど覚えているらしく、講義に遅れはないみたい。
それと、もともとリモート授業が多い大学だったため、学校には行ってないらしく
春樹くんの記憶喪失について知ってるのは今ここにいる私と鳴海。後で鳴海の彼氏のであり、春樹の親友でもある澤田一秋くんにも伝える予定である。
この4人でよく出かけるし、近々遊びに行く予定も立てていたが…
案の定、事故でそれどころじゃない
「一秋…このこと知って正気保てるかな」
「一秋くん、春樹くん大好きだもんね…」
「ほんと、私より好きなんじゃないの?あれ。もうあの二人くっついてもいいんじゃない?」
「やめてよー!流石に私の彼氏でBLは考えたくない!」
ただ春樹くんが親友である一秋くん含め、他の人に盗られたくないだけなのは秘密である。
「あ、冬華そういうの無理なタイプ?」
「ちょっときつい!」
「そっかごめん笑」
「やめてよー!」
「はいはい笑」
何気ない会話と、笑い声が店内に響く。
この喫茶店での時間はいつでも私の心の支えになってくれる。
だからここで鳴海にも話したかったんだ。
ほんと幸せ。
…また、春樹くんとここに来たい。
今度誘ってみよう…
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ははーん
なるほど
モブはオリジナルブレンドのコーヒーと店内一推しのサンドイッチを頬張りながら会話をひっそり聞いていた。
彼氏が記憶喪失…か
漫画とかドラマにならよくある展開だけど、こんなことがリアルにあるもんなんだなぁ
彼女さん気の毒だけど、少し面白そう。
だけど…春樹くんっていう、彼氏さんの人望が羨ましいわ…俺にはそう見守ってくれる人はいない。
心配してくれる人なんていない…。
ネットには少しいるけど、リアルにそんな人はいない。
俺だって友達とか欲しいよ…。
「あんた、ここで何してるの」
…聞き覚えのある声が聞こえる。
いやいや、ここ喫茶んだぞ?
幻聴だわ、うん、そうに違いない
「バイト探しに行ったんじゃないの??」
…いやいや…いやいやいやいや…ないない
「知り合いのお店にうちの息子らしき人が来てるって言うから来てみたけど、なーに美味しそうなもの食べてるんだ??」
恐る恐る顔を向ける
そこに立っていたのは鬼の形相でこちらを見ている俺の母親だった。
(あー…これ死んだわ、殺されるわあー。うん、サヨナラだわ)
「あなたの代わりに私いい仕事見つけてきたのよ」
「そ、それは…??」
「マグロ漁船に乗ってもらうことになったわ」
「…はい!?!?!?」
「私昔からの友人が紹介してくれたんだー、快く乗るよなー?んー?てか、今から行くぞ」
「ちょ!まって!まだ食べ終わってないし!気になることが!」
「問答無用!さぁついてこい!」
「いやだぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
静かな店内に流れる音楽と、店内にありえない会話。そして、あの話をしていた女の子たちの視線が痛い。
あー…でも…ちゃんと心配してくれる人はいたんだな…
家族って…あったけぇなぁーなんて
いや…苦しいわ、首元苦しいわ
襟持って引きずるのやめて!息子もっと大切にして!
おかあさぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!
その後、母親に連れられほんとに港に行き、マグロ漁船に乗らされたのはまた別の話。
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「なんか、騒がしいな、あの親子」
「そうだね、でも、鳴海もお母さんになったらあんなふうになってたり笑」
「はいー??絶対にないね!私はめちゃくちゃいいお母さんになる自信ありますー。てか話の続きよ!さっきから全然進んでない!」
「あ、うん。ごめんごめん。それでね??」
私は今、春樹くんに思っていることを全て鳴海にはなした。
なんやかんや記憶喪失を未だに信じることが辛いこと
諦めようと一瞬考えたけど、絶対に無理だと思ったこと
大好きなとこ
愛してること
ずっと一緒にいたいということ
病院でどんなことがあったのか
全て話した。
鳴海は、全部真剣に最後まで話を聞いてくれた。
「うん…惚気話はもうやめて、ちょっと恥ずかしくなってきちゃうから」
「あ…ごめん…無意識だった」
「いいのいいの気にしないでー。大好きなのは昔から変わらんのは分かってるし、春樹くんを絶対に離したくない気持ちもよーくわかった。てか、話す前から分かってたけどね」
「うん…」
「私は春樹くんは冬華にしか似合わないと思ってる。だからずっと応援するし、できることがあったら何でもするよ。一秋も絶対同じこと言ってくれる」
鳴海は私の目を見つめながら、そう言ってくれた。
不意に、目が熱くなるのを感じる。
こんなにいい親友をもてたこと
反対されなかったことによる安心
そして、ひとりじゃないっていう心の余裕が私の心の穴を少し埋めてくれた。
「ちょ…昼間から泣かないでよ」
「ご、ごめん!大丈夫!」
「ほんとにー?まぁ、大丈夫って言うなら信じる」
「ありがと!」
病室で心に決めた時よりも、前を向けている気がする。
鳴海、ありがとね
絶対に、彼との時間を取り戻すから
またあの4人で遊びに行こう
またひとつ私の中で目標ができた
「んでもよ…すこーし不安なことがあるんだよね」
アイスコーヒーに口をつけ、ひと呼吸おきそう呟いた
「不安なこと?」
「そー…」
解離性同一障害
それがないか不安
鳴海はそう呟いた。