1日目 桜の花びらと雪の降る日①
私は絶対、彼と幸せになる。
4月6日
桜吹雪がまう中、季節外れの雪が降っていた。桜と雪の色合いが幻想的な世界を作り、多くの人が写真やビデオを撮っている。ニュースもSNSもこの天気の話ばかりだ。
(綺麗だなぁ…春樹くんとこんな景色見たかった)
見ればいいじゃないって??いやいや…それが叶わないの
なんでかって言うと
彼は今、意識不明の重体だから
4月3日
妙に肌寒い、嫌な日だった。
私は大学の講義を終え、晩御飯の買い出しに出ていた。
(彼にも絶対人参を食わせる…だからこのレシピを試す時!)
彼は人参が嫌いだ、だけど健康にいいって話はよく聞くし、好き嫌いしないで食べて欲しい。だから、私は取っておきのレシピで彼の苦手を克服してあげたい。そう、考えていた。
ピコン~♪
明るい通知音が鳴ったのが耳に入った。
この時間帯なら彼がバイトの休憩に入った時間だから、それの連絡かな
そう思い、携帯に目を向ける。
「彼が今交通事故に巻き込まれました。意識不明の重体です。彼の携帯を使って親族の方に連絡をしているのですが、連絡がつかなかったので彼がピン止めしているあなたに連絡しています。きっと彼女さんですよね?中央病院まで来てください。」
…え?
頭の中が真っ白になった
え、どういうこと?
交通事故?
意識不明の重体?
人違いじゃないの?
なんで?
なんでとか言ってる場合じゃない、中央病院まで行かなきゃ。
私はタクシーを止めて、中央病院まで向かうこととなった。
…なんでそこで寝てるの?なんで?夢だよね?嘘だよね?嘘って言ってよ
いつもみたいに優しく微笑んでよ
いつもの大好きな声聞かせてよ
いつもの愛してるって聞かせてよ
抱きしめてよ、いつもの匂い感じたいよ
温もりを…感じたいよ…
彼は、病室のベットに酸素マスクをつけられ眠っていた。
「…彼女さん…ですか?」
医師であろう人が話しかけてくる
「親族の方と連絡がつかなかったので…来てくれて良かったです」
何も頭に入らない
「彼なんですが…最善は尽くしましたが、覚悟はしていてください」
何も考えたくない
「信じて…待っていてください。」
何も
聞きたくない
気がつくと時計の針が2時間も動いていた。
少しの間の記憶が無い
私はなんで病室にいるのだろうか
しかし、彼がベットに寝ているのが目に入り全てを思い出した。
「春樹くん!」
傍により手をそっと握る
暖かい、いつもの大きな手だ。
しかし、私が握っても握り返してくれない。
…なんで…こんなことに…
目から熱い涙が零れた
止まらない
拭っても拭っても、拭っても拭っても止まらない。
泣いたら彼が起きるんじゃないだろうか。ドラマや漫画みたいに目を覚ましてくれるんじゃないだろうか。彼の声が聞けるんじゃないだろうか。
しかし、聞こえるのは病院の機械のピコンピコンという音と頑張って呼吸をしている彼の息の音。そして、私の泣いてる声のみである。
…生きて…生きて…目を覚まして…お願い…
そう願ってから、私の意識はすっと途切れた。
そして、今、4月6日に至る。
この数日彼の様子に変化はない。
医師は「このまま安静にしていたら、目を覚ますだろう。もう大丈夫のはずだ。」と言っていたが、それでも不安だ。
今日も彼は目覚めない
手を握っても握り返してこない
キスをしたら目覚めるのでは?
と思いキスをしようとしたが、看護師にとめられてしまった。
交通事故を起こした加害者が保護者と一緒に謝罪にも来たが、その時私は何を口にするか分からなかったため、席を外した。彼の保護者は事故の後すぐに連絡がつき、加害者の対応をしていた。皆、涙していた。
今日は私しかいない。保護者の方も仕事があり、ずっとはいられない。私も大学の講義があったが、講義を蹴ってここにいる。彼が心配だ。彼に何があったら、取り返しがつかない状態になったら、そう考えると無意識にここにいた。
でも…そろそろ帰らなきゃ
「また明日も来るね」
そう言い私はベットの傍を離れる
「ん…んん…」
!!!!!?
彼の方から声がした
バット振り向くと、彼が目を開けて起き上がろうとしていた。
「春樹くん!!やった!目が覚めたのね!」
心の底から嬉しかった
早く彼のお父さんお母さんに連絡しなきゃ!
あ…でもその前に先生に!
「あの…」
しかし、春樹君は…
「どちら様…ですか?」
記憶を、失っていた。