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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編 ずっとずっと友達だよ

作者: モミアゲ

「ねぇ。アタシ綺麗?」


 僕の名前はチャーリー。僕がゴミ捨て場で起き上がった時、赤いコートにマスク姿のお姉さんがしゃがんだ姿勢で顔をのぞき込んでいた。そうだなぁ。僕って結構草臥れて全身ヨレヨレだし、目玉なんて半分無いから比べればお姉さんの方が綺麗じゃない?



「何って言うべきか微妙な所だけれど……まあ、良いわ」


 そんな風に伝えたら少し複雑そうな顔をしながらお姉さんはポケットから血がこびりついたハサミを取り出してマスクを外す。口が耳まで裂けていた。


「これでも綺麗? なら、貴方の口も同じ様にしてあげるわ」


 抵抗する暇もなく僕の口はハサミで切り裂かれる。お姉さんの口って物を食べるのに不便そうだなあ。僕、何も食べないんだけれどさ。




「……悪かったわよ。誰かに会った時はあんな質問をするのが”口裂け女”て存在だから勘弁してちょうだい。ほら、直ったわよ」


 もう夕日も沈んだ公園でお姉さんは僕の口を縫ってくれる。ああ、良かった。あのままにしていたら中身が出ちゃうし、エリちゃんだって驚くからね。ってっ! 何じゃこりゃぁぁぁっ!?


 お姉さんが見せてくれた僕の顔だけれど縫い合わすのに使った糸の色は周りと違うし、縫い目だって凄く雑!


 これじゃあオバケだいっ!


「いや、アンタって熊のヌイグルミなのに動いて喋ってるじゃないの。オバケよ、オバケ」


 え? 僕ってオバケだったの? 困ったなぁ。エリちゃん、オバケが怖いんだ。だから何時も僕をギュッて抱き締めて眠ってたのに。


 あっ!


「どうかした?」


 僕、エリちゃんの所に帰らないと! 暫く会ってないから心配だし、もう行くねっ!


 エリちゃんは僕の友達。エリちゃんのママが僕を作ってくれた時、そう言ってたんだ。だから僕達は何時も一緒。今日もお風呂場でかくれんぼしてたんだけれど、エリちゃんったら勝手に隠れる所をゴミ捨て場に変えるだなんてさ。反則だよ、反則!


「……ちょっと待ちな」


 僕が膝の上から飛び降りた瞬間、口裂けのお姉さんが頭を掴んで引き寄せる。も~。僕、かくれんぼの途中だったんだよ? 何でか鬼の僕をエリちゃんが見付けて自分の勝ちだって言っていたけれど、だったら次は本当に僕が見付けなくちゃ。


 だから急いでるんだ。


「まあ、待ちな。そのエリちゃんってのはどんな子だい?」


 えっと、オバケが苦手で右手に黒子があって、僕のお友達。僕はエリちゃんの友達として作られたから一生友達なんだ。かくれんぼを始める前なんか僕に爪をプレゼントしたんだよ。僕が鬼なのにエリちゃんが探しに来ちゃうなんて少しうっかりしている子でもあるよね。


「……まあ、最終的には燃えるんだろうが迂闊な事だよ。ちゃんとしないからこうなるんだ」


 お姉さんは僕を地面に降ろすとポケットからさっきとは別のハサミを出して僕に手渡した。あれ? 僕って指もないのにどうやって持てているんだろう? それに口も開かないのに喋って……。


「オバケが科学的な事を気にするんじゃないよ。アタシ達はそんな存在って事なんだから。……じゃあ、アンタは自分らしい行動をして来い。アタシがやったみたいにね」


 僕らしい行動? うーん、さっぱり分からないけれど、かくれんぼの途中だからエリちゃんを探しに行かないと…イト……。


 あれれ? 今、頭の中が変になった気がしたぞ。うーん、うーん、全然理由が分からない……あっ。


 考え事をしながら歩いていた僕は気が付けば道路の真ん中を歩いていて、凄い速度のお婆さんに跳ね飛ばされた。あーれー。


 あの人、時速何キロだろう? エリちゃんと乗った車よりもずっと速いぞ。ほら、地面に落ちる前に見えなくなっちゃった。元気なお婆さんだね。


 凄く速度で跳ねられたからか僕は暫く宙を舞い、そのまま水たまりに頭から落ちちゃった。口裂けのお姉さんが歪に縫った口の糸も解れちゃったし、先に何処かで体を洗わないと……そうだ。


 運が良い事に僕の目の前にはエリちゃんが通っている小学校の裏のフェンス。これを乗り越えれば一番近い旧校舎の一階の窓が開いているのが見えるし、さっと体を洗えるぞ。


 うんしょ、うんしょ、全然登れないぞ、困ったな。僕がどれだけ頑張ってもフェンスの半分も登れない。電気が消えているのに体育館からはボールが弾むみたいな音がするから誰か居るんだろうけれど、こっちまで来てくれないと助けて貰えないぞ。門は閉まってるし……。


 あれ? 後ろから急に誰かに抱っこされた? 高いなあ。



「ぽぽぽ」


 親切なお姉さん、ありがとう! 白い服を着て麦わら帽子を被った背の高いお姉さんが僕を抱き締めて、そのままフェンスを乗り越えてくれた。何でもずっと会いたい人が居たのに邪魔な物が有ったらしいけれど、ヘルメットを被る頭の無い暴走族が事故で壊しちゃったから会いに来たら僕が困って居たんだってさ。


「……ぽぽぽ」


 うん、帰り道を考えていなかったや。お姉さんは親切な事に僕を洗ってくれるらしい。途中、体育館でバスケの練習をしているお兄さんがシュートした頭がゴール裏に引っ掛かったから助けてあげた後、お姉さんは僕をトイレまで連れて行ってくれたんだけれど、洗って貰っている途中で僕は変な事に気が付いた。


 後ろは壁なのに鏡にはトイレの戸が映っていて、中から出て来たお婆さんがお姉さんと僕を掴んだと思ったら知らない場所に連れて行かれたんだ。




「ぽぽぽ……」


 それから長い間お婆さんに連れて来られた場所にいた僕達だけれど、同じ様に連れて来られた先生が持っていたスマ…ホ? ってのが役に立ったよ。エリちゃんが欲しがっていたのはテレビが観れる最新型だったのに凄いのが出てるんだね。


 そのスマホを使ってお姉さんが知り合いに連絡したけれど、先生は”ムラサキカガミ、ムラサキカガミ”って呟いた後から動かないしお姉さんは喋れないから脱出方法を僕が聞いたんだ。九個質問した後で相手がした質問に答えられなかったから出て来た手に右足を持って行かれたんだけれど、お姉さんが服の端っこを切って作った足を上手に縫ってくれたから平気さ。



「ぽっ!?」


 ちょっと変な所から出たら夏から冬になっちゃってた。早くエリちゃんの所に帰らないと!


「ぽぽぽー!」


 じゃあねー! お姉さんとは途中でお別れ、お互いに手を振って惜しみながら背中を向けた。また会えると良いなあ。




 ちょっとの間に随分変わった街に驚きながら僕はエリちゃんが待つ家へと急ぐ。玄関が開いていたから中に入ると悲鳴が聞こえて来た。


「きゃあっ!」


「五月蝿い! ちょっと叩いた位で叫ぶな!」



 この声はエリちゃん! しかも怒った大人の声と叩く声が聞こえるぞ!


 僕は口裂けのお姉さんから貰ったハサミをしっかり握り、エリちゃんを叩いていた女の人に飛び掛かる。振り向いて僕を見た彼女は酒臭い口で悲鳴をあげたけれど、そのままハサミで胸を刺してやった、


 さあ、エリちゃん。悪い奴は僕が倒したし一緒に遊ぼう! かくれんぼの続き? 鬼ごっこ? それとも他の遊びが良い?


「ママっ!?」


 変なエリちゃん。エリちゃんのママは……あっ。



 この子、エリちゃんじゃない。凄く似ているけれど手には黒子が無くて、僕が倒した悪い大人の手には……。



 そっか、僕が知らない間にエリちゃんは大人になっていたんだね。寂しいなあ。ずっとずっと友達だと想ってたのに。それなのに僕は…‥。



















 ああ、そうだ。エリちゃんの手と君の手を切り落として交換すれば解決だ。良かった。これで君は今日からエリちゃん。僕の永遠の友達さ!









一人かくれんぼ

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