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8話

「さぁさぁ先生。遠慮なくどうぞ、さぁさぁさぁ」

「え、え、ぇ、ぇ?」


 リビングに着いた時。双葉はテーブル に既に置かれていた、人数分の濃厚な豚骨ラーメンを見て困惑していた。以前、このラーメン屋で食べたラーメンとは違うネギが山盛りに乗せられ、大きめの極厚切りのチャーシューが二枚乗せられたモノだ。


「いやぁ、俺ぁ覚えてるよォ。俺のラーメン、美味そうに食ってくれたよなぁ。いやぁ、あん時嬉しかったねぇ。で、アンタ星花女子の高等部の先生なんだって? 」

「え、あ。はい」

「こりゃビックリだねぇ、まさか高等部の先生が白鳳に話とはねぇ。あ、さぁ伸びねぇウチにさぁさぁさぁ」

「あ、ぅ、あ……はい」


 正直、お夕飯を出されるとは思っていなかった。それもかなり立派な奴をだ。この場にいる白鳳と、その父と母にも「どうぞどうぞ」と進められ……双葉は断る事なんて出来ず、ありがたく頂く事に。

 因みに白鳳ママは、糸目で白鳳と同じ外跳ね気味のミディアムヘア。白鳳とは違いお嬢様と言うより、落ち着きのある優しいママと言った雰囲気をだしている。


(連日ラーメンだけど、朝を抜けば帳尻合わせできるから問題ないわ。うん)


 少々、太ってしまうかも。なんて事を考えつつ先ずはスープを一口……した瞬間、脳が悦びで歓喜した。


「お、美味しい……」


 多めのネギの甘さ、仄かに感じるピリリとした辛味。これが豚骨スープとマッチして抵抗なく飲めてしまう。

 即ざに麺を啜ってみると、間違いない美味しさが駆け巡るッッ。その後はネギ、チャーシューを食べ進めていく。


(このネギの甘さと辛味がチャーシューとマッチし過ぎてるっ。交互に食べると止まらない!!)


 幸せの味しかしない。気が付けば双葉は、ラーメンに夢中になり食べ進めていた。が、流石に3人の視線が気になったのか赤面して一旦食べるのを止めてしまう。

 やってしまった、人前で……しかも生徒の家族の前で結構恥ずかしい姿を晒してしまったかも知れない。


「ふふ。良い食べっぷりてましたわ、薄木先生」

「オゥッ、ほんとにな。俺ぁ、嬉しいぜ」

「がんばって作ったかいがありましたぁ」


 けれど、白鳳は気にする筈もなく。良い食べっぷりに微笑んでくれた。白鳳パパも感動したのか目に涙を浮かべ、白鳳ママは間延びした口調でぱちぱちと可愛く手を叩く。


「ゃ、ぁ、その。す、すみません、がっついてしまって」

「イヤイヤイヤイヤ、気にする事なんてありゃしませんよ。存分にやっちゃってください。ガハハ」


 流石に恥ずかしくなった双葉は、ペコリと頭を下げるけど白鳳パパは、更に食べるのを進めてくる。

 なんと言うか元気が有り余り過ぎている良い父だと双葉は思う。でも、流石に生徒の家でパクパク食べるのは……と思っていると。 


「いや、しかし薄木先生……だったか? 高等部の先生が中学生の白鳳に話ってなんですかい?」

「ーーッッ!?」


 やはり聞かれてしまった、当然の事を。そりゃそうだ、普通なら高等部の先生が中等部の生徒に用などある筈がない。

 やはり、白鳳の父と母は理由を聞きたがっている。


「んー、白鳳からは大切な話って聞いたわぁ。それってなんなのかしら」


 白鳳ママも、同じく聞いてくる。どうしよう、どうしよう、と悩む双葉。白鳳が事前に話したらしいが、深くは伝わってなかったらしく、白鳳も若干困っている。

 さぁ、本当にどうしよう……そう思った時。


「もしかしてアレですかい? 俺ぁ漫画が趣味なんですがねぇ、女子生徒と女教師の恋愛モノがありやしてね、ソレだと2人は秘密裏にその生徒の部屋で……」


 白鳳パパが、デヘヘと笑いながら何やらスンゴイ事を話し出した。双葉の顔は一気に赤くなり白鳳に至っては「何を言ってまふのよ!?」と噛みながらツッコミをいれた。

 なんの漫画か知らないけれど、白鳳パパはイキイキとして妄想じみた事を話し続ける。が……。


「アナタ、妄想を話すのも程々にね?」

「……」


 白鳳ママの手が素早く白鳳パパの喉元付近を突きかけることで黙らせた。優しい雰囲気のある白鳳ママの片鱗を見てしまった……。


「実際のところ、気にはなるのだけど。ンー……なんだか2人からは"詮索されたくない"雰囲気を感じるのよねぇ」


 そして、確信を突いた事を言われてしまう。

 焦る双葉、正直のんびりとしていて抜けてそうなイメージはあったけれど。白鳳ママは侮れない人だと認識する。


「だから、今は何も聞かないわ。特段何事も無さそうだし。それと……パパの言う様な関係だと、実はママもワクワクしちゃうし」


 ……けれど、その印象はホンの少しだけ崩れた。やっぱり何処か抜けた所があるのだろうか?


(……掴めない人、けれど。いい人だと言うのは分かったわ)


 よく分からない所もあるけれど、ちょっぴり一安心した双葉は、進められるままにラーメンを食べていき、輝竜院家の面々も楽しんでいった。




◇◇◇




 すっかり遅くなった時、白鳳の母と父にお礼を言い。双葉は帰ることに。その時白鳳は外まで迎えにきた。


「輝竜院さん、今日はありがとう。話したら少しだけ気が楽になったわ。後、ラーメンも美味しかったわ」

「それは良かったですわ」


 不思議な出会いで知り合えた2人。短い時間だったけれど、深い仲になれた思う程関係性が濃くなったと思わせた。

 あと、頂いたラーメン……あれが物凄く美味しかったので、また食べに行こうと双葉は思う。


(正直、どうなるかと思ったけど。良い方に転んで良かったわ、でも……)


 しかし、双葉は一つだけ思うことがある。白鳳が言った"力になる"と言う言葉だ。まさか初対面の人相手にそう言われるなんて思いもしなかったからだ。

 きっと、引かれてしまう……なんて思っていたのに白鳳は真剣に取り合い、尚且つ優しい言葉を掛けてくれた。


(……優しい人なのね。きっと、沢山の人に慕われる良い娘になるわ)


 実際、白鳳を慕う生徒は多い。彼女が持つ優しさや、凛とした立ち振る舞いに惹かれる人が多いから。

 実際、双葉も彼女の優しさに触れて、抱えている悩みがほんの少しだけ軽くなった。やはり、悩みをシッカリ聞いてくれるとそれだけで嬉しいから……。


「それじゃ、私はこれで。輝竜院さん、明日も学校でね。会えるかどうかわからないけど」


 双葉は、ペコリと頭を下げ帰ろうと向きを変えようとする。その時だった。


「お、お待ちくださいッッ」

「……な、なにかしら?」


 驚いた。白鳳が突然、双葉の手を両手で掴んで歩みを止めてきた。そんな自身の行動が失礼だと思ったのか、手をパッとすぐ様離し……白鳳は申し訳なさそうに話してくる。


「え、えと。こ、このワタクシ輝竜院(きりゅういん) 白鳳(はお)も……話しますわ」

「……?」


 思わず疑問いっぱいな表情をしてしまったが、本当に白鳳の言わんとしている事が分からないのだ。

 だから、「なんの事?」 と聞き返そうとした時。それよりも早く白鳳は言ってくれた。


「わ、ワタクシも悩みがありますの。そ、その……この喋り方と言う悩みが」

「え?」


 ソレは、白鳳も悩みを持っているという事だった。そう言えば、白鳳の部屋で自らそんな風な事を言っていた気がする……。


「ワタクシ、輝竜院という性が余りに立派過ぎて、その……皆様に誤解されたのですわ、お嬢様だ……と」

「そ、そうなの?」


 驚きの事実だ、白鳳の背景にそんな事があっただなんて……。


「最初こそ良い気分になってしまい"そうですわよ"なんて答えましたわ。ソコが最大のミスでしたの!!」

「ーーッッ!?」


 軽い相槌でも取ろうとした時。目をカッと見開き、自分の愚かさを噛み潰すように苦しそうに話していく。


「ワタクシがお嬢様言葉を意識的に話せば、次第に皆に伝わって。気が付けば立ち振る舞いから何まで"お嬢様"として振る舞わなければならかくなったのですわ」

「そ、それは……。大変そうだけど、本当の事を言えば」

「そうですのよー!! 最初に言っておけばこうはなりませんでしたの」


 ウゥゥ、と悲しげに少しだけ涙を溜めたあと。白鳳は遠い目で語る。


「送迎はリムジンと言ってみましたり、お食事は一流シェフが作るものと言ってみたり。色々な事を言ってしまいましたわ。本当はド庶民ですのに」

「あ、あぁ。それは……」

「ですが、勘違いしないで下さいまし。なにも悪い事ばかりではありませんわ。お嬢様として立ち振る舞うのも、わ……悪くはありませんの」


 本当に良い事もある、その言葉が真実だと言わんばかりに白鳳は目を輝かせた。そうでなければ、普段から堂々と? お嬢様をやっていないだろう。


「エレガントな品物は見ていてワクワクしますし、何よりお嬢様をする事で人を知れた気がしますの。つまり……その、人に慕われる方法?」

「それは、良い事ね」


 悩みという割には、良い事もあって本人は楽しんでいるんだ。なんて思った時、白鳳は「ですが」と続け、双葉の両肩に手を乗せてくる。


「期待が膨らみ過ぎてますの!! ワタクシを本当のお嬢様とみて、皆が……皆がぁぁ」

「え、あ。輝竜院さん? 少し落ち着い……」

「これが落ち着いていられますか!! 庶民だとバレたら……わ、ワタクシなんと言われるか。住んでいる家なんてバレた日には、目も当てられませんわー」


 その仕草たるや、最大の悩みは此処にあるんだと思わせてくる。白鳳も白鳳で最初から真実を語れば済む話だった。

 でも仕方ない、人は一度良い風に言われてしまえば調子に乗ってしまうのだから。白鳳の場合は"優しい性格"故にお嬢様キャラと上手く合致しお嬢様キャラが染み付き浸透していき、退くに退けない状況となってしまったのだろう。


「輝竜院さんも、大変な悩みを抱えているのね」

「そうですの。大変過ぎますのよ。これはいつか黒歴史になってしまうのですわ」

「あ、あはは。そう……かしら?」


 黒歴史、という言葉に双葉は空き教室で白鳳の前でやってしまった自身の痴態を思い出し心が痛くなる。

 忘れなさい、忘れなさいと念じ一旦心を落ち着かせた後、双葉は白鳳の目をジッと見つめ……。


「話してくれてありがとう」

「薄木先生」

「輝竜院さんの言葉を借りるけれど、私も何かに力になりたいわ。私の悩みも力になると言ってくれたもの」

「え、あ゛。わ、ワタクシ……そんなつもりで言ったんじありませんわ」

「良いの。気にしないで」


 双葉が今目覚めた想いを口にする。肩に置かれた手を優しく手に取り、ね? と優しく言い聞かせる様に白鳳に語ると、見つめられ恥ずかしくなったのか、白鳳は俯いた後。


「は、はひ」


 と。赤面しながら応えた。そんな白鳳をみた双葉は、気持ちを切り替え今度こそ帰ることにする。


「それじゃ、私はこれで」

「はっ、はい。またお二人で話しましょう。あの空き教室で」

「わ、分かったわ」


 去り際に、秘密に会う言う秘密の約束を交わし。双葉は、輝竜院宅から自身の家へと帰っていく。


(……何故かしら。2人で話しましょう、ただそう言われただけなのに。心が高鳴っているわ)


 白鳳の様な優しく、悩みを真摯に聞いてくれる人と初めて出会ったからだろう。慣れない出来事に、心が追いついていないのだ。

 そう自身で思いつつ、心做しかいつもより柔らかい表情で、双葉は帰路につくのであった……。

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