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7話

 さて、時間がソコソコ経った頃。双葉は白鳳の家の前まで来ていた。白鳳に自分のことを話す、そんな理由があって来たのだが、双葉は白鳳の家を目にした時。


 鼻腔が幸せいっぱいに刺激されると同時に衝撃を得てしまう。


「こ、ここは……ッッ!?」


 香しい豚骨スープの芳醇な香り、このノレン。見覚えがある、嗅ぎ覚えがある所の話ではない。この店は……双葉が昨日来たお店だ。


「えぇ、ラーメン輝竜。このワタクシ輝竜院(きりゅういん) 白鳳(はお)のお父うえ……父が経営しているお店ですのよ」

「そ、そうなの」


 という事は、あのスキンヘッドでハチマキをしていたのが白鳳の父だろうか? いや、そんな事よりも。双葉は改めて白鳳を見て……気が付いた。


(そう言えば。輝竜院さんは、あのラーメン屋にいた気がするわね)


 ラーメンに集中してあまり気にならなかったけど、注文を取っていた人がいたのをうっすらと覚えていて、その娘が白鳳だと気づく。

 思えばお嬢様口調だったし、一致する点は多い。あと、ドレス姿と扇子を持って「おーほっほっほっ」と言わせてみたい雰囲気もピッタシ一致している。


「ほ、本当は親しい友達ですら案内するのは嫌でしたが、コレは仕方の無いことですの」

「輝竜院さん、何か言った?」

「い、いえ何も。さ、さぁどうぞ入って下さいまし。お父さま……コホンッ。父と母には事前に事情を話していますわ」

「え、えぇ」


 内心驚きつつ、双葉は白鳳に連れられ入っていった。




◇◇◇




「え、えと、その……粗茶でございますけれど、どうぞですわ」

「あ、えと。ありがとう」


 仕込み中のラーメンの匂いが香る中、住まいである2階へ行き、白鳳の部屋に入った2人。

 所々にエレガントで高価な小物が置かれた、中々にお嬢様らしさ溢れる部屋を眺めた後、双葉は……。


(天幕付きベッドなんて初めて見たわ。フカフカでよく眠れそう……)


 なんて思いつつ白鳳に進められるがままに、ちょこんっと部屋の真ん中に座ると、白鳳がお茶を振る舞い、双葉は話の切り出し方を悩むも、とりあず出されたお茶を飲む。


「美味しいわ」

「よ、良かったわ。お口にあったようですわね」


 ……どうしたものか、今まで生きてきて最強クラスの緊張感に襲われている。けれど、じっと黙っている訳にもいかず。双葉は早々に決心した。


「は、輝竜院さんの予定のこともあるから、早速話すわ」

「へ。そ、そんな慌てる事はありませんわよ?」

「良いの。早く話すに越したことはないから」


 ふぅぅ……っと長く息を吐いた後、双葉は少々恥ずかしげな顔をし、きゅっと自身の服の裾を掴みながら話した。


「全部、私が招いた事なのだけど、実は……」


 幼い頃、親に趣味にかまけず勉強しなさい、と言われたけど、アニメに影響されてコスプレに目覚めた事を……。


「は、恥ずかしい話だけど。隠れてコスプレを楽しむしかなかったの。で、でもソレだと……物足りなくて」


 その話をした後は、双葉が抱く悩みも話した。話してる内に、自分でやった事が如何に恥ずかしい事だと再確認して、どんどん双葉の顔は真っ赤になっていく。

 けれど、白鳳は双葉の話を顔色1つ変えずに真剣に聞いていた。


「ぜ、全部私が悪いのよ。バレたら何をされるか分からないって気持ちを今でも持ってて、その……上手く好きを共有出来なくなったから」


 何故隠してきたのか? 双葉は時おり思うことがある。どのタイミングでも反発し、自分なりの意見を言えば、こうはならなかったのでは? と。

 でも、双葉は趣味を隠して楽しんで来た。結果的にバレたらダメ、と言う気持ちが大きくなってしまった。何故なら職場でコスプレをすると言う、ぶっ飛んだ行動をしてしまったから……。


「あぁぁぁっ、言ってて恥ずかしいっ。親にバレたら人生終わるじゃないのよー!!」


 つまるところ、拗らせてしまったのだ。こうなるまで親に黙っていた自分が圧倒的に悪いと頭を抱え、悶える。

 そんな双葉を白鳳は苦笑しながら見つめ「大変な問題ですわね……」と呟いた。けれど白鳳は思う。


(つまるところ、薄木先生は自己を出す事が苦手なんですわ)


 自己解釈ながらもそう思い、白鳳自身も思い当たる所があるのか、ちょびっと心がチクリとした。


(これ、ワタクシの"お嬢様言葉"の件と似てません事? 本当の自分を出せないて点では、気持ちは分かりますわ)


 白鳳の場合は、皆のイメージを守る為言い続けてきたお嬢様言葉。だが、いつだって本当の事を言えたはずなのに長年続けてきた性で引っ込みが付かなくなってしまった。


 今更本当の事を言えば何が起きるか分からない、そんな怖さがあるから言えない。


「えと、薄木先生。落ち着いて下さいまし」

「ッッ!? ご、ごめんなさい。取り乱したわ。また恥ずかしい姿を見せてごめんなさい」

「気にしないで下さいまし」


 ふふふ、と微笑みつつ白鳳は考えた。自分が持つ気持ちと同じではないか? と。そう考えれば、気持ちが分かる。


「あの、薄木先生。ワタクシ 輝竜院 白鳳も、その気持ちがよく分かります事よ」


 だから、気が付けば身を乗り出し口に出していた。突然の白鳳の言葉にキョトンとする双葉。そんな姿を見て慌てて白鳳は続ける。


「わ、わわわっ。事情は、その……言えませんけれど。わ、ワタクシも似たような悩みを持っていますの」

「え、そうなの?」

「そうなのですわ。おーほっほっほっ」


 若干慌ててしまったからか、よく分からない受け答えをした上にお嬢様特有? の笑いまでしてしまった。その事に若干恥じながらも、皆に慕われている内に芽生えた"世話好き"な面が刺激されてしまう。


(なんだか、ワタクシなら薄木先生の悩みを解決出来そうですわ)


 と、一人静かに思っているのを知らない双葉は白鳳の言葉について考えていた。

 気持ちが分かる、つまり向こうも同じ悩みを持っているという事? はてさて、どんな悩みだろう?

 色々考えつつも、白鳳に言われた言葉は素直に嬉しく思う。だから。


「輝竜院さん、ありがとう。そう言ってくれると先生、とても助かるわ」

「へ!? あ……いえ、その。はい……ですわ」


 深く頭を下げてお礼を言った。その時の仕草、双葉の微笑みが白鳳の心を大きく揺らす。


(な、なんですの。これ……)


 感じた事が無い感情が、白鳳を強く昂らせる。それにより、ちょっぴり思考が変な方向へ加速し、白鳳は無意識に口を開いてしまう……。


「あ、あの!! 薄木先生」

「ふぇぁ!? な、なに?」

「とても不躾なのは重々承知しますのですが。わ、ワタクシ輝竜院(きりゅういん) 白鳳(はお)、先生の悩み解決の為のお力になりますわ」


 ……白鳳は言い終わった直後、己の言った事に盛大に突っ込んだ。


(な、何を言ってますのぉー!! ワタクシはァァァァッッ)


 なぜこんな事を言ってしまったのか? 訳が分からなくなった白鳳は頭を抱えグワングワンと激しく揺れてみせる。一方双葉はと言うと……。


「……?」


 口を開けてポカーンとし、言われた言葉を理解するのに時間がかかっていた。少々カオスな空気になりつつある中、突然部屋にノック音が響く。


「おーい、白鳳ぉ。まだ先生と話してるのか?」

「え、ぁ。は、はいそうですわぁ。じゃ、じゃなくて、話してるー」


 その後、白鳳の父らしき人の声が響き白鳳はソレに応える。お嬢様言葉が出て直したけれど、なんだかぎこち無く話した後、また白鳳の父の声が響いた。


「もう夜も遅いからー、リビングに呼んできなさーい」

「え」


 白鳳の父の言葉は双葉にも聞こえていて、何の呼び出しかと驚くも……。


(中等部とは関係がない高等部の先生が呼ばれれば、話を聞きたくもなるわよね)


 と、自己で解釈した。すると、白鳳は「わかったー」とぎこち無く返事をした後、双葉を見た。


「え、えと。という事ですわ。その……着いてきて下さいまし」

「は、はい」


 父に言われた通り、白鳳は双葉をリビングまで連れていく事に。双葉は少々身構えながらも着いていく。何を言われるか不安に思いながら……。


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