4話
「ふぅ……昨日は良いラーメン屋さんと知り合える事が出来たわ」
さて、翌日の双葉は星花女子学園、職員室に着いて早々気分が高揚していた。美味しいラーメンを食べたら、暫くは楽しい気分になるのだ。
(でも、そろそろ控えないと……)
冷静さを保ちつつ、始業の準備を進める双葉。本当は暫くあの"ラーメン輝竜"に行きラーメンを食べ続けたいところだが……。
(もう少ししたら、イベントが始まるもの。調整しないと)
そうもいかない、体調を崩すとかそう言う問題ではなく。実は双葉、秘密裏にコスプレのイベントに参加しているのだ。
故にかなり体型を気にしなければならない。
(と、それもそれとして。部活の事も頭に入れないと)
頭の中で色々考えつつ、自分の机に肘をついて考える。そんな事をしていると、ふと頭の中で唐突に思いつく。
(そう言えば、今日コスプレする場所……何処にしようかしら)
学校の中で、しかも先生がコスプレだなんてダメな事は分かってる。けれど、やはり"学校"と言うフィールドを活かしてコスプレをするのは中々に楽しいが、クリアすべき課題が多過ぎる。
まぁ、ぶっちゃけやらないに越した事は無いのだが……。そういう事は双葉は考えないようにしている。と、そんな時だ。
「あ、双葉先生。すこし宜しいでしょうか?」
「はい。なんでしょう申歩先生」
可愛い茶髪のポニーテールヘアの教師が申し訳なさそうに話しかけてきた。この先生は確か……中学部の教師だ。なにやら周りを気にしている様だが、どうしたのだろうか?
そんな怪しげな申歩先生の様子に警戒しつつ話を聞いてみると。
「あのぉ、放課後なんですけど。中学部等の2階の一番奥の教室、見に行って貰えませんか?」
「……えと、なぜでしょうか?」
あまりにも唐突に雑用っぽい事? を言ってきた。正直言いにくそうな雰囲気を出していたから何事かと思ったが……空き教室の様子を見に行くだけだなんて、拍子抜けである。
「なぜって、そりゃぁ……丁度双葉先生と目が合って丁度いいと思って。あ、いや。その……何となくです!!」
「いや、誤魔化そうとしてましたが本音言ってますから」
しかも、どうやら誰でも良かった頼み事だったらしい。複雑な気持ちになりつつ不安を露わにする双葉をなだめる申歩先生は続けて理由を話し始めた。
「そりゃ、双葉先生は高等部の先生ですよ? 頼むのも可笑しな話です。ですが、これは言わば見回りなんです。部活中サボっている人はいないのか、それを確認する義務もあるのです!!」
「はぁ、まぁそれはそうですね」
「でしょう? あと、教室の無断使用を見る役割もあります!!」
言ってる事は理解は出来る。けれど、それは申歩先生自らやればいい事なのでは? と思った時。
「私は、忙しいんですよー!! テスト作成に色々とっ。だから変わりにやってくれる人、じゃなかった。この大役を引き受けてくれる都合のいい人を探してたんです」
「…………なるほど」
もはや、私情が隠しきれていない理由を話し頭を下げてきた。正直言うと双葉だって部活のことがあるから引き受けにくい……のだが、彼女に天啓が降りた。
(まって、空き教室の確認ということは。そこって……誰も使っていないのよね?)
わざわざ思考する事ではないが、そう言う事になる。思わず口元が緩みそうになるのを堪えつつ、双葉は「はぁ……」と深いため息をつく。
いかにも面倒だなぁ、やりたくないなぁと言う雰囲気をフルにだして。
「仕方ないわね、見てきてあげるわよ」
「ほ、ほんとですか!!」
「えぇ」
「やっ、やった。ありがとうございますっ。こ、こんど何か甘いものを奢りますね」
するとどうだろう、申歩先生は目を輝かし双葉の両手を掴みブンブン上下に奮ったあと小走りで職員室を出て行った。
なんというか、騒がしい先生であった。
(甘い物よりこってりしたモノが嬉しいのだけど……。まぁ、いいわ)
今度は本当のため息を吐きつつ、双葉はこれからの準備を進めるのであった。
◇◇◇
「と、言うわけだから。先生は頼まれた見回りにいきます。くれぐれもサボることの無いように」
「「はいっ!!」」
「撮った写真は後ほど発表してもらいますからね?」
「「はいッッ!!」」
と、まぁそんな事情があり。双葉は顧問を受け持っている写真部の面々に事情を話したあと……例の空き教室へと歩いていく。
見回りなら必要のない大きなカバンを持ちながら。
(正直、後ろめたさはあるけれど。やはり放課後の教室というフィールドとバレてはいけないシュチュエーションが私が推してるアニメキャラの雰囲気を楽しめるのよ)
薄ら笑いを浮かべる双葉の足取りはいつもより軽い。普段隠している自分の趣味、存分に楽しむ為なら少々危ないことだってやっちゃう双葉の気分は意気揚々である。
(今日は推しアニメである"漆黒の乙女達"のクロゥズ・キャットのコスプレよ。シンプルな黒のスニーキングスーツに潜入には明らかに不向きな黒マントがステキなクールなキャラよ)
歩いている合間は推しキャラの魅力を脳内で語っていく。因みに双葉が言う"漆黒ノ乙女達"と言う漫画はアニメ化もされている緊張感たっぷり美人美少女が登場するGL有りの潜入アクションアニメである。
その、クロゥズ・キャットと言うのは作中1番の高身長でありクールなレディ。潜入部隊についているが、本当の姿は大学生である。名前も別にあるが明かされてはいない。
長く美しい髪は主人公サイドのキャラ全員を魅了しているが……潜入以外ではかなり弱気であり弄られキャラでもある。
そのギャップに双葉は惚れた。因みに武器は爪。あとマントで敵の攻撃を全部反らしたり跳ね返したりすると言うチートな能力を持ってたりする。
まぁ……それは置いておき。
「着いた。ここがその空き教室ね」
双葉は空き教室にたどり着いた。この合間にクロゥズ・キャットの魅力を永遠に語った。
(先日は別キャラを演じたから、今日は切り替えないと。クロゥズ・キャット……潜入時は普段のお淑やかさとは違って荒っぽくなるのよね)
だが、この時点でも脳内魅力語りは止まらない。早々に教室に入り扉を閉め、窓が施錠しているかを確認しカーテンをしめ。
カバンの中に入っている衣装を取り出し着替える!! この時、双葉の特技が発動する。
バレてはいけないが為に双葉は早着替えを体得しているのだ。スニーキングスーツと言う着替えにくい服なのに、早々に着替えマントを装着し、自ら作ったクロゥズ・キャットの武器である爪を装備し……キャラに憑依する!!
「潜たぜ、悪党共の住処によぉ。今日も暴れ散らかしてやるっ。アタシは夜の暴れる虎だ!!」
そして決め台詞を叫んだ。その瞬間……ッッ。
ガララ……ッッ!!
「さぁ、きょうもコソ練しますわよっ。……って、ぇ」
誰かが空き教室の扉を開いた!! その刹那。その生徒は双葉に目がいく。この瞬間、2人の間に強烈な緊張感が走る!!
(……ッッ!! ぁ゛ッッ、しまっ)
ヤバいと思った時にはもう遅い。完全に姿を見られてしまった双葉。そして双葉を見た生徒はと言うと。
「な、なんですの。誰ですのこの方はァァァッッ!! 不審者? 不審者ですの?」
盛大に慌てていた。しかもその生徒は……お嬢様っぽいけどお嬢様ではない普通の女の子、輝竜院 白鳳。
彼女はダンス部であり、こっそり練習をしたく此処に来たのだが……奇跡的に出会ってしまったのだ。コスプレをした双葉に。
さぁッッ、突如訪れた目も当てられない痛々しい雰囲気と状況下の中。人一倍慌ただしい気持ちになっている双葉の……見苦しい言い訳大会が今、始まった。
お待たせしてすみません。でも次の話も遅くなってしまいます。確実に書こうと思いますので、待っていただければと思います。よろしくお願いします。