2話
「さぁ、皆々様。このわたくし輝竜院白鳳が来ましてよ」
シュバッと、腰に手を当て、口に手をかざすと言う気品溢れるお嬢様っぽい決めポーズをしながら、星花女子学園の庭で声高らかに話す女子生徒がいた。
「きゃー。白鳳さまぁぁっ」
「お約束通り、私達と帰って下さるのですね?」
その娘は気品に溢れており、煌びやかな光を放っている様なお嬢様オーラを出していた。
「えぇ、もちろんですわ。共に下校の時間を過ごしましょう」
ふぁさっと、髪の毛を靡かせるだけで絵になるその娘の名は。輝竜院白鳳。
星花女子学園中等部の3年2組の生徒である。小柄な体格ながら、お嬢様オーラを出せる彼女はかなりのお嬢様力を持つ生徒。
皆からは尊敬の眼差しを浴びせられ、クラスの人気者である。放課後、ないしは部活終わりになると、ルームメイトや同じ部活のメンバーと帰る事が多い。
「あぁ、感激っ。白鳳様とあろうお方が私達のような一般生徒と帰ってくださるなんて……」
「涙が出そう」
こんなお嬢様オーラ全開の人と下校できる感激は相当なものなのか、言葉通り本当に泣き始めるクラスメイト達。
「白鳳様、普段はベンツで送迎してらっしゃるのに。わざわざ共に下校してくださるのは、感動しかありません」
「……お、おほほほ。な、泣く程の事じゃ無い気がしますわよ? って、リムジン!?」
「私達のような一般市民とも交流を欠かさない、白鳳様は天使の心を持つ乙女です!!」
彼女達の白鳳に対する信仰心じみた振る舞いはちょっぴり怖い。若干引いていると、彼女達は勢いが衰えること無く、共に歩きながらキラキラした目を向けてくる。
「あぁぁ、きっと将来は人々の上に立つ人になるんだわ」
「歌を歌えば動物達でさえ心癒され、料理を作れば誰しも舌づつみをうち……」
「総理大臣になれば、将来は安泰です!!」
「え゛っ、ぁっ、ちょ。それは大袈裟ではなくって?」
流石に焦る白鳳は、そういうも生徒達は全力で首を横に振った。まるで、そんな事はないと言いたげに。
過大評価が過ぎる、一体白鳳の事をなんだと思っているのだろう?
「そんな事ありません、これは確定された未来なんですよ」
「白鳳様は自分を過小評価し過ぎです」
……実際に言われてしまった後、白鳳はかなり困ってしまった。取り敢えず誤魔化すように苦笑した後。
「お、おほほほほ。そ、そう言うのであれば……わたくし輝竜院 白鳳は誇りに思わせて頂きますわ」
こう言うしかなかった。なんと言うか、クラスメイト達の圧が強い。いつもいつも白鳳に集まる人達は兎に角彼女を慕う。
嬉しいけれど、ちょっぴり困ってしまうけれど気持ちを裏切れない優しい白鳳は高らかに笑ってみせた。
これが、輝竜院 白鳳の下校風景……。ちょっぴり騒がしい時間なのである。
◇
そんな楽しい下校時間から少し経った頃……。白鳳はクラスメイト達と別れ、1人電車に乗っていた。
(……ふぅ、漸く静かになりましたわ)
電車に揺られ、ぼーっとしながら景色を眺める。通り過ぎていくビルや建物を棒人間が走っていくのを想像しながら楽しみつつ、先程のことを思い返した。
(登下校はベンツで送迎。ワタクシが言ったこととは言え。流石に有り得ない事をいってしまいましたわ)
お嬢様と言えばベンツ、ベンツと言えばお嬢様。そう言ってもいい程、ベンツ送迎がクラスメイト達に浸透してしまっている。
いつの日だったか、白鳳が言ってしまったのだ。
『わ、わたくし輝竜院 白鳳は以前、べ……ベンツで送迎されてましたのよ? おーほほほほほほ』
なぜそんな事を言ってしまったのかは、別の話になるだが……。そんな事を思い返せば苦笑いしてしまうものだ。
(あぁぁ、どんどんわたくしはお嬢様と言う認識が止まりませんわね)
本来はベンツで送迎なんて全くせず、自ら電車に乗り1時間揺られて登下校している。
(と言うか。どうしてこうなりましたの!! 訳が分かりませんことよ)
電車の中なので騒げないが、内心騒ぎたい気分だ。何故ならば、輝竜院 白鳳は大きな悩みを抱えているから。
(いえ、理由は分かっていますのよ? 分かっているのよ!! 全ては、全てはわたくしが原因ですのよー)
表情こそ変えないが、白鳳は心の中で泣いている。此処が自宅であれば、お布団で転げ回っていただろう。
そんな彼女の悩みとは……。
(は、初めから正直に言えばよかったんですわ。こんな名前だけれど、わたくしは一般市民ですと!!)
ファビュラスでエレガントな輝竜院 白鳳と言う氏名により、クラスメイト達が白鳳の事をお嬢様だと思っている事だ。
これに彼女は安易にも『まぁ、最初だけイメージに合わせておけば』と思ってしまい、普段はしなかったお嬢様口調で皆接し続けた結果……。
引っ込みがつかなくなってしまった。
(くっ。どこで、何処で止めれば良かったのですの? このお嬢様口調から? そ、それとも……お嬢様的仕草? あぁ、もう分かりませんわ!!)
しかも、やり続けたお嬢様的仕草や口調はすっかり心と体に染み付いてしまい抜けなくなってしまうと言う悩みもある。
白鳳は一般市民であり、なんと庶民派豚骨ラーメン"ラーメン輝竜"の長女なのだ。
(あまりにも自業自得すぎて涙すら出ませんわ。ちょっと乗っかったつもりなのに、こんな事になるなんて、想像出来なかったですわ)
どんどん自分の黒い歴史を作っているみたいで嫌になる。いつか、正直に言わないと……とは思うけど。いざとなると言い出せない。
(うぅ、こんな時……どうすれば良いんですの? いつかバレると思うと、気が気じゃ無いですわよっ)
心の中で『アァァァァ!!』と叫び、悩み隠れて苦しむ白鳳は……嘆いてしまう。出来ることなら……20歳になるまでは、このお嬢様口調をどうにかしたいと、思うのであった。
お待たせしました。
次回も、かなりお待たせさせてしまいます。申し訳ございません。