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10話

 双葉がテンション高くマシンガントークを続けてソレが終わるのにそんなに時間は掛からなかった。


「はっ。わ、私は一体なにを……」


途中でハッとなった双葉は、瞬時に顔を真っ赤にして顔を伏せて謝った。


「……っ。ご、ごめんなさい。ちょっと、その。少しだけ熱が入ってしまったわ」

「あ、その。お気になさらずに」


 冷静さを取り戻した双葉は、頭を下げて謝った後。白鳳は笑顔を見せて小さく手を振った。その時、"少しだけ?"なぁんて思ってしまったのは秘密。

 敢えて突っ込まないでおいた、だって言えば双葉は赤面して土下座でもしてきそうだから……。


「で、でも。輝竜院さん、どうして急にコスプレをするって言ったの? 本当に興味が出てきた……とか?」

「えと。興味というか、なんと言ったら良いのでしょう」

「あ、言い辛い事だったら無理に言わなくても……」

「いえ、そんなのじゃありませんの」


 なんにせよ、双葉は嬉しく思う。だって生まれて初めて自分以外の人から"コスプレ"と言う言葉を聞いてテンションが上がった。

 けれど、白鳳が突然"コスプレをしたい"と言った理由はなんなのだろう? 双葉は少し考えてみたけれど検討もつかない。


 白鳳はちょっとだけ恥ずかしそうな仕草を見せたあと意を決したのか前のめり気味に話し出した。


「ワタクシ思ったのです、他者の悩みを何とかしようと思った時は、その人に寄り添う事だとっ」

「な、なるほど。とても良い考えだと思うわ」

「そこで、ワタクシがコスプレをする事で先生が抱えている悩みを深く知る事が出来ると思ったんですわ」

「あ、あぁ。そう言う事」


 言ってることはとても素晴らしいと思うけど、かなり思い切った事をしようとしている。でも白鳳はキチンと理解しようとしてる事が良くわかる。

 純粋に嬉しい、あと白鳳がコスプレをしてくれれば生まれて初めて"2人で"コスプレを楽しむ事が出来るっ。


「ほ、ほら。よく聞きませんこと? 同じ趣味嗜好を楽しむ事で悩みや障害を乗り越えられると」

「まぁ、ソレはよく聞くわね」

「だからこそ、一緒に楽しむんですのっ。そうしたらまだ見えていない景色が見えると思ったんですわ」


 フンスッと、可愛らしく鼻息を鳴らす白鳳はやる気いっぱい。ここまで考えて意見を言ってくれると、やはり嬉しい……。

 他者の悩みにここまで本気になってくれるだなんて、双葉は感謝の気持ちと尊敬の気持ちでいっぱいになり、自然と微笑んだ。


「そ、それと。じゅ、純粋にコスプレがどういう物なのかが気になったんですの。だ、だって薄木先生はスゴくキャラになり切っていて楽しんでいましたもの」

「ッッ!? き、輝竜院さん。そ、それはあんまり言わないで」

「ッッ。ご、ごめんなさいですわ」


 と、ここで先日の恥態に触れられてしまった。あれは言い訳する為にキャラになり切っただけ。だからキラキラと目を輝かして改めて言われるのは止めて欲しい。

 すんごく恥ずかしいから、もう忘れようと記憶から消していたのにっ。


「と、という事で、薄木先生。是非ワタクシと一緒にコスプレを致しませんこと? きっと何かが見えてくる筈ですわっ」

「そ、そうね。でも……えと、んー……」

「悩むのは分かりますわ。けれど、ここで1歩踏み出せばきっと前に進めるはずですの」


 さて、それはさておき。ここで大きな問題が出てきた。やはり生徒と深く係わってしまうと言う問題だ。でも、それは……。


(今更よね。もう輝竜院さんの家族とも顔を合わせてるもの)


 思い返せば充分に深く係わってしまっている気がしてならない。だとしたら、もう係わってしまっても良いのでは? と双葉は思ってしまう。というのも……。


(自らコスプレをしたいと言ってきたなら、やってみたいっ)


 輝竜院 白鳳、みれば見るほど色々なコスプレをさせたくなる人だ。既に色んな妄想が出てしまっている双葉は、その欲求が抑え切れない。


(そう、そうよ。あくまでお悩み解決の手段として協力してもらうんだから、それに応えないと教師として、いいえ人として駄目な気がする)


 取り敢えず、上手いように言い訳を重ねた双葉は。若干の後ろめたさを感じつつ白鳳の提案に乗ることにした。実を言うと合法的? に白鳳をコスプレ出来ちゃうから。


「分かったわ、お願いできる?」

「っ。任せてくださいましっ。ワタクシ輝竜院 白鳳、精一杯頑張りましてよ」


 白鳳は、「おーほっほっほっ」と笑った後。出てしまったお嬢様みたいな笑い方に恥ずかしくなり頬を赤く染めた。お嬢様口調をなんとかしたいと言った割にはノリノリだなぁ、と双葉は思ったけど口には出さないでおいた。

 だって可愛そうだもの。

 

「うん。私も好きを共有できるように頑張ってみるわ」

「その意気ですわっ。と、盛り上がったところで薄木先生、今度の休日に先生のところに向かわせて頂きますわね」

「え」

「恥ずかしいお話ですけど、コスプレ衣装は一着も持ってないんですわ。けれど、薄木先生は沢山持ってますわよね? なので是非ソレを貸していただきたく思いますの」

「え、え、え!!」


 と、そんな時だった。白鳳は怒涛の勢いでとんでも無い事を言い出した。休日、生徒と会うのはかなり不味いけれど、もう一度言おう双葉は白鳳にコスプレ出来る事を嬉しく思っている。


(私ってばかなり不味いことをしてるのに、断れないっ。ウ、ググググ)


 ダメなのは分かってる、でも、でも。一回だけなら良い……。と言う言い訳を盾に焦りを見せつつ双葉は顔を縦に振って応じた。


「あ、えと。分かったわ。沢山持っているから貸してあげる」

「良かったですの。では次の日曜日までに予定を立てましょう」

「は、はひっ」


 嬉しそうに微笑む白鳳を見てしまえば、なぜか激しく緊張してしまった。いけない事をする背徳感? それとも大好きなコスプレを初めて誰かと楽しむ事ができる高揚感……?

 よく分からないけど、双葉は存分にこの気持ちに浸ることにした。


(まさか大人になって、誰かと約束をして日曜日に会う約束をするだなんて)


 思い返せばコスプレにどっぷりとハマる前は、親に言われるがままに勉強漬けの毎日だった。その事に対して恨みや怒りはない。

 その中で自分で上手く調整できなかったのが悪いと双葉は思っているから。


 ……と過去の事はさておき。双葉と白鳳は熱心に話し合った。年の離れた2人はまるで同級生で且つ親友であるかの様に話し合い、予定を立てた。





 と、まぁそんなやり取りがあっての日曜日。双葉は白鳳と連絡を取り合い……白鳳を自宅へと招いた。


「い、いらっしゃい。今日はゆっくりして良いからね」

「はいっ。今日はよろしくお願いしますわ」


 双葉の家は小さな一軒家。シンプルな家具を揃えた平凡な自宅だが。自室には沢山の衣装だながあり、色々なコスプレ衣装をキレイに収納してある。

 そんな家に生徒を招いた事実に双葉は今更気付き、玄関前でガチゴチに緊張して白鳳を迎えた。


「あ、おはようキリュウインさん。リビングにいってくれる? ここをまっすぐいけばつくわ」

「は、はい」


 喋り方もカタコトっぽいし、目線が常に泳ぎまくってる。家に招く前は楽しんでいたのに、いざ白鳳を招けばコレだ。

 どれだけ他者を家に招くのに慣れていないんだと双葉は突っ込んだ。


(あぁぁぁぁ、生徒がいる。私の家にいるっ。え、え、え、え、どうする? どうすればいい? お茶とか用意すれば良いのかしら)


 テンションが変になった双葉は困惑し、頭を抱えて妙なステップを踏んだ。でも生徒の前だから何とか冷静さを取り戻した双葉は同じくリビングへと向かった。


「輝竜院さん、きょうはきてくれてありがとう」

「は、はい。あの、薄木先生? そんなに緊張しなくてもよいですわよ」

「きんちょーなんて、してないわ。きのせいよ」


 と言いつつ、双葉は白鳳がいないあらぬ方向を見て話している。これが長年人と友好的な関わりを持っていない人……。

 教師として人と接する時はこんな事にはならないのに、それ以外だとこんな風になってしまう。


「え、えと。取り敢えず……本題に入ってもよろしいかしら」

「はは、はい」


 本来なら教師である双葉が話を切り出した方が良いのに、今のところ白鳳に任せっきり。これじゃぁいけない、と思ったのか聞くのはキチンとしようと双葉は思った。


「今日のコスプレは言わば薄木先生が好きの共有をする為の第一歩。私にコスプレをする事でその素晴らしさをワタクシに教えて下さいましっ」


 今初めて聞いた、白鳳がコスプレをする理由。好きの共有に慣れてもらうための第一歩。そんな事、したことが無い白鳳は頭が真っ白になってしまう。

 緊張に加え焦りが出てきた双葉だが、ここまでされたら引くことなど出来ない。


 というか、この状況は何なのだろう? 生徒にコスプレ? これは事案なのでは無いだろうか。あと、こんな事を思いついちゃう白鳳は少々飛び抜けた思考の持ち主かも知れない。

 否……良く考えて見ると"世間を知らないお嬢様が考えた常識外れな提案"と考えれば可愛げがあるかも知れない。


「わ、分かったわ。輝竜院さんに教えてあげる。で、でも説明するより実際に着てみた方が早いと思うの。だから衣装を幾つか持ってくるわ」

「はいっ。どんな感じにするかは薄木先生におまかせ致します」


 なんにせよ、思いついた事をやってみる!! コスプレの説明は正直上手く出来る自信が無い双葉は……なるようになれ!! な気持ちで大いなる不安を抱えて白鳳をコスプレさせる事にした。


 次のお話も遅くなってしまいます。申し訳ございません。

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