第43話 到着6日目・朝その4
『左翼の塔』入り口の扉のところでジニアスさんが扉を開けたままにする押さえ役を買って出てくれました。
そして、『左翼の塔』1階の扉を開き、塔の中に入った私とコンジ先生です。
まずは、螺旋階段をぐるりと登っていき、1階から2階、2階から3階、そして3階から4階へと続く階段のところで足を止めました。
その壁面に飾っている絵画を横目に見ながら、階段を上りました。
塔の壁に飾ってある絵は、有名なミケネコランジェロやラファエロスの作品で、この館に来た初日に見た時は圧倒され、感動しました……。
その圧倒的な存在感と、神々しさはまさに宗教画の名画たる威厳を堂々としていたのです。
ミケネコランジェロの『マンチェスターの聖猫』や、『キリストの飼い猫の埋葬』、ラファエロスの『聖母の結婚初夜』に『大公の聖母の入浴』、それに『美しき女庭師の水浴び』などなど、学校の教科書でも見たことがある名画が飾ってあるのです。
また、中央には『ダビデと巨像』で彫刻でも有名なミケネコランジェロの巨大な彫刻『ソバカスのバッカス像』が悠然と立っていた。
「やっぱ、すごい絵画だけど……。今は見てる場合じゃないよね?」
「そうだな! 本来はゆっくりと鑑賞していたいところだがな……。」
しかし、今は、その飾ってある作品群をゆっくり鑑賞している余裕はないのです。
塔の上階に向かって螺旋状に伸びている時計回りの階段の左側の壁に沿って、展開されていた。
ここにある絵画を説明してくれたビジューさんも今はもういない……。
1階の入り口を除けば、3階だけ扉がある。
まあ、もちろん、3階の扉は鍵がかかっていて、固く閉ざされていると予想していました。
構造から考えて、3階のその扉の先の部屋は、ママハッハさんの部屋になります。
ママハッハさんの部屋側からだとロックを外して簡単に出られるようになっているのですが、それが、なんと……。
塔側に面したママハッハさんの部屋の扉は開きっぱなしになっていたのでした!
コンジ先生は素早く部屋の中に踏み込みました。
「ジョシュア! まだ部屋に入ってこなくていい!」
先に部屋に入ったコンジ先生が私に向かってそう叫んだ。
「部屋の中は、ど……、どうなっているんですか?」
私はコンジ先生に聞いてみた。
「ああ……。ひどい状況だよ……。ジョシュア、ジニアスさんのところに行って、ジェニー警視を呼んできてくれ……。シュジイ医師にもジジョーノさんの検死が済めばこっちに来るように言ってくれ。」
「わ、わかりました。コンジ先生も気をつけてくださいね。」
「ああ……。」
こうして、私は塔の螺旋階段を今度は下りていき、入り口のところのジニアスさんに、そのことを簡単に伝えて、ジェニー警視を呼びに向かいました。
シュジイ医師はまだ検死中だったので、後から来るように伝え、私とジェニー警視はすぐに、一緒に階下に降りて、『左翼の塔』に来ました。
ジニアスさんには悪いけど、また扉の係を続けてもらい、私とジェニー警視はそのままコンジ先生の待つ3階のママハッハさんの部屋に行きました。
ママハッハさんの部屋に入ると、すぐに異常に気が付きました。
部屋の中は、どす黒い赤ー!!
血の飛沫が部屋中に、飛び散っていたのだ。
ママハッハさん……らしき物体が、ベッドの上に散らかっており、もう一人(?)と思われる死体が、床の上に転がっていた。
ベッドの上の物体は、四肢が引きちぎられ、数個の塊になっていたから、物体としてしか見えなかったのです。
しかし、それは明らかに人間でした。
なぜ、それがわかったか……ですって?
それは、首がこちらを向いていたからです。
目が開きっぱなしで、こちらを向いていて、ちょうど扉から入ったところで、その目と私の目が合ったのです……。
ママハッハさんに間違いありませんでした。
「床の上の死体は……、アネノさん……で間違いないな?」
コンジ先生は、すでに床の上に転がっている死体を検分していたようです。
「うむ。間違いないようだな。キノノウくん。これを見ろ?」
青と白のドレスが、どす黒い赤で染まり、金髪の美しかった髪がべっとりとした焦げ茶色で固まっていたのだ。
だが、その派手な衣装はアネノさんで間違いないようです。
「ええ……。左手中指にしているこの指輪は、僕たちがこの館に到着した日にアネノさんがしていたものと同一のものです。間違いないでしょう……。」
そうです。
なぜ、顔で判断せずに、その身にまとっている服装やアクセサリーで確認しているのか?
それは、アネノさんの顔は、肉食獣にかじられた草食動物の死骸のように、食いちぎられていて、見分けはつかなくなってしまっていたからなのでした。
****
その後、シュジイ医師もママハッハさんの部屋にやってきて、検死を始めました。
ジジョーノさんについては検死が終わったようで、その結果をコンジ先生とジェニー警視に伝えていました。
そして、その後、ジェニー警視とコンジ先生と私の三人はいったん、部屋の外に出て、螺旋階段の上を見上げていました。
それは……。
アレクサンダー神父のことでした。
今朝から姿が見当たりません。
アレクサンダー神父自身の部屋も宛てがわれていたのですが、神父さんはずっとこの『左翼の塔』の5階で祈祷をされていたのです。
ただし、昨日朝にシープさんが殺されたことが判明し、その際は代わりにジェニー警視が『左翼の塔』に迎えに行ったのでした。
ですから、昨夜は自室にいたのかと思いきや、さきほどジニアスさんとスエノさんを呼びに行った時に、コンジ先生は神父さんの部屋も確認していたのです。
神父さんは自室にはいなかったということでした。
昨夜も祈祷をしていたのでしょうか……?
私たちは、『左翼の塔』の5階に向かって、螺旋階段を上っていったのです。
5階から薄明かりが漏れ出ていた……。
5階に上がってみると、奥に荘厳で見事なアンチャン・ガーデンの制作ステンドグラスがあった。
それは相変わらず、色彩溢れるステンドグラスに負けず劣らずの瞑想の世界に誘われる美しさで、やはり、圧倒されてしまいます。
しかし、そこに、神父さんの姿は見当たりませんでした……。
「アレクサンダー神父……。ここにもいないのか……。」
「キノノウくん……。まさかとは思うけど、アレクサンダー神父が人狼だったのではないか?」
「ふむ……。今の時点ではわかりませんね。だが、ママハッハさんとアネノさんを殺害した人狼は、『左翼の塔』の中から、ママハッハさんの部屋に侵入したのは間違いありません。その時、もし、神父がここにいたのなら……、人狼に気が付かなかったはずはないでしょう……。」
ふと、アレクサンダー神父の祈祷していたであろう祭壇のところに何か手紙のようなものが置いてあるのが見えた。
コンジ先生がそれを拾い上げ、読み始めた。
ジェニー警視と私もそれを覗き込み、一緒に読んだのだ。
それは、まさに、殺人の告白……、自白の内容だったのです!
~~アレクサンダー神父の手紙~~
ワタシ、アレクサンダーは、ここに真実を記す。
やはり、昨夜のバトラー・シープの殺害は“強欲”の大罪を犯したので間違いないデショウ。
初日のミスター・アイティ殺害は1階ホールに堂々と殺害を知らしめようと“傲慢”であったのデスネ。
続いてのミスター・カン、マダム・エラリーン殺害は、ミス・ジジョーノに化けた人狼が“嫉妬”したのデス……。
さらなる悲劇のミスター・イーロウとサー・パパデスは、“憤怒”の気持ちが抑えきれなかったのデショウ!
次のバトラー・シープ殺害が“強欲”というコト……。
そして……。
今、ワタシの心のうちに湧き上がるこの大いなる罪の感情は、“怠惰”……でアル。
ワタシは神に仕える身でありながら、堕落してしまったのデス……。
主よ! 罪深き子羊……、いえ、人狼をお許しクダサイ!
~~神父の手紙より~~
手紙には、そう書かれてありました。
やはり……。
人狼の正体は、アレクサンダー神父だったようです。
昨夜、ママハッハさんやアネノさんをその手にかけたのは、神父さんに化けた人狼だったんですね…‥。
塔の中のこの部屋には、窓の外から雪の風巻く音が、ただ、ゴォゴォと響いていたのでしたー。
~続く~
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