第32話 到着5日目・昼その2
『左翼の塔』1階は階段の間から塔の方へ向かって左側に、トイレ、物置、男性用浴場、女性用浴場と続いていて、塔に向かって右側に、エレベータールーム、アネノさんのクローゼット、ママハッハさんのクローゼットと並んでいます。
コンジ先生たちは手前のトイレから確認していきます。
外にビジューさん、ジニアスさん、スエノさんが待機し、ジェニー警視とコンジ先生が中の探索に当たります。
トイレの個室もこの際は気にしていられません。
要チェックです。
用具入れも確認しましたが、何も見つけられませんでした。
エレベーターは動かされた様子はなく、1階にとどまっていました。
物置も念入りに中を確認しましたが、ネズミ一匹いませんでした。
さらに、男性用浴場、女性用浴場と続いて確認しましたが、何の影も見当たりません。
続いて、アネノさんとママハッハさんのクローゼットルームも、手分けして誰か隠れていないか確認しました……。
が、誰の姿も見つけることは出来ませんでした。
塔の扉は鍵がかかっています。
この鍵はシープさんが持っていたはず……。
まさか……!?
この扉の向こうに……?
「ん? シープさんは? いないのか……!?」
ジェニー警視がここでシープさんの姿を探したが、いなかったのだ。
「まだ、起きてきていないのか?」
ジニアスさんも何とはなしに疑問を口にする。
「うう……。ちょっとワタクシは熱っぽい。部屋に解熱剤があるから飲んでくるわい。」
ガウンを羽織っただけのビジューさんがそう言って、部屋に戻っていく。
「あの……、私がシープを呼びに行きましょうか?」
スエノさんがそう進言をする。
たしかに、ここで追い詰めたはずの人狼を監視を外してしまえば、逃げられてしまうかも知れません。
「わかりました。では、ジェニー警視とジニアスさんはここに残って警戒していてください。僕とスエノさんでシープさんを呼んできましょう。ついでに、メッシュさんの様子も確かめてきますよ。」
「ああ。わかった。キノノウ君。頼む。」
ジェニー警視とジニアスさんを『左翼の塔』側1階の階段の間に残し、コンジ先生とスエノさんは玄関ホールを通って、『右翼の塔』側へ移動する。
廊下でシュジイ医師がメッシュさんの様子を見ているのが見えた。
「メッシュさんの様態はどうですか!?」
「おお! キノノウ様。うん。まあ、命に別状はないようです。ただ少し出血が多いので、今、止血をしています。」
「そうですか……。それは不幸中の幸いでしたね。」
「僕たちはシープさんを呼んできますので少しそのままメッシュさんを診ていてもらえますか?」
「もちろんです。」
こうして、3階のシープさんの部屋に向かったコンジ先生とスエノさんでしたが、シープさんは呼べど叫べど部屋から出てきませんでした。
そして、この後、コンジ先生とスエノさんが二人で2階の私、ジョシュアの部屋を訪ね、私を起こしてくれたというわけなのです。
「ジョシュア! 君! 早く起きるんだ! 狼が出たぞお!」
「はぁい……。はいはい! それ、なんだか昔話の嘘つき少年みたいな言い方じゃあないですか?」
私は寝ぼけ眼ではありましたが、事情を聞いて、すぐに着替えて、私は部屋を飛び出しました。
その後シープさんの部屋を無理やりこじ開けて中に入った私たち。
なんと、シープさんの机の上には、『左翼の塔』の鍵が置いてあったのです。
つまり、あの『左翼の塔』側1階で、見失った人狼は塔の中に逃げたわけではないということ……。
こつ然と姿を消してしまったというわけなのです。
****
メッシュさんの様子を見に、今一度1階に下りた私たちでしたが、メッシュさんの怪我が思ったよりも重傷のようでした。
しかし、意識はしっかりしていて、メッシュさんは次のように証言をしてくれたのです。
「キノノウ様とジェニー警視と見回りの後、別れ、あっしはキッチンに向かおうとしました。すると、『右翼の塔』の扉が少し開いているのに気がついたのです……。」
「なんだって!?」
「まあまあ、ジェニー警視。最後まで話しを聞きましょう。」
「ん……、ああ、そうだな。すまん、とりみだした。」
「そうしたら、あの化け物が……! 襲ってきたんです! ものすごい勢いで! ヤツはあの『右翼の塔』に潜んでいたんですぜ!」
ということは……。
『右翼の塔』の中に誰かがひょっとして……。
「キノノウくん! すぐ『右翼の塔』を確認しよう!」
「そうですね! ジェニー警視! シュジイ医師! メッシュさんを頼みます!」
「はい。わかりました!」
すぐに『右翼の塔』の扉へ向かい、塔の中に入る。
メッシュさんが言った通り、鍵はかかっていなかった。
見ると、血の跡が地下室の階段の方から続いている。
地下室で誰かが襲われたのか……。
血の跡が、点々と……。
「ジョシュア! ジェニー警視! 一応、警戒だけは十分にな!」
コンジ先生が注意をする。
そろりそろりと、階段を下りていく私たち。
地下室の扉が開いていた。
「あ、あれは……!?」
ジェニー警視とコンジ先生が先に地下室をのぞいた。
私もその後に続き、中を見た。
地下室の中は、血の色で真っ赤に染まっていた。
血の赤、赤、赤ー。
壁や床に飛び散る血しぶき。
そして、床に横たわる無残な姿の男性……らしき人物。
「シープさんか……?」
間違いなくシープさんだった。
その喉は食い破られ、はらわたが引きちぎられ、手足はズタズタにされていた。
惨劇の地下室に孤独に、その床の中央に横たわっていたのだ。
「シープさんが殺された!? なぜこんなところで!?」
ジェニー警視がコンジ先生に思わず問いかけた。
「そうですね、どうやらシープさんは自らこの『右翼の塔』にやってきたのは間違いなさそうですね。」
コンジ先生がそう言う。
「え? それはいったいなぜですか?」
「なぜかは理由は今は断言は出来ないが、ほら? シープさんのポケットを見てご覧?」
シープさんの遺体の引きちぎられた服のポケットから、鍵の束が見えていたのだ。
「そう。この『右翼の塔』の鍵をシープさんは持っていた。つまり、シープさんは自らここにやってきたということだ。」
「キノノウくん。シュジイ医師を呼んでくるよ。」
「ああ。ジェニー警視。お願いします。」
残された私とコンジ先生。
私はふと疑問に思った。
「あれ? あの絵画って、ひょっとして……。」
「ああ。巨匠レオナルホド・ダ・ビュッフェの『モナリザの最後の晩餐』だな。」
その絵は神々しくもあり、モナリザの微笑がすべてを見通したかのように私たちを見守っていたのだ。
美しい……。
これが超一流の絵画というものなんだわ。
もしかしたら、人狼もこの絵に惹かれてこの地下室にやってきたのかしら?
そう思えるほど、この絵は私の心を掴んで離さないのでしたー。
その後、すぐにジェニー警視がシュジイ医師を連れてきました。
シュジイ医師の診立てでは、シープさんは死後、まだ1時間から2時間も経っていないとのことでした。
つまり、メッシュさんが襲われたその直前に、シープさんは殺されたのは間違いないでしょう。
しかし、その人狼はいったいどこへ消え失せてしまったというのでしょうか……。
吹雪の風の音だけが、私の耳に響いているのでしたー。
~続く~
いった人狼はどこへ消えてしまったのか……?
「続きが気になる!」
「犯人、当ててやる!」
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あっちゅまん