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想い出の先に  作者: 慶介
1/1

プロローグ

高校生をテーマとして、現実離れした恋愛を描こうと考えたら、このような作品になりました。

まだプロローグ段階ではありますが、更新を楽しみにしていただければ光栄です。

  これが現実だと、そう思いたくなかった。それでも体を打ち付ける雨の冷たさ、体の震えが全てを現実だと知らせ、俺の心を粉々に打ち砕いていった。認めたくない物、それが目の前で広がっている。

 皆川尚、それが彼女の名前。俺の名前は、保住(ほずみ)純平・・・。

「私はもう、順平の傍にいられない。最初からね、何とも思ってなかった。私はあなたを忘れるから、あなたも私を忘れて・・・。」

 俺の心を壊すように、その言葉は俺の胸に突き刺さった。それでも夢なんかじゃなく、現実。この体の震えも、雨の冷たさも何もかも・・・。


 また、あの日の夢を見た。その日から既に一週間、毎日その夢で起こされる。最悪の目覚め、それ以外の言葉は思い浮かばなかった。

「朝飯、作らないとな・・・。」

 高校生活も三年、もうすぐ卒業だ。一人暮らしなんて、それだけ続ければ嫌でも慣れてくるもんだ。そういえば朝、こうして朝食を作っていると・・・。

「おっはよ〜。」

 自然と、体がそれに反応してしまう。吹っ切れたと思っていたが、甘い。夢に見るという時点で、まだ引き摺っている事は明白なのに・・・。

「何だ、怜か・・・。何だ、こんな朝早く。」

 いきなり入ってきたのは、妹の保住怜。高校生だが、俺は一人暮らしをしていた。それでも家賃は自分で払っているし、小遣い等は一切断っている。経済的な負担、それだけは絶対にかけさせたくないと思っていたから。

「何だはないでしょ〜。可愛い妹が、こうやって会いに来てあげたんだよ?早起きしてまで様子を見に来る妹、健気だと思わない?」

 自分でそれを言ってたら、世話が無いな・・・。俺は軽くあしらってしまったが、内心はとても喜んでいる。一人でいると、悲しみに押しつぶされそうだったから。

「それより、だ。この時間に来てるって事は、朝飯まだだろ?簡単なのでよければ、今作ってるから少し待ってろ。」

 レストランでバイトしている為か、料理だけは上手くなっていると思う。まさかこいつ、朝飯目当てで来たわけじゃないだろうな・・・。

「うん。今日はお母さん、仕事で帰ってきてないんだ。お父さんは休みだからって、まだ寝てた。お兄ちゃんの所に来ないと、ご飯無いんだもん。」

 妹は、これでも高校二年。いい加減、料理の少しは勉強しろとは何度も言っている。だが、上達の具合は悲しいほどに遅い。未だにブロッコリーとカリフラワーが区別出来ず、かつ料理は直感でやる、などと言っているほどだ。先月だったか、バラエティー番組の罰ゲームに出ていた、ハバネロ入りチョコレートを実際に作った強敵だ。妹曰く、大人の味。子供には食べさせられないから、ある意味正しい・・・。

「お父さんね、あんまり顔に出さないんだけど・・・。お兄ちゃんが帰ってこないから、寂しそうなんだ。お母さんも、たまには帰ってくればいいのに、っていつも言ってるよ?」

 朝食を居間に運ぶと、怜が呟いた。俺に言ったんだろうが、保住家から遠ざかろうとしているのは、何となく感じ取っているんだろう。ささやくように、言っただけだった。

 俺は実家を紹介する時、実家ではなく保住家と呼んでいる。戸籍上では実家でも、実際は違うから。まだ幼稚園にも入る前の頃、俺は施設から引き取られた。妹の怜には病気療養で北海道にいたけど、最近になってこっちに戻った。そう教えたらしいが・・・。

「言っただろ、俺には俺の事情があるんだって。それよりさっさと食べて学校に行くぞ。洗い物する時間を考えたら、もうギリギリの時間なんだからな。」

 このアパートから学校まで、電車では二十分程かかる。更に駅から徒歩で十分もあるから、大体三十分は通学に必要だった。保住の家からは合計でも二十分なのだから、普通に考えれば一人暮らしはしなくてもいいが・・・。

「うん、分かった・・・。じゃあさ、アイロンは掛けておくね。どうせワイシャツ、しわくちゃなんでしょ?」

 押入れからアイロンを取り出し、座布団の上でアイロンを掛け始める。アイロン台なんて物は無いから、そうする他にないが・・・。やっている事が尚と重なり、また涙が零れそうになった。いい加減、吹っ切らないといけないのに・・・。


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