ビル
最初に取り掛かったのはやはりビル内だ。2階を隅々まで見て周り、特に何もなく、ギィ、と音をたてて1階から2階と全く同じ造りの階段をのぼった。
先頭から陽菜妃、舞那、ありす、歌鈴という順だ。なんだかんだ言いつつ陽菜妃と舞那は仲良くやっているらしく、言い合いながらも喧嘩はしない。それも今のところ、かも知れないが。
「3階」
先頭の陽菜妃がぼそ、と呟き、歌鈴は顔をあげた。
4人が横並びになり3階を見渡す。
壁や床は薄汚れ、椅子や机などが散乱している。ほんの8畳くらいの空間があった。もし先ほどの2階とこの3階が入れ替わっていても気づかない自信がある。それほど同じ状況だった。
「何もありませんね」
「そうだね……あ、でもまだ上があるよ」
「かと言って何もない気がするけど」
「行ってみないと分からない。たぶん、4階が最上階」
ありす、歌鈴、舞那、陽菜妃と言葉を掛け合った。
4人で会話が回ったのは初めてだと気づき、歌鈴は嬉しくなった。
陽菜妃、舞那、ありす、歌鈴とさっきと変わらぬ順番で4階への階段を上がっていく。ギィ、と音が立つのは変わらず、ジャンプでもしたら穴が空いてしまいそうだ。
「変わんない」
先頭を歩く陽菜妃が呟いた。歌鈴は3人の背の向こうを見たが、薄汚れた壁が見えるだけだった。
陽菜妃が4階フロアに足を踏み入れ、左側の壁、右側に広がる空間を見渡した。
──と。
「……」
「うっわ、何あれ!?」
「ふぁあ……」
「え?」
不可解な表情で右側を見つめる陽菜妃、驚きを見せる舞那、声にならない声を出すありす、素っ頓狂な声をあげる歌鈴。各々が反応を示した。
それは、あまりにも不自然だった。何処も彼処もボロボロで薄汚れていたビルに、こんなものがあるのだろうか。だが、実際に目の前にあるのだ。
そうだ。ゲームで見たことがある、と歌鈴は思い出した。歌鈴がプレイしているテレビゲームでこんなものが出てきた。
形の整った葉、太くしっかりとした幹、そのひとつひとつが鮮やかな輝きを放っていた。
しばらく見つめ、少しずつ木に向かっていった。
『葉を取ってください』
木に括り付けられた小さな紙を見つけた。
振り返って仲間に伝える。
「ねえ、これ……葉を取ってって」
歌鈴の言葉を聞いて3人が木に近寄り、その紙を確認した。
「なんか怖いです……」
「せーのでやってみようか」
「それがいいと思う」
3人がそれぞれ葉を手にしたことを確認して、歌鈴が合図を出した。
「じゃあ行くよ、せーのっ!」
歌鈴が取った葉を見ると、小さいが何やら文字が書かれている。書かれている、というより映されている、というべきか。葉が放つ淡い光よりもしっかりとした光が文字を作り出していた。
「『5秒見つめてください』……?」
歌鈴がそれを読むより先に舞那が口にした。
4人みんな、同じ文字が映されているようだ。
目を合わせ、4人を代表して陽菜妃がカウントする。
「1、2、3、4、5」
5秒から少しして、葉に映し出された文字が変わり、葉の色がじわじわと変わった。
歌鈴は黄色、ありすは碧色、舞那は黒色、陽菜妃は白色。裏返してみると小さく『a』と書かれていた。
そして。
「ねぇ、さっきまでこんなの無かったよね?」
舞那が指さした先の変化。
朽ちたテーブルの上に、綺麗な便箋が落ちていた。置かれていた、ではなく落ちていた。歌鈴がそう感じたのは、無いものがあるだなんておかしいと思っていたからだろうか。
舞那が拾い上げた便箋は薄い桃色で、規則的な小さな模様が描かれていた。至って普通の便箋だ。
「開けてみて」
「うん」
陽菜妃に言われ、舞那が便箋を開く。糊などはなかったらしく、スムーズに中の紙が取り出された。
「舞那、読んで」
「……全部?多くない?」
「全部」
「はぁい」
陽菜妃の圧に負けたのか、渋々と言ったように舞那が手紙を読み上げた。




