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ラスト・ゲーム(仮)  作者: 美坂結蘭
2/3

なかま

プロローグの続きです。



──────



「……っ!!」


突然頭がクラっとなって、身体前面に衝撃を受けた。ガンガンと痛みが響く頭で歌鈴は記憶を呼び起こす。

帰り道を歩いていて、ボールが落ちて、拾おうとして、自動車が……と、そこまで思い出して違和感に気がついた。

自動車にぶつかったのなら衝撃を受けるのは身体側面のはず。だが、現在ヒリヒリとした痛みを感じるのは身体前面。つまり顔面から転んだような体勢になっている。その体勢のまま両手足を動かしてみる。動いた。数ミリ開いていた口を閉じ、歯を噛み合せるとジャリ、と音がした。

土……?

歌鈴は恐る恐る四肢を自立させ、四つん這いになって顔をあげた。


「どこ、ここ……!?」


声を出すと口の中に残っていた砂利がまた音を出した。変な味がして、唾と一緒に吐き出す。

真っ直ぐ見た先にはどこまでも続く真っ直ぐな地平線。だだっ広い広場のようだ。

次に両サイドに顔を向ける。同じく真っ直ぐな地平線が見えた。

最後に後方。同じく真っ直ぐな地平線──ではなく。

原形は保っているものの、窓ガラスが全て割れ、中には様々な物が散乱している、廃ビルのような建物があった。

もう一度周りを見渡す。地平線。

そして廃ビルに目をやる。数歩歩けば触れることの出来る近さに廃ビルの外壁がある。4、5階はあるであろうそのビルは、いうまでもなく凄まじい圧を放っていた。

身体を起こし、自分の身なりを確認する。

結論からいうと、歌鈴の最新の記憶のままだった。学校の制服に鞄、すぐそばにテニスラケットのバッグもある。バッグのポケットをちら、と確認してみるとテニスボールが3つ。いつもは4つ入っているから、あの時落としたものは入っていない。

そこまで確認して、足を動かす。かなり前から気づいてはいたが、身体に特に負傷はないようだ。


「し、失礼しまーす……」


恐る恐るビルの中に足を踏み出した。

床や壁は薄汚れ、中には椅子や机などが散乱している。まさに廃墟。廃ビルだ。

階段を見つけ、こちらも恐る恐る上がっていく。ギィ、と音がして怯みそうになりながらも進む。当然手すりには錆がついているので触らない。

2階にたどり着くと微かに声が聞こえ、思わず身を潜めた。


「この状況、どういうことでしょう?」

「さっぱりわかんない。そっちは?」

「私も全然……気がついたらここにいて」


声を聞く限り人数は3人。歌鈴と同じ境遇のようだ。そう判断して今度は3人の容姿を見た。


「私たちに共通点とか……ないですよね?」


敬語で話す少女は小さい。ゆったりとしたワンピースを着ており、肩上で切り揃えられた少し明るい色のボブカットが可愛らしい。

両脇の少女たちより明らかに年下だが、ハキハキと喋っている。歌鈴は小学生の時のクラスメートを思い出した。誰にでも積極的に話しかけて、クラスに指示を出し、教師にも信頼されている優等生。

小さい少女は、そんな元クラスメートに似ていた。


「外見を見る限りなさそう。みんなバラバラ」


髪をいじりながらに話す少女は大きい。小さい少女の隣にいるからか、もともと大きいであろう身長がもっと大きく見える。ブレザーの制服を着ており、艶やかな黒髪が腰上まで伸びている。

目尻が少し下がっていて、優しい印象を受ける。


「なんなんだろう、これ」


のんびりと話す少女はずば抜けて美しい。どこかの国のお姫様のような、そんな雰囲気を纏っていた。隣の大きな少女の黒髪とは対照的に眩しい銀髪だ。白色のセーラー服を纏い、真っ白な天使のような印象を受ける。


「んー、私たちだけかな?」


ブレザー服の少女が言った。

それを聞いて歌鈴は声をかける。


「あの!私も、います」


「さっきまで盗み見、盗み聞きしていました」とも受け取れる発言に後ろめたさを覚えたが、ここでまた隠れるわけにはいかない。物陰から少女たちの方へと近づく。

数秒、数十秒と沈黙が続く。


「えと、1度自己紹介しましょうか。共通点とか、何かわかるかもですし」


小さな少女によって沈黙が破られ、歌鈴は胸を撫で下ろした。4人の少女は各々で腰掛けられそうなものを選び、腰をおろした。ブレザー服の少女は該当しそうなものが見つからなかったのか、その方が落ち着くのかは分からないが、薄汚れた床に座った。


「青峰ありすといいます。たぶん、1番年下です」


たぶん、というより絶対、ではないかと歌鈴は思ったが声には出さなかった。小さな少女──ありすは少しズレているのかもしれない。

ブレザーの少女が「ちなみに何年?」と聞くと、ありすは「小5です」と答えた。残りの2人を見たが、2人とも小学生とは思えない容姿なので、やっぱりな、と歌鈴は思った。


「次は私かな。私は黒巻舞那。一応高1やってます」


一応、という言葉のチョイスにも突っ込みたくなったがこちらも黙っておく。ブレザーの少女──舞那も少しズレていそうだ。


「灰谷陽菜妃。あなたの年齢をまだ聞いていないけど、今のところ1番年上。高校2年生」


スカートの裾を気にしながら話した美しい少女──陽菜妃は歌鈴の方を見た。続いてありす、舞那の視線を感じた歌鈴は座りなおし、自己紹介をする。


「私は黄月歌鈴。灰谷さんと同い年の高2だよ」

「別に陽菜妃でいい。タメなんだし」

「ぅあ、先輩2人〜」

「やはり私が1番年下でしたね」


舞那には「タメでいいよ、1つ違いだし」と言った。「私も」と陽菜妃も続く。舞那だけに言ったのはありすを差別するわけではなく、彼女は誰にでもさん付けする性格だと思ったからだ。


「…………何も分かりませんでしたね」

「分かったのは名前と学年だけ、特に共通点もなし」


ありすと舞那が嘆息混じりに呟いた。歌鈴もうなずく。


「ねえ、もっと動いてみない?」


未だにスカートの裾を気にしている陽菜妃が顔を上げて発した。みなの視線が陽菜妃に注目する。


「動く?うんど……」

「違う。探検っていうか、探索っていうか」


「運動?」と聞こうとしたところ、陽菜妃にバッサリと切られた舞那が少ししゅんとしたのが視界の端で見えた。


「この建物、少なくとも4階はあると思う。ここはまだ2階だし、あっち、見える?」


陽菜妃の指さした先を見て、各々が小さな声をあげた。ガラスを失った窓枠の向こうに、ぽつぽつと同じようなビルが見えたのだ。

ビルの入口は真逆の方面だから、歌鈴には見えなかったのも納得だ。


「とにかく周りのことを知ってみよう。環境もだけど……お互いのこと、も」


もちろん異論はなかった。


「ひなきーに任せとけば大丈夫な気がしてきた」

「……ひなきー?」

「陽菜妃だから、ひなきー。ダメ?」


馴れ馴れしくあだ名で呼んできた舞那を陽菜妃が静かに見つめる。そしてしばらくして


「ダサい」


と呟いた。歌鈴は笑って、ありすも笑っていた。

舞那と陽菜妃の容姿や話し方だけを見ると少し冷たそうな印象だが、意外と楽しい子かもしれない、と歌鈴は思った。

対するありすは小学生とは思えない言葉遣いや落ち着きようだが、やはり小学生だ。歌鈴は守ってあげなければ、と思った。


次回は探検(予定)

登場キャラは最終的にはもっと増えます。

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