平成最後の日に
日下部良介様の「さよなら平成企画」に参加~!
ギリギリセーフ~。
「平成が終っちゃうね」
テレビを見ていた彼女が、いきなりそう言った。俺は何を今更と思いながら、ポテチへと手を伸ばし、パリッと音をたてるようにして食べた。そうしたら、彼女が俺を睨んできた。
「ねえ、平成が終わってしまうんだよ」
もう一度言ってきた。
「だから、それがなんなわけ? 別に平成が終って令和になるからって、日常は変わらないだろう」
そう答えたら、不満そうな顔で彼女は言った。
「もう、なんでそうなのよ。いく平成に思いを馳せたっていいじゃない」
まーた、何かめんどくさいことを言いだしたと思って、彼女のことを横目に見てから、先ほどから見ていたユー〇〇―ブから検索画面に切り替えた。
「平成に思いを馳せるねえ。それじゃあ、平成は昭和六十四年一月七日に昭和天皇が崩御されたことにより、翌日の平成元年一月八日から始まった。平成天皇が生前退位されることになったから、本日平成三十一年四月三十日をもって終わる。これでいいか?」
俺の言葉に彼女はあんぐりと大きく口を開けた。それから、みるみる頬を大きく膨らませて睨み直して来た。
「なんなのよ、それは! 私が言いたいのはそんなことじゃないわよ」
そう言い放つと、プンと横を向いてしまった。
「じゃあ、何か? お前と会った大学の時のことでも、話せって?」
そう言ったら、キッと睨みつけられた。
「なによ、もう。本当に、ほんとう~に! 大っ嫌い! バカ~」
彼女の目にみるみる涙が盛り上がってきて、いかん、やり過ぎたと俺は思った。椅子から立ち上がり、キッチンへと行った。それから食器棚を開けて、目的の物を取り出した。それを掌の中に隠すように持つと、彼女のそばへと戻った。
彼女の隣に腰を下ろしたら、彼女は横目で俺のことを見た後、ツンと横を向いた。
「隣に来ないで、さっきみたいにパソコンと、お友達していればいいでしょう」
可愛くないことを言う彼女。ふき取ったようだけど、その目にはまだ涙が溜まっているのをみて、俺は申し訳なく思った。
「えーとさ、これを受け取って欲しいんだけど」
彼女の手をつかんで、その手に小さな箱を押し付けた。
「えっ。これって」
「嫌じゃなければ、一生一緒にいないか」
照れながらそう言ったら、彼女はその小さな箱を開けた。中には彼女の誕生石のサファイアのリングが入っていた。リングを見つめ彼女の目に、また涙が盛り上がってきた。
泣かれると、覚悟した俺に彼女はにっこり笑うと、グーパンチをボディにお見舞いしてきた。
「グウッ」
呻く俺の耳に彼女の声が聞こえてきた。
「遅い! なんで、今日なのよ。ねえ、判ってる? 今日で平成は終わっちゃうんだよ」
「……えーと、平成中にプロポーズして欲しかったんじゃないのか?」
「それだけなわけないじゃない。まあ、いいわ。これで十六時までにプロポーズしてくれなかったら、私から言うつもりだったもの」
それから、彼女は横に置いて於いた携帯を掴んだ(なぜか、充電中であるけど)。
「聞こえた? それじゃあ、最速で行くからよろしく!」
「「ラジャー」」
スピーカーから複数の声が聞こえて来た。
「へっ? えっと、何が?」
俺の疑問に彼女が答える前に、玄関のチャイムが鳴り、ついでドアが開いて人が数人入ってきた。
「お迎え、ご苦労さま! それじゃあ、行きましょうね」
「おお~、任せとけ!」
「あっ? なんでお前たちが? どこに行くんだよ~!」
この後のあれこれは悪夢としか思えなかった。連れ出された俺たちは、ワゴン車に乗せられた。着いた先は役所だった。先に用意されていた婚姻届に名前を書かされて、待っていたそれぞれの父親が署名をすると、無事に受理してもらえた。
それから、友人が勤めている写真屋に連れていかれて、ウエディングドレス姿の彼女とタキシード姿の俺の写真、それから両家の家族がそろった写真を撮った。
最後に連れていかれたのは、やはり友人が経営しているフレンチレストラン。そこで、結婚式&披露宴が行われたんだけど……こんなことなら、先に話してくれよな。
結局披露宴の間「さっさとプロポーズしない、お前が悪い」と、みんなに責められたのさ。
なんか納得いかないけど、それでも彼女が幸せそうに笑っていたから……まあ、いいか。
家に戻ってカレンダーを見て気がついた。今日って仏滅じゃんか。明日は大安だった。それなら、明日にして……って、言える状況ではない、のは分かっているさ。
「うふふっ。結婚がうまくいかなかったら、仏滅のせいにしようね」
そう笑う彼女に、何も言い返せない俺だった。
この話は平成31年4月30日の朝のワイドショー番組を見ていて浮かびました。
さて、いれられなかった設定のことを少々。
彼女は去年のうちからに「平成が終っちゃうね。何か忘れ物してない?」ということを、事あるごとにいっていました。(←これが本文に入れられなくて、痛恨のミスになりました。タイトルの意味の回収~)
というのも、彼女は平成中に結婚をしたかったのです。
でも、なかなか彼の踏ん切りがつかなくて、プロポーズをしてくれません。
なので、彼女は両家の親や友人たちに根回しをして準備を始めました。
でもね、ちゃんと彼の意向は聞いていたんだよ。
一応彼には「サプライズ的にパーティーをするのって、ありかな?」と聞き「う~ん、まあ、ありかな」と、返事をもらっていました。
というわけで、平成の最終日に、怒涛の婚姻届提出から、人前結婚式までの運びとなりました。
あと、もともと、いつプロポーズをもらっても大丈夫なように、四月三十日でレストランを押さえてはいたのよ。だって、仏滅なら、他の予約が入る訳はないものね。
彼のほうは、平成最後の日にプロポーズをしようと決めていました。
食器棚に婚約指輪を置いていたのは、彼女がそれを見つけて「ねえ、こんなものが食器棚にあったんだけど?」と、言ってくるのを待っていました。もちろん、彼女はそれを見つけたけど、彼が考えたことが判ったから、その手には乗らなかったけどね。
プロポーズの言葉は、本当はもっと他の言葉を考えていたけど、泣かせかけて動揺して、締まらない言葉になりました(笑)
で、この状況は、友人たちに携帯越しに聞かれていました。電源が切れないようにと、充電していたんだよ。
ということで、彼女の作戦勝ちでしたね!